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経産省。化石燃料火力発電の稼働延長で、CO2回収・貯留(CCS)事業での事業者規制法案、国会提出へ。CO2漏洩等の事故による健康被害対応等で無過失責任を義務付け(各紙)

2024-01-31 15:30:01

(写真は、CCSが機能不全に陥った西オーストラリアでのシェブロンによるゴーゴンLNG事業の全景)

写真は、シェブロンが西オーストラリアで開発したCCS付きの天然ガスの「ゴーゴンLNG開発事業」)

 

  各紙の報道によると、経済産業省は、グリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略に基づき、化石燃料火力発電や工場から排出されるCO2を回収し、地下や海底に貯蔵するカーボン回収貯留(CCS)事業での事業者規制法案をまとめた。同事業のカギとなるCO2を貯留する事業を許可制とするとともに、貯留後に漏洩等の事故が起きて人の健康や周辺環境等に被害が生じた場合の賠償責任は、故意や過失がない場合でも事業者責任とする等が内容という。来月中に発行するGX移行債(カーボントランジション国債)の移行リスクも投資家責任にするのと同様、GX事業に関連するリスクも事業者責任で統一する形だ。

 

 朝日新聞がデジタル版で報じた。同省は開会中の通常国会に法案を提出する。政府のGX戦略は脱炭素化に向けて、電力等をCO2排出ゼロの再エネ電力等に全面的に切り替えるのではなく、既存の石炭・ガス火力発電等を温存し、排出されるCO2をCCSで回収・貯留するほか、アンモニア、水素混焼等の方式を併用することでCO2排出量を削減する方針だ。

 

 このうちCCSは、化石燃料火力発電からのCO2縮減に活用するほか、鉄鋼や化学、セメント、紙パルプ製造等の高炭素集約型産業が排出するCO2の削減設備としても活用を目指している。CCSの主要な工程は、発生したCO2を吸着等の手法で回収する工程と、集めたCO2を地中や海底等に貯留する工程に分かれる。CO2をコンクリート等に加工する「利用」工程を含めたCCUSの設備の開発も検討されている。

 

 CCSあるいはCCUSで最大の課題は、CO2を貯留する工程だ。海外で取り組まれている同事業での地下貯留では、地中の帯水層への貯留が主流となっている。ただ、同地層が安定的かどうかによって、同設備の効率性、運用コストが変わってくる。米シェブロンが西オーストラリアでの天然ガス事業で実践したCCSでは、海底の下の地層に貯留する計画だったが、想定通りの貯留ができなかった。その結果、シェブロンは代わりにカーボンクレジットの購入で代替したという事例がある。https://rief-jp.org/ct10/124682?ctid=

 

 また米オキシデンタルが運用していたCCS事業は年間の稼働率が10%前後でしかなく経済効率が低かったことから、同社は昨年、同事業を閉鎖したというケースもある。貯留工程の成否は貯留する地層の安定性のほか、回収したCO2を貯留する際に利用するパイプ等の破損や漏洩に起因するリスクも指摘される。https://rief-jp.org/ct4/140121?ctid=

 

 報道によると、今回経産省が準備した法案は、こうした貯留事業の安全性を確保するため、①試掘・貯留事業の許可制度の創設②貯留事業者に対する規制の2本柱からなるという。このうち、①については、貯留に適した地層がありそうな区域を経産相が「特定区域」に指定した上で、事業者を募集するとしている。そのうえで、同省から許可を受けた事業者に限定して、試掘権や貯留権を設定する。鉱業法に基づく採掘権者は、特定区域外の鉱区でも許可を受けて事業ができることに比べると、地域限定とすることで、より厳格に管理することになる。

 

 もう一方の②の事業者規制は、事業者による試掘や貯留事業の実施計画について、経産相の認可制とする。また貯蔵したCO2の漏洩を確認するため、事業者には貯留層の温度や圧力などのモニタリング対応を義務づける。対象となる貯留工程でのCO2の状態が安定すれば、モニタリングなどの管理業務を「エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」に移管できるようにするが、その際の移管後に必要な運転資金等については引き続き事業者が拠出して経費をまかなう形とする。

 

 事業者が正当な理由なく、特定のCO2排出企業等からのCO2の貯留依頼を拒否したり、依頼事業者等を「差別的に取り扱う」ことも法律で禁じるほか、貯留事業等の料金等は届け出制とする。貯留事業サイト周辺で、試掘や貯留時のパイプ等からのCO2漏洩や、事業に伴う微小地震の発生などが生じた場合の周辺住民、環境汚染などへの賠償責任は、被害者救済の観点から故意・過失がなくても責任を負う「無過失責任」とする、としている。

 

 政府のGX戦略では、化石燃料発電を維持しながら脱炭素も実現するためには、CCSの活用が欠かせないとしており、2050年のネットゼロ実現のために、年間約1.2億~2.4億㌧規模のCO2を地下や海底に埋める必要があるとしている。日本では経産省等が2012年度から北海道苫小牧市で実証実験を行った先例がある。またJOGMECは昨年6月、国内5件、海外2件のモデル事業地域を選出している。だが、全国各地に断層が走る日本列島で、果たして大規模なCCS事業を実施できる適地があるのかという点で、議論が分かれている。

 

 政府はCCS法案に加えて、化石燃料火力発電にCO2の排出量が少ないアンモニアを混焼する方式や、合成燃料、合成メタンなどの「低炭素水素等」の燃料の利用を促進することを盛り込んだ「水素社会推進法案」の提出も準備しているという。

https://digital.asahi.com/articles/ASS1Z4TK2S1ZUTFK001.html