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鉄鋼・高炉コークス用の「MET炭」への金融機関の投融資制限ほとんど無し。環境NGOら67団体が50の主要金融機関に、投融資終了等求める公開書簡。日本の3メガ等が集中融資(RIEF)

2023-12-13 01:13:09

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 金融機関の環境・社会対応を監視する国際的NGOのBankTrack等の67のNGO、シンクタンクは、グローバルな主要金融機関50行に対し、製鉄の高炉用コーク炭等の冶金用石炭(MET Coal)への投融資を制限・終了することを求める公開書簡を送った。石炭火力発電向けの一般炭開発への投融資制限を設ける金融機関はグローバルに約250件に達するが、MET炭の開発等に同様の制限を設ける機関はわずか9機関。NGOらは新規のMET炭開発や開発拡大への投融資を供給しない姿勢の明確化を求めている。金融機関別では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が融資で断トツの首位を占め、上位10社のうち半数は日本勢が占める。MET炭問題は、石炭火力向け融資と同様に「日本問題」のようだ。

 

 (写真は、MET炭へのファイナス状況を分析したReclaimのレポートから)

 

 公開書簡では、①MET炭への投融資業務を、アドバイザリー業務を含めて、直ちに終了させ、新規の開発事業や現行事業の拡張も停止する②MET炭事業を開発する計画を有する企業への投融資を供給しないコミットメントとともに、「1.5℃シナリオ」に沿った対象資産や対象鉱山ごとの詳細な閉鎖スケジュールを設定する③資産・鉱山の閉鎖等には、従業員、地域、環境への影響を最小化し、公正で持続可能な移行計画を立てる――等を求めている。

 

 NGOらによると、MET炭の生産は世界の石炭生産の14%を占める。一般炭の場合、火力発電や製造業の生産プロセス等にも幅広く使われるが、MET炭は、高炉生産方式の鉄鋼業の使用が大半となるのが特徴だ。発電用の一般炭の場合、CO2排出量の相対的に少ないガス火力やCO2を出さない再エネ発電等の代替手段が増えていることから、金融機関も新規の石炭火力や既存設備の拡大等への投融資の制限措置を設けるところが増えている。

 

 気候シンクタンクのReclaimのレポートでは、2015年のパリ協定以降、一般炭開発や同炭を燃料とする火力発電向け投融資を制限する規定を設ける金融機関は、グローバルに250機関近くに増えているという。しかし、MET炭について制限を設けるのは、HSBCや仏 Société Générale、同BNP Paribas等の9機関だけ。

 

高炉生産用のMET炭の採掘状況
高炉生産用のMET炭の採掘状況

 

 NGOらは「『グリーン鉄鋼』への移行がすでに視野に入る中で、金融機関が依然としてMET炭への投融資を続けることは、グローバルな鉄鋼業界にとっても、気候にとっても、行き詰まりに向かうことと同じだ」(BankTrackのキャンペイナーのJulia Hovenier氏)と指摘している。

 

 Reclaimのレポートによると、パリ協定後の2016年以降、世界の主要銀行がMET炭の大規模開発事業者50社に投融資してきた総額は5570億㌦(81兆3000億円)に達する。しかも、国際エネルギー機関(IEA)は現行の世界の鉄鋼高炉設備への2050年までの需要は、現行設備で十分まかなえるとしているが、新規建設需要が年間406Mt分増設する計画が進行中だ。これらの計画分だけで2021年の全鉄鋼消費分の3分の1以上を占め、このままでは過剰設備に陥るリスクがある。

 

 こうしたMET炭に依存した鉄鋼セクターからのCO2排出量は、鉄鉱石やMET炭の開発、プロセッシング、輸送、燃焼等を含め、世界の排出量の11%を占めるとともに、全産業の排出量のほぼ30%を占めている。Reclaimは、こうした高炭素排出産業に対して、金融機関がこれまで通りの投融資(BAU)を続けると、2050年には世界のカーボンバジェットの25%近くを鉄鋼業界だけで使い尽くしてしまうことになると、懸念を示している。

 

 MET炭の開発事業では、中国が世界42%を占め、最大の生産国だ。次いでオーストラリアが15%で、全体のほぼ80%がアジア・太平洋地域で生産されている。中国の生産は国内向けが大半で、輸出量ではオーストラリアが世界全体の輸出量の52%を占める最大の輸出国。同国でのMET炭開発事業には日本企業等も積極的に展開している。

 

 2016年~今年6月までの間に、世界の主要銀行がMET炭の大規模開発事業者50社に投融資した総額5570億㌦から中国企業向けを除外した2240億㌦の金額のうちで、銀行融資を最も多く得た開発事業者はスイスのGlencore (1230億㌦)、三菱商事(510億㌦)、カナダのTeck Resources(220億㌦)、豪BHP Group (80億㌦)、豪Whitehaven Coal(20億㌦)、投資額では BHP Group (640億㌦)、Glencore (360億㌦)、三菱商事(280億㌦)となっている。

MET炭事業への銀行の所属国別の融資割合
MET炭事業への銀行の所属国別の融資割合

 

 これらの企業・事業への銀行の融資状況(2016~2023年6月)では、国別で日本が全体の29%を占めてトップ。次いで、欧州(26%)、米国(14%)、カナダ(10%)、英国(6%)、豪(5%)の順。個別銀行別では、MUFGが総額212億3600万㌦で最も多い。MUFGの融資先は三菱商事、Glencore、日本製鉄等。次いで、2位はみずほフィナンシャル・グループ、3位が三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)で、3メガとも融資先は同じ3社が上位だ。4位に三井住友信託銀行、8位に農林中央金庫と、上位10社のうち半分の5機関が日本の金融機関で占められる。「鉄鋼向け融資」が、日本の大手銀行による「共同融資」となっているといえる。

 

 MET炭事業への投資状況では、国別で米国が過半の53%を占める。日本は投資分野でも健闘し、2位(16%)を占める。次いで欧州(7%)、豪(6%)、英(4%)、カナダ(同)、カタール(同)の順。個別投資機関では、米BlackRockとVanguardの両資産運用機関が1位、2位を占め、3位に日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が登場している。MUFGが9位、野村が10位、SMBCが13位につけている。

 

個別銀行別のMET融資のランキング
個別銀行別のMET炭事業への融資のランキング

 

https://www.banktrack.org/download/letter_from_banktrack_to_50_largest_financiers_of_new_metallurgical_coal/cso_met_coal_letter_to_banks_2.pdf

https://www.banktrack.org/article/67_organisations_call_on_banks_to_cease_financing_metallurgical_coal

 

https://reclaimfinance.org/site/wp-content/uploads/2023/11/Reclaim_Finance_Metallurgical_Coal_November_2023.pdf