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ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアから撤退の外資金融機関は13社のみ。61社が継続中。日本勢はみずほ、SMBC等6社。SMBCは昨年中の利益11倍増。ウクライナのシンクタンク分析(RIEF)

2023-08-08 13:40:30

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写真は、ロシアで最も活発に活動しているオーストリアの金融機関のRaiffeisenに対して抗議行動を展開する市民グループ:ウィーンで、BankTrackより)

 

  ロシアのウクライナ侵攻から1年半が経過。戦局は依然、一進一退で戦火終了が見通せない中で、ロシアへの西側諸国の経済制裁等で活動を停止したと思われていた西側銀行等の外資系金融機関の多くが、ロシア市場でビジネスを継続していることがわかった。一部は、資産、純利益を戦争前より増大させていることもデータで示された。それらの銀行の中には、日本のみずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ等が含まれる。ロシア残留の日本の金融機関全体では、戦争が続く中、ロシア国内での資産規模を倍増させている。

 

 ウクライナの大学、キエフ・スクール・オブ・エコノミクス(KSE)所属のシンクタンクであるKSE Instituteの分析で明らかになった。KSEはロシアの侵攻前、侵攻後を通じて、ロシア国内で経済活動を続ける外国企業・金融機関の実態調査を続けている。

 

 そのうち金融機関に関する分析によると、ロシアの侵攻開始後、ロシア国内から完全に撤退した西側金融機関は13機関。現在もロシア市場で従来通り、あるいは部分的な金融活動をしている外資系金融機関は日本の金融機関を含めて61機関に上る。活動を継続している外資系金融機関の中には、資産売却等が十分に進まず、撤退もできないところも含まれる。

 

 ロシアでの事業を完全に撤退した金融機関のうち、大手はSociété Générale、オランダHome Credit、チェコPPF等。ビジネス中断中なのは、独Deutsche Bank、同Commerzbank、仏BNP Paribas、米 Citigroup、同Morgan Stanley、ポーランドPekao SA等。

 

ロシアで現在も活動する外資系金融機関の国別状況
ロシアで現在も活動する外資系金融機関の国別状況と純利益の増減

 

 一方で、ロシアにとどまり続けている銀行は、オーストリアの Raiffeisen Bank International、イタリア UniCredit Group、ハンガリーOTP Bank、オランダCredit Europe Bank、仏Crédit Agricole等の欧州系銀行のほか、中国のBank of China、中国建設銀行、同ICBC Bank、中国農業銀行、日本のみずほ銀行、韓国のKEB HNB Bank等となっているという。

 

 これらの残留銀行は撤退準備が困難なところばかりではない。インドのCommercial Indo Bankはロシアのウクライナ侵攻後の昨年を通じて、ロシアでの資産規模を7倍増近く(679.9%)増やしたほか、中国のICBC も3倍強(+339,6%)増やしている。

 

 ロシアの金融市場でのもっとも資産規模が大きい外資系金融機関は、オーストリアのRaiffeisen Bank International。291億7200万㌦(約4兆1100億円)で、2位のイタリアの UniCredit Group(145億9700万㌦)の2倍となっている。Raiffeisenの昨年の収益は、前年(21年)の3.8倍の20億1400万㌦と突出している。

 

ロシアでの外資系金融機関の資産規模ランキング
ロシアでの外資系金融機関の資産規模ランキング

 

 日本勢は、みずほのほか、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)等6機関が残っている。日本勢全体の資産規模は1億3700万㌦と、前年の2.1倍。残務整理だけでなく、ビジネスを拡大していることになる。KSEによると、このうち、SMBCはロシアの航空会社のエアロフロートから、リース対象としていた航空機を6億4400万㌦で買取取引を実施したことから、22年中の純利益を前年の約11倍増の3500万㌦に急増させたとしている。

 

 KSEは、SMBCは同様の航空機リース取引を、他のロシアの航空会社のS7、NordStarとも折衝中と指摘しており、今年も収益増を見込んでいるという。みずほのロシア国内での資産規模は10億1400万㌦。三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)は一時的にビジネス中断の扱いとされている。

 

 ウクライナ侵攻後の昨年中に、ロシアでの純利益を急増させた銀行のうち、もっとも収益を上げたのは、中国建設銀行。ほぼゼロから前年比34倍増に急成長した。オランダのINGが28倍増で2位。3位はトルコのIsbankの17倍。SMBCは6位につけている。総じて中国の金融機関の純利益増が顕著だ。

 

ロシアのウクライナ侵攻後の2022年中に純利益を増大させた外資系金融機関ランキング
ロシアのウクライナ侵攻後の2022年中に純利益を増大させた外資系金融機関ランキング

 

 中国勢は、西側金融機関の撤退等で資金不足に陥ったロシアの銀行に対する融資で、収益を稼いでいることになる。KSEは、ロシアの融資市場での中国勢のウエイトは、前年比5倍になったと指摘している。中国銀行(BoC)の場合、ロシアでの融資規模を侵攻前の22年1月から今年6月1日までの間に、1070億ルーブル(10億7000万㌦)増やしたとしている。中国がロシアに対するファイナンス面での支えになっている実態が明瞭に表れている。

 

 外資系金融機関の22年中のロシアでの純利益総額は2110億ルーブル(23億㌦)と推計されている。KSEの分析によると、外資系の融資ポートフォリオ全体は減少しているが、ロシアの顧客企業向けに設定するファンドへのファイナンスを増大させているという。同時に、これまでの融資、投資等からの利子や手数料等の収益も、全体の純利益増加につながっているとしている。

 

 ロシアで外資系金融機関として最大の存在となっているオーストリアのRaiffeisenはメディアに対して「われわれはロシアでのビジネスを2つのオプションにより全力で推進し続ける。(資産)売却とスピンオフ(事業独立)だ。これらのオプションを続け、その結果としてロシアでのビジネスを削減していく」と説明している。要するに、当分の間、ロシアビジネスを継続する姿勢であることに変わりはないようだ。戦争も金融ビジネスになることを証明する実態といえる。

https://www.banktrack.org/article/raiffeisen_unicredit_and_citi_profited_the_most_among_foreign_banks_in_russia

https://kse.ua/about-the-school/news/50th-issue-of-the-regular-digest-on-impact-of-foreign-companies-exit-on-rf-economy/