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伊藤忠と日揮系企業によるフィリピンでのバイオ事業の土地収奪トラブルで 伊藤忠が回答書(FoE)

2012-12-05 01:05:27

放置されたままのサトウキビ残渣
放置されたままのサトウキビ残渣


FoE Japanを含む日本のNGO・有志個人から伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)宛てに10月16日付で提出したフィリピンのバイオエタノール事業に関する公開質問状(>内容)について、11月16日付で伊藤忠商事からの回答がありました。
伊藤忠商事からの回答状はこちら >バイオエタノール製造・発電供給事業に関する公開質問状に対する御回答[PDF]

同事業は、伊藤忠商事と日揮株式会社が出資して進めるフィリピンで最大規模のバイオエタノール製造事業ですが、原料であるサトウキビの農地11,000ha(東京ドーム2,353個分)の確保をめぐり、農地収奪や土地利用転換、労働搾取等の問題が指摘されてきました。これに対し、日本のNGOからは、現地企業任せでなく、日本企業のより積極的な関与と現場での問題解決に向けた早急な対応の必要性を訴えてきました。
今回の伊藤忠商事の回答は、同社が第三者弁護士事務所を通じて問題状況を確認している点、また、問題状況が確認された場合の現地企業、および、同社としての対応方針等が明示されている点等、日本企業側の誠意ある対応が伺え、現場での問題解決に向け、大変歓迎すべき動きです。

一方、現場では依然として解決されていない問題が山積しており、特にサトウキビ栽培地の確保をめぐる土地問題の悪化・長期化が懸念されています。日本企業の継続的な関与とさらなる積極的な対応が期待されます。

伊藤忠商事の回答を受け、FoE Japanから以下の点についてコメントします。

1.サトウキビ栽培地の確保をめぐる問題について 2.サトウキビ栽培に従事する農業労働者の労働条件等の問題について 3.工場の操業に伴う新たな問題について 4.早期の問題把握と解決に向けた対応と現地住民の対話について

日本企業からの回答と現地で続いている問題に基づくFoE Japanコメント(2)




1.サトウキビ栽培地の確保をめぐる問題について ●問題状況の確認方法について     ・ECOFUEL社を介さず、第三者を通じて状況確認を実施している点について評価。 ・各個別ケースにおいて当事者である本来の耕作者(回答状では「先住民」等の記載)への聞き取りを実施しているか疑問。(本来の耕作者による主張が記載されていないなど、確認情報が表面的なものに留まっている。)
●個別ケースについて ①サン・マリアノ町パンニナン村の個別ケース

・I/M Familyによれば、当該土地はI/M Family の先祖が開拓した土地で、彼らが先祖から受け継いだ土地である。
・こうした慣習的な土地利用を行なってきた耕作者らが、近代法的な土地所有権に係わる書類等を所持していない状況があることを十分に理解・留意した上で、こうした法的な擁護を受けにくい農民、先住民族など、特別な配慮が必要な社会的弱者や排除されるリスクが高い集団・個人の権利を積極的に認知・尊重しながら、引き続き、慎重に問題に対処していく必要がある。

現地に住民が掲げた広義の旗、スローガン


②サン・マリアノ町パンニナン村の個別ケース

・I/M Familyによれば、当該土地はI/M Familyの先祖が開拓した土地で、彼らが先祖から受け継いだ土地である。 ・こうした慣習的な土地利用を行なってきた耕作者らが、近代法的な土地所有権に係わる書類等を所持していない状況があることを十分に理解・留意した上で、こうした法的な擁護を受けにくい農民、先住民族など、特別な配慮が必要な社会的弱者や排除されるリスクが高い集団・個人の権利を積極的に認知・尊重しながら、引き続き、慎重に問題に対処していく必要がある。
(注)2012年11月下旬、同土地紛争をめぐり、C Family から警察への訴えにより、I/M Family に窃盗容疑がかけられた。その後、任意取調べや宣誓供述書による反論の機会もないまま、I/M Familyのうち2名が強制逮捕される事態(同2名は保釈金により数日後に釈放)となり、同土地問題は悪化している。

デルフィン・アルバノ町ヴィラ・ペレダ村の個別ケース

・回答状では、「係争は確認出来ず」との認識が示されているが、当該土地における本来の耕作者らによれば、ECOFUEL社と土地賃貸契約を締結したF Family はすでに当該土地所有権をDevelopment  Bank of the Philippines(DBP)に差し押さえられている。また、DBPがすでに当該土地をフィリピン農地改革法による農地分配の手続きにかけており、本来の耕作者らがその正当な受益者として、十数年前から農地分配を申請済みである。(>現地報告:農地収奪・作物転換の現状

・当該土地については、2012年8月7日付で現地農民組織DAGAMI(イサベラ州農民組織)から現地企業に対し提出されたレターのなかでも問題が指摘されている(>住民が抗議デモ)。
同レターでは、現地企業に対し、1週間以内にサトウキビを撤去するよう求め、撤去しない場合は、農民自らの手でサトウキビを抜き、水田に戻す意思が示された。
・当該土地については、回答状に「土地契約に際して、」「砂糖黍栽培地に係る土地所有権等」「の問題が確認出来た場合には」「契約締結済みであってもこれを終了するなどの対応を取ることを基本方針」とする旨、明示されているとおり、ECOFUEL社による迅速な契約破棄と作付済みのサトウキビ撤去等の対応がとられるべきである。 また、ECOFUEL社による農地回復の措置、耕作者が喪失した生計手段・収入機会等に対する適切な補償措置もとられるべき。

