HOME8.温暖化・気候変動 |英イングランド銀行前総裁、カーニー氏、銀行経営陣の報酬をパリ協定の目標達成と連動させるべき、と提案。相次ぐ主要銀行の「2050年ネットゼロ」公約の確約として(RIEF) |

英イングランド銀行前総裁、カーニー氏、銀行経営陣の報酬をパリ協定の目標達成と連動させるべき、と提案。相次ぐ主要銀行の「2050年ネットゼロ」公約の確約として(RIEF)

2020-10-15 18:10:43

Carney00111キャプチャ

 

 英イングランド銀行の前総裁のマーク・カーニー氏は、銀行の経営陣の報酬について、パリ協定の目標達成につながる気候リスクマネジメントの度合いに連動させるべきだと指摘した。同氏の指摘は、欧米の主要銀行が相次いで2050年ネットゼロ方針等を公表していることに対して、環境NGOらが実行性への疑問を示していることを受けた形だ。

 

 カーニー氏の発言は、今週開いた国連環境基本計画(UNEP)金融イニシアティブ(FI)のラウンドテーブル会議で出た。同氏は「最低でも、経営陣の報酬がパリ協定の目標と連動しているのかどうかを、明確にするべきだ」と述べ、経営者報酬の透明性の向上を求めた。

 

 2050年目標の達成は30年先となることから、「各銀行は中間的な目標を示すべきだ。そのうえで望ましいのは、気候変動によるリスクと機会に対応することへの経営レベルのガバナンスと責任を、銀行のガバナンスプロセスに盛り込むべきだ。少なくともそうした規定を置くかどうかの情報開示をすることが望ましい」とした。

 

 先週には、英HSBCと米JPモルガンがそれぞれ、2050年までに、投融資先の排出量を実質ゼロとする活動をするとの宣言をした。銀行の投融資行動を通じて、顧客企業にパリ協定の「1.5℃目標」と整合する企業活動をとるよう促すというものだ。

 

 両行だけではない。英バークレイズ銀行も今年の初めに2050年までに銀行のカーボンフットプリントをゼロとする宣言をしている。同ロイズ銀行は2030年までに個人向け、企業向けのファイナンスで生じるCO2排出量の半減を宣言している。日本のメガバンクは、全投融資対象のネットゼロ宣言には踏み込んでいないが、みずほや三井住友等は石炭火力発電向け融資を2050年にゼロにすると宣言している。

 

 これらの主要行のうち、経営者の報酬と連動させることに前向きなのが、英ナットウエストグループ。気候変動目標の達成を頭取を含む経営陣の報酬と連動させる方向で検討中としている。JP Morganも来春までにそうしたことが可能かどうか調整中としている。

 

 気候目標の達成を報酬連動とすることの難しさは、目標達成が2030、50年と長期であるほか、目標と連動した毎年の削減状況の開示がないと、報酬連動の意味が外部にわからないといった問題がある。カーニー氏の指摘は、まさに、銀行は毎年、投融資に伴うCO2削減状況の情報開示をすべきだという点にある。他行の開示情報に比べて自行の削減状況が内外にわかる形にすることで、金融界全体の気候リスク削減インセンティブを高めることを求めているわけだ。

 

 ただ、環境NGOの反応は分かれる。銀行の経営陣へのインセンティブなると歓迎する向きがある一方で、「金融機関が投融資を通じて企業行動を是正すべきなのは、気候変動リスク対応だけではない」(BankTrackのDirector、 Johan Frijns氏)との指摘もある。「気候変動対策のカーボン削減情報さえ開示すれば、銀行として評価されるという誤りを与えてしまう」と危惧する。

 

 もっともカーニー氏は、銀行経営陣の思いをよくわかっている一人だ。自らは米銀ゴールドマンサックスに13年間在籍した民間バンカーであったほか、カナダ、英国の中銀総裁を歴任した中で、イングランド銀行総裁時代は世界の中銀総裁として最高の年間88万2885ポンド(約2億円)の報酬を得ていたことでも知られる。

 

 銀行経営陣の報酬には、金銭的魅力に加えて、銀行経営の巧拙を示す尺度の意味もある。報酬連動することで、金融マンとしてのプライドを示せるかどうかのようだ。

https://www.unepfi.org/events/roundtables/unep-fi-global-roundtable-2020/