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東京・小平市の三田医院の三田茂院長に聞く  関東全域の子どもの白血球中の「好中球」割合が、明らかに減少へ(ママレボ編集長通信)

2013-10-20 15:32:38

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mita5tuno原発事故以降、おもに首都圏の大人や子ども合わせて、のべ1,500人の血液検査や甲状腺エコー検査を行ってきた三田医院(東京都小平市)。事故から2年半経過しようとしている今、三田医院の三田茂院長に、血液検査の結果から見えてきたことをお聞きしました。

 


◇放射線の影響がわかる「白血球分画」という検査



Q 三田医院で行っている検査について、詳しく教えてください。




三田;当医院では、2011年10月ごろから、「白血球分画(はっけっきゅうぶんかく)」を含む血液検査と、甲状腺エコー検査を実施してきました。  白血球は、5種類の球(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)からできているのですが、その5種類の割合を調べるための検査を「白血球分画」と言います。




放射線をたくさん浴びる仕事に携わっている人は、毎年「電離放射線健康診断」という検診を受けなければならないのですが、その電離放射線健康診断の項目の中心が「白血球分画」です。



今、甲状腺エコー検査のことばかりクローズアップされていますが、放射線の影響を調べるためには、むしろこの「白血球分画」の検査をする必要があると思っています。




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Qつまり「白血球分画」を調べることで、人体が受けた放射線の影響がわかるということでしょうか。mita gurafu






三田;ええ。血液は「骨髄」で作られていますが、骨髄は放射線の影響を受けやすい臓器のひとつです。そのため、放射線の影響を強く受けると、骨髄で作られる血球の質や、割合に変化が生じるのです。



 白血球分画の値は、体にちょっとした炎症があっても変動しやすいので、当院ではあらかじめ炎症反応がないか肝機能の状態は正常か、といったことを調べ、状態が良くない場合は回復してから再検査してもらうことにしています。



 同じ地域で数百人、数千人の白血球分画を調べることによって、その地域の傾向がわかります。つまり、数値の平均が良くないエリアは、「ここには住み続けないほうが良い」といった行動の指針にできる結果が得られるのではないでしょうか。



 ちなみに、今、福島県で実施されている福島県民健康管理調査の中でも、原発事故当時、政府が定めた避難区域等に居住していた住民に対してのみ、この「白血球分画」の検査が行われています。 しかし本来は、福島県はもちろん北関東や首都圏の住民まで、「白血球分画」の検査をすべきだと思います。






◇「好中球」の値が平均値を下回っている





Q 子どもたちの「白血球分画」の数値に変化が起きているそうですね。






三田;はい。当院に検査に訪れる子どもは、ほとんどが東京や千葉、神奈川、埼玉、北関東などのエリアに住んでいますが、これらの子どもの白血球中の「好中球」の割合が、明らかに減少してきています。



 医者の一般的な教科書である「小児・思春期診療最新マニュアル」(日本医師会編)には、小学生の「好中球」の基準値は、3000~5000と記されています。つまり、3000が基準値の下限値なのですが、事故以降、当院に検査しにやってくる小学生の平均値は2500にまで下がってきているのです。4000くらいの値の子どもが最も多いのが正常なのですが、分布図を見てみると、ピーク値が全体的にずれてきているのです。(イメージ図参照)


 繰り返しますが、「好中球」の値は、「小児・思春期診療最新マニュアル」に記されているように、健康な小学生なら3000~5000であることが望ましいのです。 しかし、当院に検査に来る子どもたちの平均値は、下限値の3000を切って2500まで下がってしまいました。これは、非常に問題ではないかと思います。




Q 白血球に占める「好中球」の割合が減少することで、どんな弊害が生まれるのでしょうか。






三田;よく、「好中球」の減少=免疫力の低下、と考える人がいるのですが、そうではありません。「好中球」というのは、通常、白血球全体の約60%を占めており、体内に侵入した細菌やカビなどを内部に取り込んで殺菌する働きをしています。「好中球」は、いわば免疫の中の「最後のとりで」であり、その前段階でいくつも菌などを抑える働きをしているシステムがあるのです。だから、「好中球」が減ったからといって風邪をひきやすくなるとか、感染症にかかりやすくなるといったわけではないのです。  ただ、「好中球」の値があまりに低いと、風邪をひいて万が一こじらせたときに敗血症になったりと、命取りになりかねないので注意が必要なのです。




Q 「好中球」の値が下がると、具体的にどのような症状が現れるのですか?





三田;「好中球」の値が低いからといって、必ずしも子どもたちの具合が悪かったり、すぐに病気になったりするかというと、そうではありません。先ほど申し上げたように、病気になってこじらせてしまった場合に重篤な状態になる可能性が高くなるということです。

 また、数値の異変だけでなく身体的な異変もあります。



 2011年の夏は目が充血して真っ赤になっている子どもが多かった。一番多いのは、目の下にクマがある子ども。副鼻腔炎などもふえました。副鼻腔炎は、以前は治療すればすぐに治っていたのですが、軽いぜんそくを伴うような副鼻腔炎が長引くケースがふえています。そういう子どもでも、西のほうで保養するとよくなっています。



◇できれば、東日本から移住してほしい





Q 「好中球」の値が下がるということは、放射能汚染の影響なんでしょうか。






三田;東京でも福島原発由来の放射性物質は飛散してきましたし、汚染されたゴミが大量に燃やされていますから、呼吸によって空気中に含まれている放射性物質を取り込んでいる可能性は否定できないと思っています。何度も言いますが、原発事故以降、大量の放射性物質が放出されたわけですから、医者は、それまでとは違う症状がふえた場合「まず放射線の影響を考えてみる」というのが本来あるべき姿勢だと思います。





