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京大研究者が論文。水素・アンモニア混焼による火力発電が、世界全体の脱炭素化へ貢献する割合は「最大でも1%程度」。水素・アンモニア調達のコスト高で、経済的利点少ないと結論(RIEF)

2024-03-05 21:35:27

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 日本政府がグリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略の軸に据えている 石炭・ガス火力発電の脱炭素化策とする水素・アンモニア混焼転換が世界全体の脱炭素化に貢献できる割合は、最大でも1%に過ぎない、とする研究成果が公表された。京都大学の研究者が最新のモデル分析を使って結論づけたもので、国際学術誌「Nature Communications」に掲載された。分析によると、再生可能エネルギー発電の価格低下が進む中で、火力発電への水素・アンモニアの混焼率が高くなるほど、石炭・ガスに課税される炭素税に伴うCO2排出費用は低下するが、 水素・アンモニア調達による燃料費が増加し、混焼化する費用面での利点が少ない、と指摘している。

 

 水素・アンモニア混焼は、政府がGX政策において、既存の火力発電所を維持しながら脱炭素を進める手段として位置づけ、国費の投入のほか、民間金融機関等の投融資を誘導する政策を打ち出している。これまで、それぞれの混焼の技術的可能性の研究論文は、航空・船舶等の輸送部門や、鉄鋼等の産業部門を対象等としたものが多くあるものの、「発電部門への活用を含めた脱炭素化 への貢献の可能性は、これまで明らかにされてきていない」として、今回、研究論文が公表された。

 

 論文は「Limited impact of hydrogen co-firing on prolonging fossil-based power generation under low emissions scenarios」のタイトル。4日付けで「Nature Communications」の電子版に掲載された。

 

 論文を発表したのは、 京都大学工学研究科都市環境工学専攻の大城賢・助教と、藤森真一郎・同教授の二人。研究手法は統合評価モデルと呼ばれるシミュレーションモデル AIM/Technology(Asia-Pacific Integrated Model:アジア太平洋統合評価モデル)を用いた。同モデルは将来の人口、経済成長、技術の進展(効率・コスト等)を入力条件とし、CO2排出量、エネルギー需給、エネルギー技術の導入量および費用を推計するモデルとして活用されている。

 

 大城助教らは、同モデルに、混焼を含む水素・アンモニア発電を新たな技術オプションとして追加し、分析した。モデル分析では、水素・アンモニアの費用が大きく低下する場合や、炭素回収貯留(CCS)などの火力発電からの排出抑制策の利用を制限した場合など、多様な条件を設定して、2050年までのシミュレーションを実施した。その結果得られた成果として以下の点を示している。

世界の火力発電電力量(水素混焼・CCS を含む)。いずれのシナリオでも火力からの発電量は低下(論文から)
世界の火力発電電力量(水素混焼・CCS を含む)。いずれのシナリオでも火力からの発電量は低下(論文から)

 

 ①パリ協定の「2℃目標」や「1.5℃目標」を達成する場合は、水素価格が大きく低下する条件下でも、火力発電による発電量は減少し、水素・アンモニア専焼・混焼発電が世界の発電量に占める割合は、最大で1%程度に留まる。

 

 ②水素価格が大きく低下するシナリオでは、世界の火力発電設備の約半数が水素混焼設備付きとなる可能性がある。しかし、これらの設備が年間に稼働する期間は、太陽光・風力発電の出力が天 候条件によって大きく低下するごくわずかな時間帯に留まる。

 

 ③水素・アンモニアの混焼率が高くなるほど、石炭・ガスへの炭素税に伴うCO2排出費用は低下する一方、 水素・アンモニア調達による燃料費が増えるため、費用面での利点が少ないことが、これらの結果の要因と考えらる。

 

 ④発電部門における水素・アンモニアの利用は限定的な一方で、航空・輸送燃料としての水素・アンモ ニア利用は、先行研究と同様、比較的進みやすい。

水素混焼率別のガス火力発電の発電コスト(LCOE)の比較。水素・アンモニア混焼率が高くなるほど、 CO2 排出費用(緑色)は低下するが、燃料費(橙色)が増加する(論文から)
水素混焼率別のガス火力発電の発電コスト(LCOE)の比較。水素・アンモニア混焼率が高くなるほど、CO2 排出費用(緑色)は低下するが、燃料費(橙色)が増加する(論文から)

 

 論文では、今回の分析は、世界全域を対象としたものであり、地域固有の特性や、エネルギー安全保障リスクは考慮していないため、 これらを考慮した分析も今後重要となると考えられる、としている。また、発電部門では、費用の観点から水素・アンモニア混焼の役割は非常に限定的とする一方で、輸送部門では比較的有効な対策となり得る、と指摘。政府が目指す電力部門での活用ではなく、航空・輸送分野での活用は「比較的進みやすい」とみなしている。

 

 水素・アンモニア混焼火力発電が、良くても「世界の発電量に占める割合は1%」という、混焼推進論者にとってショッキングな結論が導き出されたのは、世界ベースでみると、再エネ発電のコスト低下が著しい一方で、再エネを含めた多様な発電手法の相対的比較の中で、水素・アンモニア混焼のコスト高が将来も続くと言い当てた点が大きい。

 

 日本のエネルギー政策は長年、既存電力会社依存型(=火力依存)を続けている。そうした依存構造を脅かす再エネ発電についても、系統接続の制限等の維持を政策が選択し、再エネ普及を極力阻むスタンスを変えていない。こうした日本固有の電力政策は、世界ベースの再エネ普及の流れとは異なり、ひたすら高コストの水素・アンモニア混焼による火力発電維持を補助金によって、死守しようという極めて異例な政策構造といえる。

 

 研究を主導した大城助教は、「今回の研究で得られた知見は、過去の研究成果を踏まえると、おおむね予想のつくものだったので、研究とし ての面白みはそこまで大きくなかった。それでも学術誌の編集者・査読者からは、社会的な意義も含めて評価して頂いた」とコメントしている。研究の世界では、「水素・アンモニア混焼」に経済的にメリットがないというのは、「予想の範囲」だったと述べているわけだ。

https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/research/topics/20240304

https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/research/topics/r60304seika_oshiro

https://www.nature.com/articles/s41467-024-46101-5