HOME10.電力・エネルギー |米国。既存石炭火力を2030年までに段階的廃止を掲げる脱石炭国際連盟(PPCA)に参加。G7各国で未参加は日本だけ。岸田首相は演説でPPCAへの「参加資格無し」を自ら認める形に(RIEF) |

米国。既存石炭火力を2030年までに段階的廃止を掲げる脱石炭国際連盟(PPCA)に参加。G7各国で未参加は日本だけ。岸田首相は演説でPPCAへの「参加資格無し」を自ら認める形に(RIEF)

2023-12-03 02:29:41

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 米国は2日、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、既存の石炭火力発電を2030年までに段階的廃止を誓約する脱石炭国際連盟(The Powering Past Coal Alliance  : PPCA)に参加したと発表した。PPCAには世界167の国や自治体、企業等が参加しており、米国の参加で主要7カ国(G7)中で未参加は日本政府だけとなった。「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」戦略を掲げる岸田首相は1日、COP28で演説し、「排出削減対策のない新規の石炭火力発電の建設を終了していく」と述べたが、既存発電所の廃止には言及せず、PPCA参加資格がないことを自ら認めた形だ。GX戦略が国際的な整合性を欠くことも浮き彫りにした。

 

 PPCAは2017年に英国、カナダのリーダーシップで立ち上がった。PPCA宣言は、OECDやEUは遅くとも2030年までに石炭火力の段階的廃止が必要、それ以外の世界の国々も2040年までに段階的廃止が必要、としている。特に政府については、既存の排出削減対策を施していない石炭火力の段階的廃止と、CCS等の削減対策のない新規の石炭火力の停止の両方の誓約を求めている。

 

 今回、米国は、他の6カ国とともにこの誓約を公式に受け入れて、PPCAメンバーに加わった。他の国々は、チェコ、キプロス、ドミニカ、アイスランド、コソボ、ノルウェーの各国。温室効果ガス(GHG)の主要排出国で参加していないのは、中国、インド、ロシア、それに日本というメンバーだ。ウクライナは参加している。

 

COP28に出席した米国代表のジョン・ケリー大統領気候特使
COP28に出席した米国代表のジョン・ケリー大統領気候特使

 

 米国の気候担当の大統領特使のジョン・ケリー元副大統領は「2035年までにカーボンフリーの電力を100%にする、われわれの目標を達成するため、削減対策の施されていない石炭火力を段階的に廃止する必要がある。PPCAとともに、世界中の対策なしの石炭火力の廃止促進のために行動していく。まずしなければならないことは、事態が現状より悪化することを止めることであり、新規の対策なし石炭火力の建設を止めることだ」と述べた。

 

 今回の新規参加国のうち、EUの中で三番目の石炭使用量の多いチェコが参加したことも大きい。チェコは現在、発電に占めるほぼ半分を石炭火力発電に頼っているが、PPCAに参加することで、2033年までに石炭火力発電を段階的に廃止することを明確にした。バルカンのコソボも、現在は電力供給の95%を石炭火力に頼っている。だが、2050年までに対策なしの石炭発電から脱却すると宣言した。

 

 日本の発電に占める石炭火力の割合は2022年で27.8%で前年より1.3%増えている(環境エネルギー政策研究所調べ)。エネルギー価格高騰の影響で天然ガス(LNG)のウエイトが1.8%減の29.9%だったが、その分、燃料価格の安い石炭火力が増えた形だ。化石燃料発電全体は72.4%と依然、高い比率のままだ。日本政府や電力会社は、国内の既存の石炭火力発電のうち、超々臨界圧火力(USC)等は「高効率」と喧伝するものの、USCのCO2排出量は従来型の石炭火力に比べ、kWh当たり5%程度の改善にとどまる。政府が推進するアンモニア混焼も、当面は20%の混焼で、残りの80%は従来通りにCO2を排出する。

 

COP28で演説する岸田首相
COP28で演説する岸田首相

 

 いずれも、PPCAが想定する「排出対策のある石炭火力」の対象には含まれない。このため、岸田首相がCOP28で行った演説では、現地からの報道によると、「排出対策のない新規の国内石炭火力の建設を終了していく」と述べるにとどまった。PPCAが参加国等の「誓約」に掲げる「既存の石炭火力の段階的廃止」には言及できなかった。首相の発言は、図らずも、日本政府が掲げるGX政策が「既存の石炭火力を維持しながら、段階的に排出対策を加えていく手法」であり、国際的に認められている脱炭素の取り組みとは「異質な」ものであることを認めた形だ。

 

 しかも、日本政府の発表によると、GXの着地点は2030年ではなく、それを超える先になるようだが、2050年までのいつかという定かな着地点は示されていない。「既存の石炭火力に排出対策を加えて排出ゼロにする」ことが完了する時期も50年までのいつかは定かには示されていない。

                           (藤井良広)

https://poweringpastcoal.org/news/cop28-open-letter-on-coal-phase-out/

https://poweringpastcoal.org/cop28/

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/1201cop28_speech.html

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231202&ng=DGKKZO76622180R01C23A2EA2000