HOME8.温暖化・気候変動 |もう一つの「共通だが差異ある責任」。CO2排出量の50%は世界上位10%の富裕層に排出責任。 下位50%の貧困層の排出量は10%だけ。英NGOが報告書で指摘(RIEF) |

もう一つの「共通だが差異ある責任」。CO2排出量の50%は世界上位10%の富裕層に排出責任。 下位50%の貧困層の排出量は10%だけ。英NGOが報告書で指摘(RIEF)

2015-12-02 17:12:38

Oxfamキャプチャ

 英国のNGO「オックスファム」は2日、化石燃料由来のCO2(二酸化炭素)排出量は、世界上位10%の富裕層が全体の50%を占め、下位50%の貧困層35億人の排出量は10%にすぎない、との報告書を公表した。一方、気候変動の被害は貧困層に集中している。もう一つの「共通だが差異ある責任」をどう扱うか。

 

 オックスファムは貧困問題等に取り組んでおり、パリで開いている国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に向けて、報告書「Extreme Carbon Inequality(カーボン不平等の拡大)」を公表した。同書は、各国間の富裕層と貧困層の生活スタイルを比較してCO2排出量を推計した。

 

 COP21は、国ごとの排出量の扱いが議論となる。このため中国やインドなど、この10数年、急成長してきた新興国は、そこで暮らす市民も、排出増の責任を問われる形だ。しかし、報告書は、これらの国の排出増の多くは、他国市場で使う消費財製造に伴うもので、新興国の市民のライフスタイルからのCO2排出量は、依然、先進国の市民に比べてかなり低い、と指摘している。

 

 所得階層別に1人当たりのCO2排出量を比べると、上位1%の超富裕層は、最下位10%の貧困層の175倍にも上る。また国ごとの貧富の差も大きい。インドの上位10%の富裕層の平均排出量は米国の50%以下の貧困層の4分の1の排出量にとどまっている。インドの50%以下の貧困層の排出量は、米国の同じ貧困層の20分の1となる。

 

 また中国の貧困層6億人の全体の排出量は、米国の上位10%の富裕層3000万人の排出量全体の3分の1でしかない。

 

 オックスファムの食糧・気候政策分野のヘッドである Tim Gore氏は「気候変動と経済面での不平等性は、密接不可分につながっており、この両方の問題解決こそが21世紀最大のチャレンジだ。パリでの合意はは、『持てる人々』のためだけではなく、『持たざる人々』」、しかも気候変動にもっとも責任を負わず、被害だけを受けやすい人々のためにもなる新たな経済の仕組みを構築すべきだ」と指摘している。

 

 報告書は「気候変動に対する責任が最も大きいのは急速な発展を遂げつつある新興国の国民だという社会的迷信を一掃する上で役に立つ」とも説明している。また、パリ合意が事実上の「現状維持」で終わった場合、もっとも利益を受けるのは、富裕層のうち化石燃料産業に投資しているグループであるとしている。

 

 これまでの温暖化対策の国際交渉では、産業革命以来、地球上にCO2を排出し続けてきた先進国の責任を問う形で「共通だが差異ある責任」論が途上国から指摘されてきた。京都議定書はそうした指摘を受けて、排出削減義務を先進国だけにかける枠組みとした。

 

 COP21は、「共通」の部分にウエイトが置かれ、先進国も途上国も排出責任を負う合意づくりを目指している。しかし、オックスファムの報告書は、先進国と途上国という国ごとの「差異」だけでなく、富裕層・貧困層の間での「差異」も極めて大きいことを改めて浮き彫りにした。COP21の合意形成で、こうした「差異」をどう扱うか注目される。

 

https://www.oxfam.org/