(写真は、佐賀県神埼市にある自衛隊の背振山(せぶりやま)分屯基地のレーダー等=自衛隊サイトから)
各紙の報道によると、防衛省が陸上風力発電の設置規制法案を、今国会に提出するという。自衛隊施設の周辺地域で風力発電事業を計画する建設事業者に対し、事前の届け出を新たに義務づける内容だ。仮想敵国からのミサイルや戦闘機を監視する自衛隊のレーダーや通信設備の運用を妨げないようにし、エネルギー確保と国家安全保障上の要請をバランスさせるためという。同じ問題は、日本海等に面して「乱立」して建設されている原子力発電所にも該当する。防衛省は国防上の理由で、少なくとも仮想敵国からのミサイルの標的や、有事の際に占拠対象にされる可能性のある原発にも、安全保障上の対応を求めるべきではないか。
時事通信等が報道した。それによると、現行法では、洋上風力発電所については海域利用法で促進区域を決定する際に、自衛隊の活動が考慮されることになっている。だが、先行して開発が進んできた陸上風力発電については、これまで防衛面での手続きは何も定められていない。このため防衛省は自衛隊活動に影響が及びそうなケースについては、当該の風力発電事業者に自主的な事前相談を呼び掛ける程度にとどまっているという。
同省が今回提出を目指す法案では、防衛相告示で「電波障害防止区域」(仮称)を指定し、同区域内で新たな風力発電設備を建設する際、事業者に事前の届け出を義務付ける。事業者の計画が、自衛隊のレーダーや通信などの運用に「著しい支障」が生じると判断した場合、防衛省は事業者と対策を協議するため、建設を2年間制限できる条項を盛り込む。
最新の風力発電は大型化が一段と進んでおり、風車の高さが100mを超すものも少なくない。こうした大型風車は、航空自衛隊レーダーの電波を反射し、正確な目標探知を妨げる恐れがあるほか、基地間および、地上の基地と衛星との間の通信電波に影響を及ぼす懸念も指摘されているという。
同法には、風力発電事業に対する建設中止措置は盛り込んではいない。だが、「建設制限」措置が発動された場合、同事業の「2年後」の中断の後、計画通りに継続できるかどうかは微妙になる。規模を縮小するか、計画地域を変更する等の「自主的な対応」が求められる可能性が高い。法案では同条項の発動に際しては、エネルギー政策を担当する経済産業省と連携するとしている。
対象候補の航空自衛隊の警戒管制レーダーは、北海道稚内市、青森県むつ市、新潟県佐渡市、石川県輪島市、沖縄県宮古島市など全国28カ所にある。特に、日本海側上空を重点的に常時監視している。指定区域は、警戒管制レーダーのほか、気象レーダーを備えた空自基地周辺、無線通信で電波の通り道となる地域等も対象とする方針という。さらに、在日米軍施設周辺を対象とすることも検討としている。
風力発電に限らず、民間による構築物が、防衛上の課題と調整が必要になるケースは少なくない。日本政府は昨夏、自衛隊基地周辺や国境離島など安全保障上、重要とされる地域での土地利用を規制する重要土地等調査法の運用開始を公表した。自衛隊基地などの「重要施設」の周辺1kmや国境離島等を「注視区域」に、そのうち特に重要な施設を「特別注視区域」にそれぞれ指定し、防衛上の影響がある建物等については、中止を勧告・命令できる。同法の対象に、原発や空港等を追加するとしている。
しかし、有事の際に問題となるのは、国内の周辺区域での建設制限という措置よりも、仮想敵国から軍事的標的になる施設をいかに守るかという問題だ。ロシアのウクライナ侵攻では、ロシア軍によるチェルノブイリ原発への侵入・占拠に続いて、世界で3番目に大きいとされる稼働中のザポリージャ原発をロシア軍が占拠する事態が起きている。同原発は、ロシア軍の占拠後、常に原子炉の冷却水の枯渇によるメルトダウンのリスクにさらされており、ウクライナ軍も同原発の奪還は、リスクが大き過ぎて、手を出せない状態とされる。
これまでの日本の原発政策には、「安全保障上の配慮」がほとんど欠けていたといえる。現在、国内に54基ある原発のうち、「有事リスク」のある日本海、津軽海峡、東シナ海等に面した沿岸部に建設されている原発は、全部で35基と過半を超えている。うち8基は廃炉が決まっているが、それを除いても27基が有事の際の「標的」になり得る。
仮に日本海側で仮想敵国と紛争が起きればどうなるか。北朝鮮の場合は、工作員が日本海側等から日本国内に侵入し、多くの市民を拉致し自国に連れ去る事件を引き起こし、今も、その多くが囚われの状態にある。そうした国が、対日関係が悪化した際に、日本に再び工作員を侵入させて、原発を占拠あるいは混乱させる活動を行う可能性は、日本政府にとっては「想定外」なのだろうか。もちろんそうした場合、狙われるのは原発に限らないが、原発は攻撃の対象外ということにもならない。
原発の場合、占拠されると、日本国内に放射能汚染を拡散させる時限爆弾を仕掛けられたのと同様のリスクを抱え込む。そうなると、自衛隊は「自衛」に徹することもできなくなってしまう。防衛省にはそうした防衛上のリスクにどう対応する体制と戦術を持っているのか。ぜひ、国民の安全と安心を高めるために、説明してもらいたい。
最大の防御策は、標的になり得る原発を減らすことだ。日本海側に「乱立する」国内原発を段階的に廃止するスピードをアップすべきだろう。そうではなく、経産省はグリーン・トランスフォーメーション(GX)と称して、現行原発のリプレースを目指している。仮に原発稼働によるCO2削減効果を認めるとした場合でも、防衛上の対応から、日本海側には新規建設は一切認めず、太平洋側等の場合でも、ミサイルの直撃を受けても大丈夫という頑強な原発に限って認めるべきではないか。防衛省には、官邸にその旨、進言してもらいたい。
(藤井良広)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024020300382&g=pol
https://www.spf.org/spf-china-observer/eisei/eisei-detail005.html