HOME |福島沖での経産省主導の洋上風力発電開発事業、稼働率低く、全基撤退へ。 600億円の国費生かせず。三菱重工、日立、三井造船が製造元の3基。イノベーションリスクを露呈(各紙) |

福島沖での経産省主導の洋上風力発電開発事業、稼働率低く、全基撤退へ。 600億円の国費生かせず。三菱重工、日立、三井造船が製造元の3基。イノベーションリスクを露呈(各紙)

2020-12-13 21:21:53

fukushima0011キャプチャ

 各紙の報道によると、経済産業省の委託事業として、福島県沖で進められていた浮体式洋上風力発電事業が頓挫した。東京電力福島第一原発事故からの復興の象徴として合計約600億円を投じて官民連携で進めてきたが、採算が見込めず、民間譲渡もできないことから、建設した設備を全撤去する。経産省は「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」の実現に向けて「イノベーション促進」を強調しているが、同省の“目玉”事業の失敗で、イノベーションのリスクが顕在化したことになる。

 共同通信等が報道した。経産省は来年度予算の概算要求に撤去関連費50億円を盛り込んだという。事業失敗の始末に、50億円をかけることになる。与党税制調査会は先に2021年度の税制改正対応の柱となる「カーボンニュートラル税制」で洋上風力発電事業も税額控除の対象にするとした。建設コストを支援する目的だが、風力発電そのものの稼働率が低くては、税制支援もカラぶりになってしまう。

  同風力発電事業は、東電福島第一原発事故のあった2011年に、資源エネルギー庁が構想した。翌12年2月に、経産省の委託事業「福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業」としてスタート。丸紅がプロジェクトインテグレーター、東京大学がテクニカルアドバイザーとなり、三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド、三井造船、新日鐵住金、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研の各社がコンソーシアムを構成してきた。

洋上風力発電施設を移動させる作業
洋上風力発電施設を移動させる作業

 事業では、福島県楢葉町沖約20km付近に設置した風車3基と変電所を使って実証実験を進めてきた。しかし、3基のうち世界最大級の直径167mの羽根を持つ三菱重工製の1基(出力7000kW)については、機器の不具合で設備稼働率が約4%と極端に低く、採算が見込めないため、2018年に撤去が決まった。今回、残りの2基(出力5000kWと2000kW)についても稼働率があがらず、撤去されることになった。http://rief-jp.org/ct10/84074

 追加撤去が決まった2基の稼働率(2018年度)はそれぞれ約24%と約34%。報道によると、一般的な商用化の目安は30~35%以上とされる。一番小さな2000kWの分は商用化ギリギリのレベルだが、主要な他の2基の採算が見込めないことから全体を撤去することにしたようだ。一部の専門家は、風力発電の選定などに問題があったと指摘しているという。

 3基の風力発電機の製造元は、最大の7000kWが三菱重工、5000kWは日立製作所、2000kWは三井造船。日立は洋上変電所も担当した。日本の重工業主要メーカーが、そろって商用化が可能な性能水準に達することができなかったことになる。三菱重工は既に自社開発から撤退し、風力発電設備の世界最大手ヴェスタス(デンマーク)との連携によって、販売部門に徹している。日立も2019年に風力発電事業から撤退している。http://rief-jp.org/ct4/86526

 福島沖での洋上風力発電計画は、原発事故後の被災地の復興の象徴として新産業創出を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の目玉事業の一つ。福島県も関連事業に取り組んでいた。原発事故のどさくさに、経産省とエネ庁が技術開発についての甘い見通しのまま、「将来の明るい話題」づくりのために、洋上風力発電事業に多額の資金を投じた形でもある。その結末が「全基撤退」になったわけだ。

 報道では経産省の担当者は「事業のノウハウを蓄積でき、成果が得られた」と語ったとしている。「蓄積できた」というノウハウを、どこにどう生かすのかの「説明責任」を、この官庁は負っていることを、忘れないようにしたい。

                           (藤井良広)

https://rief-jp.org/ct10/48161

http://www.fukushima-forward.jp/pdf/pamphlet4.pdf

http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2012/07/0712.html