Q 「好中球」の値が低かった場合、どうすればいいのでしょうか。



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三田;当院で検査する子どもの数値を見ている限り、たとえ「好中球」の値が低くても、西の方面へ最低でも2週間以上保養に出れば、多くの場合、数値は回復する傾向が見られます。



 「好中球」が1000くらいしかなかった子どもも、長野県に避難した後に検査したら、正常値の4000くらいに戻っていました。たまに、「好中球」がゼロという子どももいるのですが、その子でも九州に避難して2カ月くらいしたら2000くらいまで戻り、その後しばらくして4000まで回復しました。




 しかしあまりに値が低い場合は、西へ避難をしても平均値の4000にまで回復しづらい子どももいます。ですから、数値に異変があった場合は、できるだけすみやかに汚染されていない土地へ保養や避難していただくようおすすめしています。




 数週間単位でも、こまめに保養に出ている子どもの数値は比較的安定していますからね。




 しかし本当は、できれば東日本から移住していただきたい、と私自身は思っています。




 それは子どもだけでなく、大人にとっても同じです。




Q 大人の「数値」にも異変が起きているということでしょうか?





三田;大人の場合、血液検査の数値に目立った変化が生じているわけではありませんが、日々診療するなかで、来院される患者さんの状態が明らかに原発事故前とは変わってきています。



 ご高齢者のぜんそくが、とにかく治りづらくなっている。薬でコントロールできていた人が、効かなくなっているのです。また、今まで症例の少なかった病気で来院する人がふえています。たとえば、リウマチ性多発筋痛症という50代以上がかかりやすい病気があるのですが、この病気は10万人に1.7人くらいがかかる病気です。



 当院が立地している小平市は、人口約18万人ですから、年にひとりかふたりの計算ですよね。3.11前は、一年にひとり当院で診るか診ないか程度だったのですが、今は同時期に10人以上もの患者が治療中です。






 

Q 甲状腺エコー検査の傾向についてはいかがですか?





三田;当院で検査する限り、子どもたちの中に深刻な状態の子どもはいませんでした。ただ、30代のお母さんたちの間で、この間2名ほど甲状腺ガンが見つかりました。もともと、女性のほうが甲状腺の疾病にかかりやすいのですが、原発事故による放射性物質の汚染によって、一生大きくならずにすんだはずの結節がガン化してしまった、という可能性はあるのかもしれません。  また、今までは長年かかって成長したガンが高齢になって見つかっていただけで、じつは若いうちから一定数の微小ガンは存在するのかもしれない。詳細な検査をすることで、これを探り当ててしまったのかもしれないとも思います。



 しかし、チェルノブイリ原発事故のときも、事故から10年後には大人の甲状腺ガンもふえていましたから、子どもだけでなく大人も定期的に検査をする必要があるのではないでしょうか。

 





◇医者たちに立ち上がってもらいたい






Q チェルノブイリ原発事故の後も、地元の医者は患者の異変を察知していたようですね





三田;ええ、地域の患者さんをていねいに診ている医者なら、異変に気づくと思います。



ただ、患者さんひとり一人の被ばく量はわかりませんから、放射線との因果関係を立証するのは非常にむずかしい。



 今までの常識からすると、放射線を浴びた人と浴びていない人をグループ分けして調査をしなければならないのですが、そもそも首都圏の人たちがどれくらい放射線を浴びたのかも明らかにされていません。また、比較するグループについても、健康体の子どもたちを何百人も連れてきて採血しなくてはなりませんから、医者が個人的にできる範囲を超えています。



 つまり現状では、権威のある科学雑誌に掲載されるような「科学的データ」をとることは不可能なんです。とはいえ、明らかに異変が生じているのに、放っておくことも医者としてできません。




 だから、私は3.11以降、何度も医者のグループに「子どもたちの血液検査をしてください」と呼びかけてきましたが、なんの根拠もなく「放射線の影響なんてありません」と言われ、なかなか理解が得られませんでした。こういう検査は、20年、30年積み重ねていかないとわかりません。これまでの大事な2年半はすでに過ぎ去ってしまいましたが、ベラルーシやウクライナなどでもすでにデータは発表されているのですから、医者は、きちんと放射線が体に与える影響を学んで、患者の声に耳を傾け、そして調査をしてもらいたいと思っています。




Q 血液検査を受けたい場合には、どうしたらいいでしょうか。




三田;できれば、近所の病院か、かかりつけ医に行って「放射線の影響が心配なので、血液検査をしてください」と、率直にお願いしてみてください。イヤな顔をする医者もいると思いますが、そうやって少しずつ医者の意識を変えていってほしいと思います。できれば、甲状腺エコー検査と合わせて、一年に一度受けることをおすすめします。


 血液検査の必要項目は以下にあげましたので、病院で検査を依頼するときの参考にしてください。




<必要な血液検査項目>


・血算(白血球数、赤血球数、ヘマトクリット、ヘモグロビン、血小板数、白血球分画)

 
・血液生化学(AST, ALT, γ-GTP, TG, HDL-C, LDL-C, HbA1c, 空腹時血糖, 血清クレアチニン,尿酸)

・甲状腺機能検査(FT4, TSH)


・CRP(炎症を調べる)