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EUのSFDR「8条ファンド」の運用で石油・ガス分野への投資が増大。ウクライナ問題でのエネルギー市場変動等を反映か。再エネ投資は微減。SFDR全体の見直し議論にも影響(各紙)

2023-12-21 15:50:33

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  各紙の報道によると、EUは投資ファンドのESG度を分類する法的な情報開示制度「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」を各ファンドに適用しているが、そのうちESG特化型(9条ファンド)とは別に、運用に際して環境・社会配慮の促進も盛り込んでいるとする「8条ファンド」の投資先で、石油・ガス分野へのファイナンスが、制度開始以来の2年半で約6割も増えていることがわかったという。ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー価格の上昇等を反映した動きとみられるが、一方で再エネ等への投資割合は減少している。

 

 BloombergがMorningstarのデータを踏まえて伝えた。それによると、今年7-9月(第3四半期)末時点でSFDRの8条ファンドとして登録されているファンド約5兆㌦全体の化石燃料への投資割合は約2.3%。SFDRが導入された2021年初めの1.4%から約6割の上昇となっている。これに対して、再エネ資産へのエクスポージャーは0.3%で、当初の0.4%から微減した。

 

 Morningstarのサステナビリティー調査グローバルディレクター、ホーテンス・ビオイ氏のコメントとして、同データの変化は、投資対象資産や新規投資等の価格評価の変化のほか、ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー価格の上昇に伴って、石油・ガス関連資産の増額等が反映しているとの分析が紹介されている。

 SFDR規制の分類では、9条でESG等の「サステナブル投資」に特化したファンドとし、8条はサステナブル投資よりは緩い形で「環境・社会特性を促進(promote)する投資」としている。このため、前者をダークグリーン、後者をライトグリーンと形容される。9条ファンドの場合、ESGに資する経済活動に投資するだけでなく、「他の環境・社会目的等に重大な悪影 響を及ぼさない(Do Not cause Significant Harm  : DNSH)原則」への適合、投資先のガバナンス評価も求められる。

 

 一方の8条ファンドは、投資リターンを重視することを踏まえながら、ESGへの投資を促進するという位置づけだ。投資対象が「環境・社会特性の促進」する投資に該当するかどうかの評価は、運用会社が独自に定義することができる。運用会社が自社の分析で企業にESG 評価を示し、その評価レベルの対象が一定以上に増えると、促進できたと判断できることになる。

 

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 例えば、天然ガスは化石燃料の一つだが、ガス火力発電の場合、石炭火力に比べCO2排出量は約半減する。EUはタクソノミーの移行事業の対象に、原発とともにガス事業を大議論の末に加えており、ガス事業への投資は当面、「サステナブルファイナンス」に分類される。EUの8条ファンドでの石油・ガス事業割合の増大には、ウクライナ要因に加えて、こうしたEU自体のサステナブルファイナンス分類の調整の影響もあると考えられる。

 ただ、ESG投資家がそうした「ライトグリーン」な投資を是とするかどうかは別問題だ。気候変動対応だけでなく、人権課題等を重視する、よりピュアなESG投資家等は、8条ファンドから9条ファンドにシフトしているようだ。Morningstarのデータでも同じ時期の9条ファンドの運用では、石油・ガス事業への投資割合は当初の0.6%から0.1%へと減少し、再エネへの投資割合は1.7%から1.8%へと微増している。

 EU自体、タクソノミーの改定のほか、ESG投資促進の観点も含めて、現在、SFDRの分類の見直し作業を進めている。EUのSFDR規制による投資ファンドのESG度合いの評価は、日本を含めて各国の投資ファンド、投資信託評価の目安にもなっていることから、同見直しの行方に関心が注がれている。特に、今回、8条ファンドで石油・ガス投資割合が増大したように、高炭素集約型セクター(ブラウン資産)企業等の評価と、それらを脱炭素化するトランジション評価を投資判断に、どう明確に盛り込むかがポイントになる。

 欧州委員会の金融サービス担当のマクギネス委員は直近のインタビューで「われわれはグリーンかブラウンか、善か悪かで語り過ぎている。実はまだそこに達していない企業こそ、持続可能性を高めるため資金を投入する必要がある。企業に移行(トランジション)する機会も与える必要があり、そこにもう少し焦点を当てる必要があるのかもしれない」等と発言している。ただ、相違した移行に伴うリスクを投資家がとる行動に出るかどうかは、現時点では不明だ。

 9条ファンドで軸となる再エネ事業等の資産は増えてはいるが、投資リターンとしてみると、化石燃料資産に比べて株価上昇率は見劣りする。S&Pグローバル・クリーンエネルギー指数は今年、約30%下落しているのに対して、全般的なS&P500種株価指数は20%上昇、さらにS&Pグローバル石油指数は、約3%の下落にとどまっている。「再エネ一人負け」の状態でもある。

 その背景には、洋上風力発電事業やメガソーラー等の資本集約型の再エネ事業について、資金調達コストの上昇、原材料価格の上昇、サプライチェーンの混乱等の影響が複層して生じたためと指摘される。2024年に、投資資金が「よりピュアなグリーン」を求めて9条ファンドに向かうのか、それとも当局が制度改革で目指す、移行事業へのファイナンスを増大させる「8条+」ファンドの創設に向かうのか。その場合、移行リスクに見合うリターンをどう生み出すのか。日本政府による「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」戦略の移行ファイナンスにも共通する課題が浮上してくる。

 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-12-20/S5N89RT0G1KW00

https://finance.ec.europa.eu/system/files/2023-09/2023-sfdr-implementation-targeted-consultation-document_en.pdf