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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑪初の円建てグリーンボンド国債(グリーンサムライ債)を発行したハンガリーを「国際賞」に選出(RIEF)

2021-02-18 12:14:20

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 サステナブルファイナンス大賞の国際賞には、2020年9月にソブリン債で初めとなる円建てのグリーンボンド国債を東京市場で発行したハンガリーに贈られました。「グリーンサムライ債」です。東京市場の国際化にも資する取り組みとして高く評価されました。オンラインの表彰式には財務副大臣のギオン ・ガーボル(GION  Gábor)氏、政府公債管理機構のクラリ ・ゾルターン(KURALI Zoltán )氏に出席していただきました。ハンガリーのグリーンサムライ債への取り組みについて、駐日大使のパラノビチ・ノルバートPALANOVICS Norbert)氏に話を聞きました。

 

――グリーンボンド国債を日本市場で発行することを決断した理由を教えてください。

 

 大使:ハンガリー政府はEU加盟国として、地球温暖化への対策を非常に大事にしています。そのため、2020年4月に国内の温暖化対策の資金調達手段の一環として、グリーンボンド国債の発行を決めました。翌月5月に政府がグリーンボンドフレームワークを作り、第三者機関の評価を経て、6月に初めてのグリーンボンド国債を15億ユーロ(約1800億円)発行しました。資金使途は再生可能エネルギー事業や省エネ、自然資源保護、クリーン交通機関開発整備等で、東欧ではポーランド、リトアニアに次ぐ3番目でした。

 

 同ボンドへの投資家の人気が高く、発行額に対して約5倍の応募がありました。これをみてハンガリーの公債管理機構は円建てのグリーンボンド国債の発行も可能と判断したのです。そこで素早く、7月に東京で投資家向けにオンラインでバーチャルなロードショーを開きました。コロナ禍ではありましたが、機構の代表がハンガリーの金利の状況や、ユーロ建てグリーンボンド国債の売れ行き状況、国としての地球温暖化対策や資金使途の環境事業等を紹介しました。その結果、9月1日に4つのトランシェを含めた円建て債の発行を実現しました。その中で、7年物と10年物の2本合計200億円の円建てグリーンボンド国債、つまり「グリーンサムライ国債」を発行しました。調達額は通常のサムライ国債と合わせて627億円になりました。

 

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――「グリーンサムライ国債」の登場にわれわれも正直、驚きました。

 

 大使:日本の投資家の反応は、非常に高かった。ハンガリーが日本のサムライボンド市場に戻ったということへの評価だけではなく、ハンガリーが地球温暖化対策を強化し、グリーンファイナンスのパイオニアとして東京市場に入ることができたことを評価されたと思います。ハンガリーは1980年代からサムライボンド市場に参入しており、ある時点では、わが国の最大の国債発行市場がサムライ債だったという時期もあります。その後、同市場から遠ざかった時期もありましたが、2018年に再び戻り、今回はその柱の一つにグリーンボンド国債を据えたということです。

 

 1980年代はまだハンガリーは社会主義国で、90年代には、ハンガリーの国の借金のファイナンスが主流でした。それからほぼ30年後のハンガリーの今日の経済はかなり元気です。2016年にはハンガリー政府は、国債のポートフォリオを広げ、投資家の種類を増やすことと、日本との信頼関係を強化するため、サムライ債市場に戻ることを決めました。実施に市場発行に戻ったのは18年です。この「2020年のサムライ債」の中では、グリーンボンド国債の発行が大事な柱になっています。国債の信用格付は、JCRが20年2月にA-。R&IがBBB+です。

 

――サムライ市場での日本の投資家をどうみていますか。日本では低金利がずっと続いているので、どの債券も低コストとなっています。

 

 大使:日本の投資家は非常に安定しています。特に、生命保険会社と年金基金は、非常に信用でき、安心できるだけでなく、保有した債券を満期まで保有するバイ・アンド・ホールドの安定投資家です。ハンガリー政府としても非常に信頼しています。2018年にサムライ債市場に復帰後、我々大使館でも本国の財務省等と連携して、日本の投資家向けにロードショーをしたたり、ハンガリーの投資環境を紹介するイベントやセミナー等を開催していますが、引き続き、そうした取り組みを推進していく考えです。 ハンガリーの国債はユーロ建てが中心ですが、元々、日本市場も重要視していました。

 

――今回のグリーンボンド国債の資金使途は、国内のどのような事業に使われますか。

 

 大使:ハンガリーでは地球温暖化対策を、パリ協定への参加だけではなく、国内の法律でも明記しています。法律では、2040年までに国内の温室効果ガス排出量を90年比で40%削減するほか、再エネについては2030年までに発電比率で32%にまで、エネルギー効率の改善率は32.5%を目指しています。EUの中でも特に野心的といえると思います。グリーンボンド国債での調達資金は、こうした国内での野心的な対策の促進に活用することになります。

 

――気候変動対策以外についてもお聞きしたいと思います。2019年がハンガリーと日本の外交開設150年だったということですね。日本とハンガリーの経済・社会等の分野での交流の手応えはどうですか。

 

