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東京電力福島第一原発事故、政府指定の特別除染地域(SDA)の除染率は約15%のまま。未除染の森林から放射性物質が流出継続。廃炉計画も事実上破綻。環境NGOが調査で指摘(RIEF)

2021-03-07 15:28:08

fukushima001キャプチャ

 

 環境NGOのグリーンピースは、東京電力福島第一原発事故による同団体の検証作業の結果、政府が実施したとする放射線除染事業では森林のほとんどがカバーされず、特別除染地域(SDA)の85%が今も、除染されないまま放置されていることを指摘した。また、現行の東電による廃炉計画が今後、30~40年以内に成功する見込みは低いとして、独自の代替案を提示した。

 

 グリーンピースは福島事故発生直後から、独自に放射線専門家チームを編成、過去10年間で32回の現地調査を実施した。今回、その10年に及ぶ活動をまとめた「福島第一原発 2011-2021年:除染神話と人権侵害の10年」と、政府・東電の現行の廃炉計画に代わる案を提示する「福島第一原子力発電所の廃炉計画に対する検証と提案 ~プランAからプランB、そしてプランCへ~」という2つの報告書を公表した。

 

 前者の調査報告書では、政府が実施したとする除染データの分析から、政府が除染責任を負う840㎢の特別除染地域(SDA)の大部分が、除染不足の結果、放射性セシウムに汚染されたままであり、除染面積はSDA全面積の15%程度に過ぎない、と指摘している。

 

除染作業の様子(グリーンピースサイトから)
除染作業の様子(グリーンピースサイトから)

 

 政府が長期的な除染目標としている毎時0.23マイクロシーベルトの水準の達成については、事故から10年を経た現在でも、達成時期は示されていないままになっている。被害地域に帰還した住民は、公衆被爆限度の年間1㎜シーベルトを超える放射線に何十年も曝されることになる、と警告している。

 

 2017年に避難指示が解除された地域のうち、特に浪江町と飯舘村では、放射線レベルが安全とされるレベルを超えた状態が続いており、現地で生活する住民は潜在的ながんリスクに曝されている可能性がある、としている。こうしたリスクが残ったままの地域への避難指示の解除を継続する計画は、公衆衛生の観点から受け入れられない、と政府の施策を批判している。

 

グリーンピースの放射線調査チーム(同)
グリーンピースの放射線調査チーム(同)

 

 SDAでの除染活動には、2018年までで、延べ1300万人の除染作業員が雇用された。だが、同事業に従事する労働者のほとんどは低賃金の下請け業者で、限定的な効果しかない除染プログラムのために、不当な放射線リスクに曝されてきた、と指摘している。

 

 もう一つの「福島第一原子力発電所の廃炉計画に対する検証と提案」報告書は、元ゼネラル・エレクトリック社で東電福島第一原発などに勤務していた原子力コンサルタントの佐藤聡氏が執筆した。

 

 同氏は、現行の廃炉計画の問題点として、①3基の原子炉圧力容器に残る数百㌧の燃料デブリを回収するための信頼できる計画がない②原子炉を冷却するための水、建屋に流入する地下水の汚染、タンクに蓄積される放射能汚染水は、新たなアプローチを採用しない限り、今後も増え続ける③燃料デブリが回収されたとしても、それを敷地外で保管するのは非現実的。現行ロードマップの30~40年との時間枠では達成不可能--と指摘している。

 

提案された「プランC」
提案された代替案の「プランC」

 

 同氏は代替案として、①長期的に安全な格納容器を建設し、燃料デブリの除去を50~100 年以上遅らせることを含め、アプローチを抜本的に再考し、新たな廃炉計画を立てる②中長期的には、補強を施した一次格納容器を不完全な一次境界、原子炉建屋を二次境界として、放射能を閉じ込める。並行して、作業員を放射線リスクから守るためロボット技術を開発する③放射能汚染水の増加を防ぐため、燃料デブリの冷却を水冷から空冷に変更。原発敷地に深い堀を建設し、地下水から隔離された「ドライアイランド」にする――等を示している。

 

各廃炉案の比較
各廃炉案の比較

 

 グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当の鈴木かずえ氏は「過去10年間、政府は福島原発の周辺住民に対して、除染をすればすべてが元通りになるかのような誤解を与える説明を繰り返してきた。現実は、福島県の7割以上を占める森林はいまだ除染されていない。そのため、森林が放射能の貯蔵庫の役割を果たし、台風等の度に、放射性物質を放出している」と、政府の除染事業の効果がないことを強調。

 

 政府・東電の廃炉計画についても「技術的な観点や最終処分場の問題などからも、実現は不可能と思われる。放射線状況についても、廃炉についても、政府の説明は、欺瞞に満ちていると言わざるを得ない」としている。

 

 政府は汚染水の海洋放出を「優先課題」としているが、汚染水発生の根源をあらためない限り、汚染水は際限なく出てくる。海洋放出は汚染領域を広めるだけで、新たな懸念を世界中にばらまく結果になりかねない。抜本的な問題解決を先送りし、目先の対応に追われ続ける政府の姿勢は、先の大戦での戦力の逐次投入と変わりがない。「問題解決」の原点に立ち帰るべきだろう。

https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2021/03/8213f264-finalsurvey-report-summary-japanese.pdf

https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2021/03/ecb2f0c2-jp_drsummary.pdf

https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2021/03/20cf92ab-decomrep_final2.pdf