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気候変動で「酔っぱらう」木々(National Geographic)
2014-04-23 00:04:28
アラスカ先住民の長老、サラ・ジェームズ(Sarah James)氏は、地球温暖化によりアラスカが急激に変化していると述べる。森の木も真っすぐには成長しなくなった。地面が溶解することで木が傾いたり、倒れたりしている。
「永久凍土が溶け、広範囲な侵食が起こっている」と、アラスカ北東部の小さな先住民居住地、アークティック・ビレッジ(Arctic Village)に住むジェームズ氏は言う。「真っすぐに立っていられない木が多い。侵食がさらに進むと、あらゆるものが影響を受けるだろう」。
永久凍土とは常に凍った状態の土地である。しかし、気候変動によってその大部分がかつてないスピードで溶解している。地面は歪んだり沈んだりし、そのために木が大きく傾いているのだ。
曲がった木はまるで酔っぱらいが歩いているように見えるので、人々はこうした木を「酔っぱらった木」と呼んでいる。
木だけではない。永久凍土の溶解により地面が沈み込むことで歩道に亀裂が生じ、パイプラインが壊れ、地面に穴が開き、住宅や道路に大きな被害が出ている。「家が安全ではなくなったために引っ越さなければならなくなった家族がたくさんいる」とジェームズ氏は語った。
◆「酔っぱらった木」の科学
アラスカ、フェアバンクスの永久凍土研究者、トーリ・ジョーゲンソン(Torre Jorgenson)氏によると、地表下の氷の結晶が溶けると地面が10メートルもの広さに渡って沈み込むことがあるという。「沈み込んだ地面に家がすっぽり呑み込まれることもある」と、政府調査機関アラスカ・エコサイエンス所長を務める同氏は説明する。
同氏によると、「酔っぱらった木」はアラスカ、カナダ、北ユーラシア大陸の低地にある高木林において顕著に見られる現象となっている。地面の傾斜が大きい場所では氷が溶けてできた水は通常、下に向かって急速に流れるため、地表はあまり影響を受けない。カバノキやクロトウヒは根が浅く、最も傾きやすい種だという。
今世紀末までに永久凍土の大部分が溶けるだろうと予測する気候変動モデルもあるが、凍土の上の地層が断熱材の役割を果たすため、すっかり溶けるまでにはもっと時間がかかるのではないかというのがジョーゲンソン氏の考えだ。しかし、フェアバンクスの北部地域では今世紀末までに4〜6度気温が上昇すると予測されている。
「過去百年間に気温はおよそ1.5度上昇しており、大打撃がやって来るだろう」と同氏は述べる。
◆「サーモカルスト」とは?
「酔っぱらった木」や木の倒壊は、北極地域で起きている環境変化の徴候としてわかりやすい例だ。永久凍土の溶解による地面の崩壊は専門用語で「サーモカルスト」と呼ばれる(サーモは熱、カルストは崩壊を意味する)。
サーモカルストが起こると、木が倒壊するだけではなく、地面が沈み込んでできた窪みに溶けた水が集まり、しばしばサーモカルスト湖と呼ばれる湖が形成される。「酔っぱらった木」を水が取り囲むようにして湖ができることが多い。
「北極地域の永久凍土の溶解はとても深刻な問題だ。北極地域の温暖化によって地球全体と地域の人々の生活に大きな影響がある」と、フィンランドの非営利環境・文化保護団体、スノーチェンジ・コオペラティブ(Snowchange Cooperative)会長テロ・ムストーネン(Tero Mustonen)氏は述べる。特に懸念されるのは、溶けた地面から強力な温暖化ガスであるメタンが放出されることだという。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140422001