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米国のシェールガス革命が他国で起きない訳(WSJ)

2012-12-04 14:18:22

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米シェールエネルギー革命の海外輸出は誰も予想していなかったほど難しいことから、米国には多大な競争優位がある。シェールガスや天然ガスは北米エネルギー業界に活気を取り戻させ、企業や消費者に安い燃料を供給して北米経済を押し上げている。一方、北米以外にも、世界のエネルギー会社や政府が開発を望む多大なシェール層はある。だが、石油会社は米国の経験を北米以外の大陸で再現しようとして、障害に突き当たっている。そのため、海外での大量のシェールエネルギー生産は10年先になるかもしれない。

海外での開発が遅々として進まない理由に、政府による鉱物権保有、環境懸念、ガス・石油の採掘・輸送インフラ欠如がある。また、採掘が1世紀以上行われている米国と比べ、大半の国の地質に関する知識は大幅に少ない。

結論。米国とカナダは当面、シェール開発における経済的優位を享受する主な国であり続けそうだ。両国では天然ガスやエタンの供給過剰を受け、石油化学会社や肥料メーカーが新たな工場建設に魅力を感じている。生産の海外移転が続いていたここ数年と大違いだ。さらに、実際にシェール鉱床のあるテキサスやノースダコタなどの州は、採掘活動による地元経済への恩恵にもあずかっている。

一方、ポーランドはかつて有望視されていたが、これまで初期のシェール井で発見されたガスは予想より少ない。また、地域社会が採掘に懸念を示しており、政府の税金やロイヤルティー(採掘権料)の規則の変更で業界の熱が冷めている。エクソンモービルは当初、ポーランドのシェールに期待していたが、井戸を2本掘っただけで断念。追加の採掘をする理由になるほどの石油やガスが見つからなかったと説明した。

中国には米国より大量のシェール石油・ガスがあるとみられている。問題は、その大半が乾燥地帯や人口密集地にあることだ。石油会社は岩の水圧破砕に必要な量の水を確保できないのではないかと懸念している。ロイヤル・ダッチ・シェルのアジア・太平洋地域部門幹部、サイモン・ヘンリー氏は「水平採掘装置を作るためにはほぼ常に、基本的に誰かの水田である丘の斜面を部分的に破壊しなくてはならない」と述べた。

アルゼンチンは最近、石油換算10億バレル近くを擁するとみられる巨大シェール層を発見したスペイン企業の資産を国有化した。海外からアルゼンチンへの投資は、必要な技術の輸入や潜在利益の輸出が難しい規則のために既に冷え込んでいたが、この国有化でさらに落ち込んだ。同国に45万エーカーのシェール層採掘権を有する米アパッチは、同国で米国同様の採掘井を掘れば2倍のコストがかかりかねないと説明している。

フランスやブルガリアなど他国はさらに進んでおり、環境懸念を理由に水圧破砕を一括で禁止した。基本的に開発を直ちに止めた形だ。

デロイトに対する独立シニアエネルギー顧問のジョセフ・ステインスロー氏は「世界のシェール開発に対して多大な根拠なき熱狂があった」と言い、「業界はその後、現実に突き当たった。世界的なシェール(革命)が起こるだろう。それが始まる時、われわれが米国で目にしているのと同じ力で離陸する。だが、考えられているより長い時間枠になりそうだ」と述べた。

シェール革命は1990年代終盤、テキサス州フォートワースから数マイル北に最初の近代的シェール井が掘削されたときに始まった。莫大(ばくだい)な金銭的リスクをいとわない独立系小規模会社数社が切り開いたこの技術は、鉱物権を保有し、利益の一部を得る代わりに土地を売る用意のあった地主に助けられた。ウォール街はシェール事業に熱心に資金を供給した。既存の大型パイプラインや多数の掘削リグも業界の追い風となった。

この組み合わせは米国以外には存在しない。ローレンス・リバーモア国立研究所のチーフエネルギーテクノロジスト、ジュリオ・フリードマン氏は「鉱物権、市場に参入する小企業の多さ、地質データの入手のしやすさは、いずれも、米国特有の企業モデルの一部だ」と語る。

米国のシェール開発成功のカギながら見逃されがちなのが、地下ガスの多くが私有であることだ。これは、掘削に対する環境懸念が、利益を求める地主たちが集まる地区の反対を受けることを意味する。

これについて北米最大のガス生産量を誇るエクソンモービルのティラーソン最高経営責任者(CEO)は「すべての天然資源の全面開発を確実にする、すばらしくエレガントなシステム」だと述べた。米国以外では通常、鉱物権は政府が保有しており、地元民には大規模な商業採掘を我慢する見返りがほとんどない。

また、数万本のシェール井が掘削され、州当局が地質データを公開している米国と違い、世界ではシェール層に関してほとんど知られていないことからくる難しさもある。海外では、地質学者はシェール層のある場所を知っているが、そこの岩に破砕技術を使えるかどうかは知らない。

それでも、大きな対価を得られる可能性はある。ペンシルベニア州のマーセラスやノースダコタ州のバッケンといったシェール鉱床より大きい可能性もあると業界の専門家が考えるシェール層は、世界に多くある。米政府との依頼を受けた32カ国の調査によると、こうした国の埋蔵量は計6600兆立方フィート。これは現在の世界消費量50年分以上に相当する。米国の862兆立方フィートは、この13%に当たる。

この調査では、世界のシェール層にある石油の量やロシアや中東の巨大シェール層の規模はわからない。他の推定では、この数字が大きすぎる可能性を示唆する一方、世界に未到のシェール資源があると見込んでいる。

世界のシェール層に投資している企業は熱を冷まそうとしている。この夏、欧州でのシェールガス開発について聞かれたシェブロンのカークランド副会長は「みな、それなりの量を得る前に、今後の10年のことを話している」と述べた。

シェブロンをはじめとする企業はポーランドにシェールガス採掘業界を創設する希望を捨てていない。同社は同国で掘削権を得ており、掘削が経済的に成り立つだけのガスがあると望んでいる。だが、ポーランド政府は、国民の疑念や悔恨に直面しており、掘削許可の付与は遅い。環境省の高官は「投資家には不満を言う権利がある。われわれの行政サービスは、まだこのセクターの台頭に対応しきれていない」と述べた。

http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_557724/?nid=NLM20121204