HOME8.温暖化・気候変動 |国際航空業界団体のIATA、航空機からの2050年の温室効果ガス排出量削減目標を現行の50%から「ネットゼロ」に引き上げ採択。中国航空会社の反対も、多数決で決着(RIEF) |

国際航空業界団体のIATA、航空機からの2050年の温室効果ガス排出量削減目標を現行の50%から「ネットゼロ」に引き上げ採択。中国航空会社の反対も、多数決で決着(RIEF)

2021-10-07 21:55:21

IATA001キャプチャ

 

  国際航空運送協会(IATA)は4日、米国ボストンで開いた年次総会で、2050年に航空機からの温室効果ガス排出量をネットゼロとする目標を採択した。中国の東方航空は中国政府のネットゼロ目標が2060年としているため、国の目標と合致しないとして反対を表明したが、賛成多数の多数決で採択した。世界の航空業団体が50年の脱炭素目標で合意したのは初めて。航空業界はバイオ原料などを使う持続可能な航空燃料(SAF)への切り替えを加速させることになる。

 

 IATAは世界117カ国の航空会社290社が加盟。参加会社全体の定期運航の有効座席km数は、コロナ禍前の段階で82%を占めている。 2050年の温室効果ガスの削減目標はこれまで50%(2005年比)削減だった。今回の「ネットゼロ宣言」は目標を倍増させる形で、欧州の航空業界がリードして実現した。

 

 IATA事務局長のウィリー・ウォルシュ(Willie Walsh)氏は「航空業界にとって、ネットゼロは大胆な目標だが、同時に必要な目標でもある。本日、われわれが下した重要な決定は、将来世代のために『飛ぶ自由』を確保することになるだろう。総会に参加した各社、各グループは、すでにそに向けたステップを踏み出している」と強調した。

 

 ただ、IATAは業界団体であり、ネットゼロ目標を達成できなかった加盟企業に対する罰則は設けない。しかし、「ゼロ未満航空」は「ネットゼロ航空」との競争で不利になる可能性がある。脱炭素経済社会への移行段階で生じる移行リスクのうちの市場リスクの顕在化が予想される。

 

 決議に反対した中国の東方航空などの反対理由は、中国政府が気候温暖化対策でのネットゼロ目標を2050年ではなく、2060年としている政府方針との整合性を主張した。逆にいうと、10月末から開催する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で中国の60年目標の前倒しが期待されており、東方航空等の対応も、国の目標次第といえる。

 

 航空会社が負う温室効果ガス排出量の99%は、航空機のジェット燃料の燃焼による排出が占める。IATAは50年目標を実現するには、燃料全体に占めるSAFの割合を現状の2%から65%まで高める必要があるとし、その実現に向けたロードマップを示した。

 

 SAFは木くずや微細藻類などのバイオ原料から製造する。石油由来のジェット燃料と比べて温室効果ガス排出量を約8割減らせる。すでにわが国でも、木くずや微細藻類を原料としたSAFを使った定期便は今年6月に日本航空、全日空がそれぞれ実証フライトを実現している。

 

 ただ、世界中の航空便に供給するためには、SAFの生産量を現状の約4500倍に増やす必要がある。同時にコスト低下も必要だ。現行のSAF価格はジェット燃料の約4倍という。航空会社の中には、燃料転換ではなく、航空機自体を電気航空機(EP)、あるいは水素エネルギーへの転換を目指すところも出ている。SAFか、EPか、水素化かの選別は、今後の技術進展とコストダウンの行方にかかっている。

 

  IATAは、コロナ禍(COVID-19)の影響による世界の航空業界の累計損失額は2020年から2022年にかけて2010億㌦(約22兆円)に達したことも発表した。世界の総旅客数は2021年が23億人、2022年は34億人に増える見通しだが、それでも2014年と同水準で、コロナ前の2019年の45億人を大幅に下回る見込みという。

https://www.iata.org/en/pressroom/speeches/2021-10-04-01/