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ポルトガルの若者6人が、気候危機なのに政府が十分な対策をとらないのは「基本的人権の侵害」として欧州33カ国政府を「欧州人権裁判所(ECHR)」に提訴した裁判で、初の審理開催(RIEF)

2023-09-28 18:27:07

ECHR001キャプチャ

写真は、欧州33カ国政府を相手にした「気候・人権訴訟」に取り組むポルトガルの若者たち。手前が最年少11歳のMarianaさん=英Guardianより)

 

   気候変動激化の影響で、毎年、大きな森林火災に見舞われているポルトガルの11歳から24歳の若者6人が、EU加盟国のほか、英国、スイス等を含む欧州33カ国を相手に、気候危機に対する対策が不十分だとして緊急行動を求めて「欧州人権裁判所(ECHR)」に提訴していた訴訟で、ECHRは27日に初の審理を開いた。原告らは、気候危機への対応はポルトガル政府だけでなく、欧州のすべての国に責任があるとして、「6人対33カ国訴訟」に踏み切っていた。審理が行われたことで、判決が下される可能性が強まった。日本や米国、中国等の各政府も同等の責任を負うが、十分な対策はとっておらず、実質的な被告国といえる。

 

 訴訟を起こしているのは、Cláudia Duarte Agostinho、Catarina dos Santos Mota、Martim Duarte Agostinho、Sofia dos Santos Oliveira、André dos Santos Oliveira、Mariana Duarte Agostinhoの6人。ポルトガルのリスボンとレイリアに住む若者たちだ。このうちMarianaさんがもっとも若い11歳。2020年9月に提訴した。https://rief-jp.org/ct8/106308?ctid=

 

 27日の審理のためにECHRが公表した資料によると、原告たちは訴訟理由について、ポルトガルでは2017年以来、各地で毎年のように森林火災が発生しており、これらの火災は、温暖化による直接的な結果だと指摘。森林火災で立ち上る煙等の影響によって、人々の健康が害されている、としている。原告たちはそれぞれ、睡眠障害やアレルギー、呼吸器疾患等を抱えており、森林火災と相次ぐ気温の上昇で悪化している、としている。

 

ECHRでの審理に参加するポルトガルの原告たち
ECHRでの審理に参加するポルトガルの原告たち

 

 原告らは、気候変動の激化による自然災害の増大が引き起こす懸念として、温暖化によって彼らの生涯を通じて、生活負担が増大し、将来の家族にも影響が及ぶことへの不安が高まっているとしている。こうした状況に陥るのは、被告の欧州33カ国政府が、欧州人権条約が定める第2条(生活権)、同8条(個人や家族の生活を尊重されるべき権利)の維持を、パリ協定に基づく気候対策において十分に果たしていないため、と指摘している。

 

 また同14条(差別の禁止)に照らし、すでに若い世代(特に原告世代)は高齢世代に比べて、気候変動の影響をより多く受ける状況になっており、これは14条に抵触している、と主張している。

   原告の主張は、気候危機の増大にも関わらず、政府の不十分な対策によって、彼ら及び多くの市民の「基本的人権」が毀損されている、というものだ。ただ、各国政府に対しては、損害賠償を求めず、適切な政策の、迅速な履行を求めている。

 支援のポルトガルの環境団体「Zero」は、「欧州各国政府は気候カタストロフィーを防ぐための緊急行動をとる法的義務がある。今回の訴訟は世界でも最大の気候訴訟だ」と強調した。特にEUに対して「温室効果ガス(GHG)の排出削減を2030年までに少なくとも現行より65%削減し、ネットゼロ目標は2040年に達成すべきだ」と述べ、排出削減目標のさらなる引き上げを求めている。

 一方で、各国政府側は、「原告たちには、気候変動あるいはポルトガルで発生した森林火災の直接的な結果として、どのような被害を被ったのかという十分な立証ができていない」と反論しているという。また、気候変動が人々の生活や健康に直接の影響を及ぼすことを示すエビデンスはない等とし、各国政府が責任を負う気候政策は、ECHRの判断の領域外、としている。

 27日の審理にはECHRの判事が22人参加した。一つの裁判での参加判事数としては異例に多いという。被告国数が多いことだけではなく、気候変動の人権領域への法的な影響を判断することの重要性に対して、ECHRの判事たちの関心が高まっていることを映しているようだ。

 今回の審理を踏まえ、ECHRは第三者関係者等からのヒアリング等も重ね、今後、9カ月から18カ月以内で判断を下すことになる。現行の人権条約では基本的人権に関して気候危機への対応を定めていないことから、法的判断に加えて、条約の改正もあり得るとの指摘も出ている。第三者には、欧州の約200の環境NGOらで構成する欧州気候アクションネットワーク(ECAN)も参加する。

 BBCは、欧州評議会(Council of Europe)の人権担当コミッショナーのDunja Mijatovic氏が、自身もこの訴訟に第三者として参加するとしたうえで、「今回の訴訟は、国家が気候課題と人権との関係をどう示すかが問われる。EU加盟国に対する警鐘にも、国際機関に対する警鐘にも、さらに、われわれすべてに対しての警鐘にもなる」と発言したと伝えている。

https://www.bbc.com/news/world-europe-66923590

https://zerowasteeurope.eu/member/zero-association-for-the-sustainability-of-the-earth-system/

https://hudoc.echr.coe.int/eng-press#{%22itemid%22:[%22003-7758036-10743628%22]}