カナダの・カーボン・エンジニアリング社、大気中のCO2からガソリンを開発、実用化へ道筋。夢の「炭素フリー」燃料、低価格化が見えてきた(National Geographic)
2018-06-20 18:12:46
家の近くのガソリンスタンドで、「レギュラー、ハイオク、それとも炭素フリーにしますか」と聞かれる日が来るかもしれない。 カナダのカーボン・エンジニアリング社は、低コストで大気から二酸化炭素を回収し、それを水素と合成して液体燃料を製造することに成功、エネルギー専門誌「Joule」に論文を発表した。
(写真は、大気から回収したCO2で作った液体燃料)
カーボン・ニュートラル
これは、2つの点で有意義な技術である。一つは大気中の二酸化炭素を回収できること、もう一つは回収した二酸化炭素を使ってガソリンや軽油、ジェット燃料を製造できることだ。大気で作った燃料なら、二酸化炭素を排出してもプラスマイナスゼロ、つまり「カーボン・ニュートラル」だ。(参考記事:「燃料いらずの夢の宇宙エンジン、第三者が初の検証」)
「気候変動の影響から地球を救うことはできないまでも、低炭素経済の実現へ近づく大きな一歩となるでしょう」と、論文著者であるデビッド・キース氏は語る。同氏は米ハーバード大学応用物理学教授で、カーボン・エンジニアリング社の創立者でもある。
大気から二酸化炭素を回収し、燃料を作るという技術自体画期的ではあるが、キース氏によると、それ以上に3000万ドルの投資、8年におよぶ研究、そして正確な工程を練り上げるための「数万という細かい調節」が必要だったという。
二酸化炭素の回収にかかる費用を1トンにつき100ドル以下に抑えることも重要だった。カーボン・エンジニアリング社は、2015年からカナダのブリティッシュ・コロンビア州スコーミッシュで実験プロジェクトを実施、既存の工程を応用しつつ、規模を拡大して費用を大幅に削減した。(参考記事:「カナダのCO2回収貯留施設が1周年、普及の鍵は」)
「論文では、年間100万トンの二酸化炭素を回収できる本格的な工場にかかる経費とエンジニアリングについて説明されています」と、キース氏は言う。
これまで、二酸化炭素回収には少なくとも1トンにつき600ドルかかると考えられてきた。大量に回収するとなると、費用がかかりすぎて実際的ではない。世界では、化石燃料の燃焼によって毎年400億トン近くの二酸化炭素が大気に排出されている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、地球の気温上昇を2度未満に抑えるという国際的な目標値を維持するには、何らかの方法でこの二酸化炭素を大量に回収して永久的に貯留する技術が必要であるとしている。(参考記事:「温暖化対策の切り札「CO2回収・貯留」が地球にとっては逆効果?」)
だが、1トンにつき100ドルでも、二酸化炭素を買い取りたいという業者は少ない。そこでカーボン・エンジニアリング社は、カーボン・ニュートラルな液体燃料を作ることにした。回収された二酸化炭素を、水を電気分解して得られた水素と合成する。大量の電力が必要だが、スコーミッシュの試験プラントでは、再生可能な水力発電を利用している。
その結果でき上がった合成燃料は、ガソリン、軽油、ジェット燃料として混合してもよいし、それだけで使うことも可能だ。これを燃焼すると、排出される二酸化炭素の量は燃料を製造するのに使われた量と同等になるため、カーボン・ニュートラル(炭素中立)になるという仕組みだ。
化石燃料と競争できるか?
同社最高経営責任者のスティーブ・オールダム氏はインタビューのなかで、「今のところは1バレルの原油よりも費用がかかりますが、カリフォルニア州のように低炭素燃料基準があるような地域で、排出量1トンにつき200ドルの『炭素価格』がつくようになれば、十分競争できると思います」と語った。
「炭素価格」とは、二酸化炭素を排出する企業がその排出量に応じて支払うコスト。ブリティッシュ・コロンビア州では、1トンにつき35カナダドルの値が付き、炭素税として徴収されている。カナダ全体では、2018年9月に10ドルと定められ、2022年にはそれが50ドルにまで引き上げられる。米国で炭素税を導入している州はないが、ワシントン州は排出量1トンにつき「炭素汚染料」として15ドルを徴収する発議案を住民投票にかける予定だ。(参考記事:「大都市の温暖化ガス、実は60%増、消費ベースで」)
「とても楽しみなプロジェクトです。Joule誌で示されている数字は期待が持てそうです」と、1990年代に大気から二酸化炭素を回収するという概念を提唱した米アリゾナ州立大学ネガティブ・カーボン・エミッション・センターのクラウス・ラックナー氏は言う。カーボン・エンジニアリング社は、それが実現可能であり、費用対効果も高いことを証明した。産業界にとって非常に重要な一歩であると、ラックナー氏はインタビューで語る。
次の段階は、スケールの拡大だ。「炭素フリー」燃料を大量に生産する本格的な工場の数を増やしていけば、さらなる低コスト化が図れる。太陽光や風力エネルギーも、生産規模の拡大により数十年の間に大幅にコストが下がった。価格が下がれば、参入者も増えるだろう。(参考記事:「ドイツが挑むエネルギー革命」)
「(気温上昇を2度未満に抑えるには)この産業が1兆ドル規模になる必要があります。途方もない規模と思われるかもしれませんが、今の航空産業の方がはるかに大きいですから」と、ラックナー氏。
カーボン・エンジニアリング社は、低コストの再生可能エネルギーを使って1日に200バレルの合成燃料を製造する大規模工場を建設中である。2020年の操業開始を見込み、この技術をライセンス化することも検討中だ。
「規模を拡大して、世界的な市場にすることは十分可能だと思います」と、オールダム氏。「必要な原料は空気と水だけ。それにわずかな電力さえあれば」。そして、この技術のライセンスを取ることだ。(参考記事:「ソーラー道路の開発進む、仏は5年で1000kmに」)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/061300258/