EU欧州委員会の「サステナブルファイナンス・ハイレベル専門家会合(HLEG)」最終報告公表。EUグリーンボンド基準や、TCFD報告を取り込んだ非財務開示の要請等(RIEF)
2018-02-01 00:28:59
EUの欧州委員会の「サステナブルファイナンスに関するハイレベル専門家会合(HLEG)」は31日、最終報告を公表した。報告書は、2020年までにサステナブルファイナンスの定義づくりのほか、EUレベルのグリーンボンド基準の設定、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)報告をEUの非財務情報報告基準に取り込むこと、などを求めている。 同委員会は今回の報告を受けて、EUのサステナブルファイナンス戦略を打ち出す。
HLEGは昨年7月に中間報告を公表している。今回の最終報告は、欧州委員会が推進する資本市場連合(CMU)の行動計画の優先活動を示した形となる。EUはパリ協定で域内の2030年目標として温室効果排出量の40%削減を公約している。その実現には毎年1800億ユーロ(約24兆3000億円)の追加投資が必要で、サステナブルファイナンスがカギを握る。
HLEGの最終報告はまず、EUが世界で最も持続可能なサステナブルファイナンス・システムを構築することを目標に掲げ、サステナブルファイナンスの定義づくりのため、作業部会を設けて、2020年までに工程表とフレームワークの整備を行うことを求めている。
サステナブルファイナンスの軸となるESG要因の評価について、報告は既存の格付機関がESG要因について企業評価への統合化が不十分だと批判、格付機関がESG要因統合化のために積極的な役割を果たせないならば、EUが独自の格付機関を設立すると、宣言している。
サステナブルファイナンスの資金調達手段として、グリーンボンド市場の拡大が進んでいる。報告書は現在、市場基準となっているグリーンボンド原則(GBP)の基準を自主的なものから義務的なものに格上げし、評価のためのセカンドオピニオンについての認定制を提案している。EUレベルでのグリーン投資ファンド向けの認証ラベルの提供も提案の一つだ。
サステナブルファイナンスによる実際の資金供給対象となる分野として、インフラ建設にサステナビリティの概念を盛り込む「Sustainable Infrastructure Europe (SIE)」の先駆機関を2018年に創設、2020年には本格稼働することを求めている。SIEは特に、インフラ整備・グレードアップが必要な中東欧地域での投融資が対象となる。
年間の想定サステナブルインフラ投資額は1億1000万ユーロ(約148億5000万円)と推計されている。SIEは欧州システミックリスク評議会(EUSRB)ののモデルを活用するとともに、欧州投資銀行、欧州委員会によって運営される構想だ。
気候変動リスク情報開示のため、金融安定理事会(FSB)気候関連情報開示タスクフォース(TCFD)が昨年夏に勧告した報告内容に沿った気候変動情報開示の手法を、EUが公表している企業の非財務情報開示勧告(NFRD)に2020年までに盛り込むことを求めている。
サステナブルファイナンスを推進するうえで、投資家の規範としてのフィデシャリーデユーティー(受託者責任)について、軸となる要因として位置付けるとともに、 年金基金や保険会社等を含めた投資チェーン全体で、フィデシャリーデューティーの定義が位置付けられるよう、関連分野を網羅する勧告(Omnibus directive)の制定を提案している。
報告は小口投資家または個人投資家の役割を重視する勧告を出している。個人などの投資家や預金者が資金を預託する際の判断に、ESG要素の影響を加味してもらうとともに、かつ一定の金融的リターンを確保できるようにするため、サステナブルファンドの最低基準を設定するよう求めるとともに、投資版の欧州グリーンラベルの整備も求めている。
EUレベルのサステナブル投資を推進するため、EUのサステナブルファイナンスのデータ登録中央機関の設立も提言の一つに入った。HLEGが想定する登録機関は、「EUサステナブルファイナンス登録機関」で、総員12人で、400万ユーロの予算も配分され、順調にいくことを期待したい。
「アメリカファーストならぬ、『サステナビリティファースト』」。EUのすべての政治的優先度と行動プログラムにおいて、「サステナビリティ・ファーストの原則」を適用すべき、としている。
欧州委員会の金融安定・金融サービス・資本市場同盟を担当する副委員長のValdis Dombrovskis氏は、「パリ協定の発効は、世界と世界経済にとってのマイルストーンだ。今後は低炭素社会に向けて動き出すことになる。その点で、ファイナンスは、サステナブルな未来に資金を投じる大きな役割を果たす。HLEGの報告は、我々の戦略上の重要なインプットとなる」と歓迎している。
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-18-542_en.htm?locale=en
https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/180131-sustainable-finance-final-report_en.pdf