HOME10.電力・エネルギー |G7気候・エネルギー・環境相会合。「化石燃料の使用を段階的に廃止」との共同声明採択。廃止期限に言及せず。自動車の排ガス削減、再エネ発電量等は米欧の数値目標化を受け入れ(RIEF) |

G7気候・エネルギー・環境相会合。「化石燃料の使用を段階的に廃止」との共同声明採択。廃止期限に言及せず。自動車の排ガス削減、再エネ発電量等は米欧の数値目標化を受け入れ(RIEF)

2023-04-16 23:20:39

G7energyキャプチャ

 

 G7気候・エネルギー・環境大臣会合は16日、当初期待されていた新規の石炭火力発電への投資を2035年までに廃止するとの合意を薄め、期限を設けず「(石炭に加えて天然ガスを含む)化石燃料の使用を段階的に廃止する」とする共同声明を採択し、終了した。昨年のドイツでの同会合では、昨年末時点で新規の石炭火力発電への投資を停止する公約を盛り込んだが、今回の合意内容は対象をガス等も含める一方で、昨年の合意を事実上、棚上げする形での合意となった。一種の「グリーンウォッシュ・コミュニケ」だとの批判も出ている。

 

 (写真は、札幌で開いたG7気候・エネルギー・環境大臣会合の模様=日本経済新聞から)

 

 各紙の報道によると、共同声明には「削減対策なしの化石燃料の段階的廃止を加速するという世界的な努力の文脈でコミットメントを強調する」と記した。従来は段階的廃止の対象を石炭に限っていた。今回は「化石燃料」とし、天然ガス等にも広げた。石炭火力の廃止時期の明示は議長国日本が反対したため、期限を明記せず、範囲を化石燃料全体に広げることでバランスをとったといえる。

 

 天然ガスを段階的廃止の対象としたのは、国際エネルギー機関(IEA)が「1.5℃目標」を実現するには、(石炭火力の稼働廃止だけでなく)天然ガスについても新たなガス田の開発は行わず、すでに建設中のLNG(液化天然ガス)も稼働させるべきではない」と指摘したシナリオに準拠した形だ。ただし、「排出削減対策を講じているガス投資は潜在的な市場のエネルギー不足に対応するために適切」との表現も盛り込んだ。

 

 新規、および削減対策なしの石炭火力発電の廃止について、各国が議長国日本に配慮する形で、あいまいな表現となったが、ロイターの報道では、カナダの自然資源大臣のJonathan Wilkinson氏は「カナダのほか、英国、その他のG7諸国は、2030年までにそうした石炭火力発電の廃止を実現する。その他の国(日本等)は、どうやって対応するか試行中のようだ」と述べている。日本の脱炭素化がG7の中でも「劣後」していることが、むしろ再確認される形での修正劇だったともいえる。

 

 フランスのエネルギー相のAgnes Pannier-Runacher氏も「(化石燃料の段階的廃止の)表現は、われわれはもはや新規のガスの開発には投資しないということを意味するものだ。声明での修文は、議長国日本の立場を宥める(appease)ために工夫した」と記者に説明したという。ドイツのエネルギー副大臣のPatrick Graichen氏はG7声明のポジションを「注意深くバランスさせた」と明かした。

 

 化石燃料使用からの脱却については年限を示さず「段階的」とした一方で、G7諸国の保有自動車からの排出量については、2035年までに半減(2000年比)できるよう留意するとの年限を設定した。すでに自動車の明確な排出削減目標を打ち出している米欧の立場に沿ったものといえる。対策の遅れている日本が「毎年進捗状況を確認する」等の条件を加味して表現を柔軟化したとされる。

 

 自動車の場合、市場はグローバル化されているので、日本が期限の設定にこだわっても、国内市場に限定した対策でしかなく、自動車業界への影響は限られる。自動車メーカーも日本政府がグローバル市場に及ぼす政策の影響力を欠く以上、政府に頼るわけにはいかないのが実情のようだ。日本政府は今回の「2035年排出量半減合意」に整合するよう国内規制を迅速に整備することが求められる。

 

  共同声明では、2035年の温室効果ガス排出削減幅を「19年比60%減」とすることも盛り込んだ。日本は現在、30年目標を46%としており、その5年後に14%㌽の上乗せを公約したことになる。再生可能エネルギーについても、G7全体で洋上風力発電を2030年までにG7全体で150GWに、太陽光発電は1TGと現状の約3倍に拡大することも盛り込んだ。

 

 日本は現状の再エネ導入量自体が、米欧に比べて出遅れており、エネルギー基本計画での2030年時点の再エネ目標が発電全体の20~22%止まりという低水準。再エネの数値目標設定は、遅れている日本の再エネ市場を米欧に開くという意味合いが込められているともいえる。日本政府が国内での石炭火力発電の継続をひたすら守り抜く交渉を続けた一方で、国ごとの排出量、自動車、国内の再エネ市場等については、米欧の主張をことごとく飲まされた形だ。

 

 一方で、G7諸国の責務は、他の国々に先んじて、グローバル課題を克服する道筋を切り拓く点にあるとの理解が、米欧では一般的だ。だが、日本の政府関係者は、自国の旧来のエネルギー政策の不備による出遅れを糊塗することばかりに専念し、G7国としての決意も、プライドも、欠如したまま、今回の会合でも「防戦」に追われ続け、本来、産業政策として対応すべき自動車、再エネ事業等での対応も後手に回ってしまったといえそうだ。

 

 それでも日本のメディアによると、西村康稔経済産業相は会合後の記者会見で「世界中の国々にはそれぞれの経済事情やエネルギー事情がある。カーボンニュートラルへの道筋は多様であることを認めながら、共通のゴールであるネットゼロをめざすことが重要であると確認できた」と胸を張ったという。

 

 今回のG7共同声明が、自国の都合を優先した「グリーンウォッシュ・コミュニケ」とみなされると、中国、インド等の新興国、アジアやアフリカ等の途上国等の対応も微妙に変わってくる可能性がある。今後の、G20会議、9月の国連気候サミット、11月の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)等と続く一連のグローバル気候会議に及ぼす影響も懸念される。

 

  同会合の結論について、米環境NGOのOil Change Internationalの 国際公的資金キャンペーン担当のLaurie van der Burg氏は「ガスやLNGへの新たな投資への可能性を残せば、G7が1.5℃目標から逸脱することになるのは、科学的にも明らか。(共同声明で)化石燃料への国際的な公的支援を廃止するとの昨年の公約が達成されたという主張は、化石燃料事業への新たな投資を認めていることからもわかるように、全くの嘘」と批判している。

 

 英気候変動シンクタンクのE3GのシニアアソシエイツのAlden Meyer氏は「(共同声明は)必要とされていた行動を明確に示すという期待には程遠い内容だ。G7は、そのグローバルな権威をますます弱めている。彼らは、毎回、国際的な化石燃料ファイナンスのような本来、G7が取り組むべき課題を、別扱いしてやり過ごそうとしている」と指摘、G7の役割がグローバル調整ではなく、各国間調整に陥っていると指摘している。

 

https://www.env.go.jp/content/000127829.pdf

https://www.reuters.com/business/environment/g7-ministers-agree-speed-up-transition-clean-energy-communique-2023-04-16/

https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-04-16/g-7-agree-to-fossil-fuel-phase-out-without-coal-exit-deadline?srnd=premium-europe

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA137DQ0T10C23A4000000/?type=my#AAAUAgAAMA