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日米の温室効果ガス排出削減2030年目標公表。日本46%削減(2013年度比)、米国50~52%削減(05年比)。どちらが「野心的」か(RIEF)

2021-04-23 00:12:40

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 バイデン米大統領主催の「気候リーダーズサミット」の直前に、日米の新たな2030年温室効果ガス削減目標が示された。日本は13年度比で46%減、米国は05年比で50~52%減。日本の現行目標は26%減、米国はオバマ政権時代の目標が「25年までに26~28%減」だったから、日本は7割以上、米国はほぼ倍に引き上げることなる。ともに温暖化対策実現に向けた「野心」を掲げたことを強調するが、目標設定に至るまでのプロセスは、かなりの開きがあるようだ。

 

 (写真は、22日に官邸で開いた地球温暖化対策本部会合に出席した菅首相)

 

 菅義偉首相は、22日開いた地球温暖化対策推進本部の会合で「地球規模の課題の解決に向け、わが国は大きく踏み出す」とし、2030年度目標を46%(13年度比)とするほか、「さらに50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」と宣言した。

 

 事前の政府内部の調整では、「実現可能な積み上げによる目標策定を進めるべき」との主張と、「欧州などと遜色のない野心的な目標とすべき」との主張が対立していたと伝えられる。前者は産業界への負担を避けたい経済産業省が、後者は温暖化対策推進の環境省が、それぞれ論陣を張ったとされる。結果的に首相の選択は、環境省の意見を汲んだ形にみえる。http://rief-jp.org/blog/112795?ctid=33

 

 現行の30年目標も含め、従来の政府の目標立案の基本姿勢は、各省庁が実現可能と思う対策と水準を足し合わせて積み上げる前者の方式が主だった。ボトムアップ方式である。しかし、これでは現状を大きく変革するインセンティブがあまり生ぜず、目標と実際の施策との乖離が大きくなり、目標にはなかなか到達できないという弱点が指摘されていた。

 

 一方の「野心」方式では、高い目標を設定し、それを達成するために、新しい規制や補助金等のアメとムチの政策を総動員し、現状の経済社会活動に転換の圧力をかけて、目標達成を求める。いわばトップダウン方式である。あるいは高く設定した目標の達成に貢献する政策を導き出し、現状に適用していくことからバックキャスティング方式とも呼べる。

 

 今回の目標改定では、日米とも、従来の積み上げ方式をやめ、トップダウン・バックキャスティング型に切り替えたようにみえる。だが、米国のバイデン政権の説明をみると、「NDC(国別温暖化対策貢献)の改正は、詳細なボトムアップ分析に基づく政府全体アプローチによるもの」としている。

 

 米国流の「ボトムアップ分析の詳細」として、温室効果ガス削減技術の利用可能性、現状のコスト、将来のコスト削減推計、事業や技術等を実現可能にするインフラの役割、基準、インセンティブ、プログラム、そしてイノベーションのための支援策等も、すべて分析に加えている、としている。

 

 その分析結果については、大統領直轄の国家気候タスクフォースが、年後半にも公表する国家気候戦略の中に盛り込む、としている。またこうしたボトムアップ分析と並行して、多様なステークホルダーからの意見集約のプロセスを踏んだ。労働者、若者、環境NGO、ビジネス界、大学等の研究者、科学者、州知事、市長、先住民リーダー等の意見を集めたとしている。幅広く意見を集めるという意味で、ステークホルダープロセスも、ボトムアップなのである。

 

 つまりトップダウンでの野心的な目標の実現可能性を、将来推計と各ステークホルダーの意見を吸い上げて、「国家の覚悟」として据える、いわばハイブリッド型といえる。わが国の「野心的」「トップダウン型」「バックキャスティング風」の2030年目標設定は、米国流のボトムアップ分析や、ステークホルダーの意見を集めるプロセスを踏んだのだろうか。

 

 政府は3月後半に官邸に「気候変動対策推進のための有識者会議」を設置し、10人の「有識者」から意見を聞く場を設けたが、「10人10色」の話を聞くだけで、国を構成する多様なステークホルダーとの対話が事足りるとするつもりははないだろう。その有識者会議」では傾聴すべき指摘も出ている。

 

 「日本の2030年目標への期待の1つは水準。それと並んで重要なのは、この目標のつくり方が信用されるもの、世界から信任されるものでなければならない。一つの大きなビジョンを示し、それを担保するきちんとした政策が打ち出されていることが重要」との意見だ。今回の目標設定は、こうした意見に答える内容になっているかどうか。

 

 懸念されるのは、今回の政策決定においても、欧米が懸命に取り組もうとしている「科学的なアプローチ」や「透明なプロセス」とは別に、役所同士が数字の多寡だけでの従来型の綱引きを続けた挙句、結局は、米国の目標の設定を「政治的尺度」として推し量り、米国の目標値を超えず、離れずで、決定したのではないかと思われる点だ。「エイヤッ!」と。

 

 もしそうだとすると、十分なボトムアップ分析もなく、透明なプロセスも経ず、米国に追随することを優先した対米追随外交でしかない。それならば、野心的でも、トップダウンでも、バックキャスティングでもない。ただ、自虐的に考えると、仮にそうだとしても、米国が今後、「野心的なボトムアップ」アプローチで導入を促進する再エネや省エネ、インフラ強化、サステナブルファイナンスの情報開示、市場ルールづくり等も、コピーしてわが国に導入するというのであれば、従来型の積み上げ方式に固執するよりはましとの見方もできる。

 

 日本の「46%目標」水準の妥当性については、国際比較での検証も必要だ。政府が基準年とする2013年度は、11年度の東日本大震災後による福島第一原発事故で全国の原発が停止し、火力発電がフル稼働した年だ。つまり温室効果ガス排出量が最大の年なので、その年を基準とすると、削減効果がより大きく見える。ちなみに、米国と同じ2015年でみると、日本の削減率は41.5%に下がる。EU等が採用する90年比でみると、38%削減でしかない。

 

 いずれの「修正値」も、国連が2050年ネットゼロと整合的な2030年目標と想定する世界平均より低い。菅首相には、詳細なボトムアップ分析を政府に指示し、「さらに50%の高みに向けた挑戦」を実践するとともに、目標への信頼を高めるため、30年目標についても、毎年の予算と連動する法的目標として位置付けることを求めたい。

                             (藤井良広)

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/04/22/fact-sheet-president-biden-sets-2030-greenhouse-gas-pollution-reduction-target-aimed-at-creating-good-paying-union-jobs-and-securing-u-s-leadership-on-clean-energy-technologies/

https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202104/22ondanka.html