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国連IPCCの気候変動報告 「政治的理由」で多くのデータが消されていた 国別の排出データなど 国際的枠組み構築に影(National Geographic)

2014-07-06 19:42:27

中国、蘇州近郊にあるこの大規模な石炭火力発電所から、北京へ電力が供給されている。IPCC報告書の概要からは削除されたが「Science」誌上で公開されたグラフでは、近年温室効果ガス排出量が急上昇している原因がアジアにあることが示されている。
中国、蘇州近郊にあるこの大規模な石炭火力発電所から、北京へ電力が供給されている。IPCC報告書の概要からは削除されたが「Science」誌上で公開されたグラフでは、近年温室効果ガス排出量が急上昇している原因がアジアにあることが示されている。
中国、蘇州近郊にあるこの大規模な石炭火力発電所から、北京へ電力が供給されている。IPCC報告書の概要からは削除されたが「Science」誌上で公開されたグラフでは、近年温室効果ガス排出量が急上昇している原因がアジアにあることが示されている。


国連の気候変動に関する最新の主要報告書が4月に公開されたが、そこではいくつかの国ごとの排出量データが政治的な理由から削除されていた。最新の3論文ではこの削除されたデータについて議論し、気候科学が国際政治問題化することについて警鐘を鳴らしている。

世界中の科学、政策、経済の専門家数千人によって執筆された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、気候が温暖化している証拠、地球に与える影響、最悪の結果を回避する方法に焦点を当て、既存の気候研究に関わる知識が総合的に示されている。政策決定者向け要約では、詳細な技術報告書を活用し、二酸化炭素排出量の削減と気候変動に向けての準備が提言されている。

IPCC第5次主要報告書で提供されている基本的な技術資料については広く合意が得られそのまま公開されているが、「Science」誌の編集者ブラッド・ワイブル(Brad Wible)氏が7月3日公開された3本の論文の前書きに書いているように、「科学者と外交官との間で激しい折衝が行われた結果、影響力の大きい『政策決定者向け要約』からかなりの図と文章が削除された」。

ワイブル氏は「このような内容の編集が行き過ぎた政治的利益を際立たせ、科学者と政策決定者の間での分業に関する疑問や、複雑な科学を評価する新しい戦略を要求する動きが起こるおそれ」があると指摘している。

一方で、政策要約はより明確に国家の政府と共同で作成すべきという評者もいるとワイブル氏は話す。

このような議論に火が付いたのは、IPCCの報告書が4月に公表されてほんの数日後のことだ。報告書の共著者で環境経済学を専門とするハーバード大学のロバート・スタビンス(Robert Stavins)教授はそのとき、IPCCのリーダーに物議を醸す公開書簡を送っている。スタビンス氏は、ベルリンでのIPCC報告書承認手続きの段階になって、いくつかの国の政府が土壇場で介入し、出来上がった政策要約の文書を「政策決定者による要約であって、政策決定者向け要約ではない」と称したことを批判した。

「2時間にわたる渉外グループの審議で、集まった各国代表者がSPM.5.2(政策決定者向け要約)の文章を承認するには、“意見の分かれる”文章をすべて削除するしかないことが決定的となったが、それは文章全体の75%近くを抹消することを意味した」とスタビンス氏は4月25日に自身のブログで述べている。

◆個々の国別データの価値

最新の報告書承認のため4月にベルリンで開かれたIPCCの会議で、いくつかの国の代表者たちが要約中のあるセクションに意義を唱えたという。それは国別の排出量のリストで、国はその経済状況によって分類されていた。この話をしてくれたのは、4月公開されたIPCC報告書の政策議論について執筆した主著者のひとりで、今回の論文の1つの筆頭著者でもある、カリフォルニア大学のデイビッド・ビクター(David Victor)教授だ。反対した国としては、ブラジル、中国、マレーシア、サウジアラビアが挙げられるという。

ビクター氏らは「Science」誌の論文で、国家収入の増加が排出量と強い相関を持つ要因だと述べている。国民1人あたりの排出量が最も高いのは相変わらず先進国だが、この数十年、世界の排出量増加分の多くは発展途上国で発生している。

IPCCの要約から削除されたあるグラフが、「Science」の論文で公開された。近年の温室効果ガス排出量の増加の多くが、アジアによってもたらされていることを示すものだ。中東、アフリカ、中南米による増加はそこまで大きくない。先進国の排出量も増加し続けているが、増加率はずっと緩やかだ。

ビクター氏にとってこの傾向から論理的に導かれる結論は、「先進国はより一層気候変動問題に取り組むべきだが、発展途上国を巻き込むことなく世界の気候を安定させることが数学的にみて不可能であることもまた事実」ということだ。

もしIPCCが国をその経済状況によって分類するなら、各国の責任が何であるかについて「政治的議論の土台」ができるのだが、と彼は話す。

しかし、国によっては分類が「新しい国際気候レジームに向けての今後の交渉に不利になるおそれがある」ことを懸念していると、IPCC報告書の著者、オットマー・イーデンホーファ(Ottmar Edenhofer)氏とジャン・ミンクス(Jan Minx)氏は「Science」誌掲載の別の論文「Mapmakers and Navigators, Facts and Values(地図を作る者と道を進む者、事実と価値)」で述べている。

全ての国のデータが政策要約の外であらわになったが、それでもなお他の有益な情報は失われているとビクター氏らは主張する。例えば、そのデータなしでは排出取引の効果を理解するのは難しい。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140704004