HOME8.温暖化・気候変動 |福島原発事故と温暖化目標。「飯館村」住民の思いに答えているか。未来のための温暖化対策を目指しているか(藤野純一氏) |

福島原発事故と温暖化目標。「飯館村」住民の思いに答えているか。未来のための温暖化対策を目指しているか(藤野純一氏)

2015-03-30 22:22:36

藤野純一氏


藤野純一氏
藤野純一氏


日本の2030年の温暖化目標に関する委員会で発言しました。
ご一読頂けましたら幸いです。(藤野純一国立環境研究所主任研究員)

————————————————
先日、飯舘村の40代の男性の方のお話を聞く機会がありましたので、この場を借りて共有させて頂きます。




震災前は、おじいちゃんとおばあちゃん、奥さん、娘・息子の三世代家族で、農業を基盤に息子夫婦が働きに出るという飯舘では、典型的な暮らしをしていた方でした。震災後すぐ、子供だけは避難させないと、という雰囲気の中で、まず、奥さんと子供二人を山形県山形市に避難させ、数カ月後、幼稚園児の息子だけ山形県米沢市に避難させたとのことです。

 

毎週末会いに行くたびにぐずっていたのが、そのうち背中を向けて声も発さない、不安定になっていく息子さんを見て、家族で一緒に暮らさないと家族が壊れてしまうと、一緒に暮らせる家を福島県内に探したそうです。避難先の部屋の狭さから、今でもじいちゃん、ばあちゃんとは一緒に暮らせていません。

 

震災後、自分たちだけでなく子どもたちも何度も検査を受けていて、後日結果を知らせる封筒が届くそうです。封を開ける前は今でも、悪い結果でありませんようにと、神様に祈るそうです。

 

そんな彼が言ったことは、他の誰にも、自分や家族のような目に合って欲しくない。だから原発はもういらない、と。

 

ベストミックスの議論に、彼のような原発事故被害者の体験は加味されているのでしょうか。過去のトレンドから、将来できることはこれしかないという議論に、陥ってはいないでしょうか。

 

2030年、申し訳ないが、今、この議論に関わっている中には、もういらっしゃらない方もいるでしょう。2030年の議論は2050年につながるものです。2050年、この中にどれだけの人が生きているだろうか。自分も自信がありません。

 

私たちは2030年、2050年に中心になって活躍する、彼の子どもたち、みなさんの子ども、孫、まだ見ぬ子孫のために、約束草案の議論を行っているはずです。彼らが望む2030年、2050年はどんな姿だろうか。できる、できないの議論だけでなく、彼らが望む未来を実現させるために、どんなことが必要で、どんなことをやったら実現できる可能性が高くなるのか、そういった議論もしないといけないのではないでしょうか。

 
誰が、お父さん、お母さんに、「あなたの娘さん、息子さんは絶対安全ですよ。将来も問題ありませんよ。」と言えるのでしょうか。私たちは、お父さん、お母さん、娘さん、息子さんに、少しでも希望が感じられるエネルギーミックスを、温暖化対策を示すことができるのでしょうか。

 

2011年6月21日に初めて飯舘村を訪問し、ご縁があって2011年8月から飯舘村の復興計画づくりにかかわり、また福島の方々と関わらせて頂きながら、結局自分は何もわかっていなかったという、自分自身に対する反省を共有させて頂きました。貴重なお時間をありがとうございました。

 

2015年3月30日
藤野純一

http://www.nies.go.jp/researchers/100066.html

中央環境審議会地球環境部会2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会第6回(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループとの合同会合)
日時:平成27年3月30日(月)13:00~15:00
場所:経済産業省本館 地下2階 講堂(東京都千代田区霞が関1-3-1)
————————————————

https://www.env.go.jp/press/100707.html