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 大使:経済、投資、ビジネスだけでなく、文化面でも日本とハンガリーとの交流は非常にいい環境にあります。2019年の150周年記念年では、イベントだけで年間180回を日本各地で開催しました。2日に1日の割合になりますね。それだけではなく、記念年の遺産として、東京・麻布十番に「ハンガリー文化センター」を立ち上げることができました。そこに行くと、誰でもハンガリーの魅力を知ることができます。同年後半には、ハンガリー大統領と首相が日本を訪問し、日本からは、秋篠宮佳子さまがハンガリーを訪問されました。

 

 ハンガリーには現在、175社以上の日本企業が進出しています。合計で約3万5000人以上の従業員が日系企業・工場で働いています。以前は、自動車関係の工場が主流でしたが、最近は、たとえば、日清食品の工場、HOYAのレンズ工場、東レのカーボンファイバー工場なども立地しています。また工場だけではなく、サービス分野では日産のサービスセンターがブダペストにあるなど、日本企業の進出状況も多様化しています。

 

 自動車メーカーでは、スズキの工場が1991年から操業していますが、同工場もこの2~3年の投資の主流は、伝統のエンジン車分野から電気自動車(EV)と自動運転分野に切り替わっています。ハンガリーでのEVのバッテリー生産は増大しており、欧州の「バッテリー王国」のような状況です。グリーンボンドの資金使途も再エネだけでなく、EV関連の新型モビリティ分野にも広がっていきそうです。

 

――ハンガリーは欧州の中心に位置するので、他国へのアクセスも便利ですね。

 

  大使:そうです。物流面では非常に有利です。インフラが非常に発達しているため、道路と鉄道を利用すれば、ハンガリーから欧州の5億人前後の市場をカバーできます。

 

――経済交流以外での、文化、芸術、スポーツ等でも協力関係が深いようですが、大使が一番力を入れているのはどのような分野ですか。

 

 大使:私は「外交」を一種のパズルとしてみています。パズルのピースには、文化、スポーツ交流、政治などが多様にあります。それらをまとめてうまく管理できるようになると、国の知名度も高まり、経済、金融的にも、うまく回るようになると考えます。ですので、できるだけわれわれが、文化やスポーツ、科学等の交流もまとめるように、大事にしています。2019年の150周年でも中心的なイベントになったのは、国立新美術館で開催されたハンガリーの展覧会でした。ハンガリーの文化・芸術に対して、かなり高い評価を日本の方々から得られたと思います。

 

 日本との文化的なつながりの中で、一番中心になっているのが音楽ですね。ハンガリーで有名な音楽家は、リスト、バルトーク、コダーイが知られます。ブダペストのリスト音学院では、大勢の日本の若者たちが勉強しています。彼らは日本に戻ってきてハンガリーの音楽文化を広めています。科学領域では医療、医学関係があります。ハンガリーの4つの大学の医学部では合わせて500人近い日本人留学生がいると思います。ハンガリーの医療関係は伝統があり、コロナ禍で消毒の大事さを世界中の人々が感じていると思いますが、その消毒法を先駆者がハンガリーのセンメルヴェイスです。またコロナワクチンのファイザーとモデルナのワクチンを初めて開発したのもハンガリーの人です。

 

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――EU全体の中での温暖化対策でのハンガリーのポジションはどうですか。米国はバイデン政権になって米欧協調を進めていくと思いますが、欧州の中心に位置するハンガリーの気候変動対策の位置付けはどうでしょうか。

 

 大使:ハンガリーのイメージについては、一般的に、まだ社会主義から出たばかりのイメージでみられることがあるが、実は、社会主義の国からだいぶ卒業して、東欧から中欧の国に、そして「大人の国」になっています。ハンガリーが率先する、いくつかの前向きなアンビシャスなイニシアティブがあります。温暖化対策はその一つです。今後も欧州の中でも温暖化対策では前向きに頑張りたいと思っています。

 

 もう一つ、ハンガリーがリーダーシップをとっているのは少子化対策です。欧州の中でも非常に野心的な対策で、1980年代から続けています。たとえば、3年間の有給育児休暇制度や子供数に応じた所得税減税策などです。子どもが4人目になると所得税ゼロになります。これらの少子化対策費の予算割合はGDPの4.7%に達します。その結果、2020年には、子供を望むハンガリー人は、過去10年で2割増え、結婚数は43年ぶりの高水準に、離婚数も60年前の水準にまで低下。妊娠中絶数も36%減りました。女性の就業者数も、20年ぶりに上昇に転じました。


  今回の受賞は、ハンガリーでもかなりニュースになりました。ハンガリー政府と国民の間でも、サステナブルファイナンスの活動が広がってきています。日本との関係では、投資家とのやり取りだけでなく、債券の発行を担当している日本の銀行等とも協力関係にあります。日本の金融機関は1990年代にはブダベストに事務所を開いていましたが、その後、撤退しています。しかし、ハンガリーの投資環境だけではなく、西バルカン諸国市場や、今後、EUに加盟が見込まれる国々への投資の拠点にもなります。日本の金融機関の進出も期待しています。

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