(注)DAGAMIによる上述のレター提出後も現地企業が何ら対応を取らなかったため、2012年10月15日、農民らは自らサトウキビの撤去作業を開始。2012年11月19日にもサトウキビの撤去作業を進め、農民とECOFUEL社との間での緊張が高まった。こうした状況に対し、自治体のイニシアチブにより、2012年11月27日、同土地紛争に係る話し合いの場が設けられるも、(F Familyと契約し、サトウキビを植えてしまった土地について)本来の耕作者らとの間でサトウキビの収穫までの契約を締結したいECOFUEL社と、サトウキビの早急な撤去と農地返還、および、補償を求める耕作者らとの間の溝は埋まらないまま、同土地問題は長期化している。

●今後の対応について(早期の問題把握・解決と問題回避に向けて) ・現地では、土地所有権に係わる書類等を依然として所持していない農民、先住民族が多数いることから、第三者による偽造文書も作られやすい状況がある。したがって、回答状では、「契約締結に際して土地所有権に係わる書類等などその求める要件をきちんと満たしているかについて細心の注意を払うよう求めて」いるとの記載があるが、これまでのように表面的な書類確認しか行なわない場合、上述の個別ケースのような問題が、すでに起こっているにもかかわらず把握されぬまま放置されてしまう、あるいは、今後も繰り返し起こる可能性が考えられる。これまでに問題が起きたケースを検証し、フィリピン関係機関への確認・連携強化など、事態がこじれる前に早期の問題把握・解決ができる体制、また、同様の問題を今後回避できる体制を検討・実施すべき。
(注)現地紙「カガヤン・バレー・モニター」(2012年8月16日~9月16日版)によれば、これまでに土地問題が把握されていなかったサント・トマス町の130ヘクタールでも同様の土地問題が指摘されている。

2.サトウキビ栽培に従事する農業労働者の労働条件等の問題について

  ●問題状況の確認方法について

・回答状では、ECOFUEL社と人材派遣会社間のやり取りに問題が見られない旨、記載されているが、人材派遣会社と農業労働者間で問題が起きている可能性が高いことに鑑み、法定最低賃金が遵守されていないケース、福利厚生が提供されていないケース、防護服・保護具の費用が賃金から天引きされているケース/提供されていないケース等の状況について、農業労働者、および、人材派遣会社への確認も実施すべき。

●個別ケースについて

・2001年7月1日に起きたトラック横転事故における重傷者について、当事者の経済・生活状況に鑑み、人道的な観点からも、完治するまでの継続的な医療支援、あるいは、完治不可能な場合の生活支援等を検討・実施すべき。

●今後の対応について

・これまでに問題が起きたケースを検証し、下請けである人材派遣会社に対する監理体制の改善・強化など、早期の問題把握・解決ができる体制、また、同様の問題を今後回避できる体制を検討・実施すべき。
3.工場の操業に伴う新たな問題について

●個別ケースについて

・排水の氾濫により工場敷地の近隣に位置するトウモロコシが被害を受けたケースについて、補償の支払いがなされていないケース(約250kg分の収穫ができず)があり、迅速かつ適切な対応がとられるべき。また、補償が支払われたケースにおいても、支払われた補償額(5,000ペソ。約1万円)が被った損害(通常約80袋の収穫がある農地で、約50袋の収穫に留まった)に比し、十分なものだったかを検証し、十分でないことが確認された場合には不足分を補うべき。     (参考:トウモロコシ1袋=約50kg。トウモロコシの質にも拠るが、1kg=約11.5ペソで売却可。)

・工場周辺地域での魚類の死亡については、古くから地元の灌漑組織が利用している溜池でも報告されている。同溜池では、地元の住民が普段から漁業を行なっており、中には、農地を持たず、漁業のみを生業としている漁民もいる。どのような経路で排水が氾濫し、同溜池に流れ込んだのかを検証し、今後、同様の問題が起きないよう適切な対策がとられるべき。

●今後の対応について

・回答状では、今後の工場の操業に伴い、問題は発生しない旨の説明がなされているが、上述のトウモロコシ被害のケースや工場周辺地域で魚類の死亡が報告されたケースなど、これまでに住民から苦情が挙げられた問題について、今後も起きる可能性を想定し、問題が起きた場合の被害状況の確認方法・体制、損害賠償の水準設定など、適切な補償措置を予め用意しておくべき。

 

http://www.foejapan.org/aid/land/isabela/20121130.html


4.早期の問題把握と解決に向けた対応と現地住民の対話について

・早期に問題把握・解決をし、また、同様の問題を今後回避していくためにも、現地企業、および、現地企業の直接の契約者(土地問題における第三者や農業労働者の問題における人材派遣会社など)にとどまらない現状確認と対話が必要である。つまり、法的な擁護を受けにくく、被害を受けることになっている農民・先住民族・労働者などの権利を積極的に認知・尊重しながら、彼らとの直接対話を今後さらに進めていくべき。また、フィリピン関係機関への確認・連携体制を整えるべき。