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風知草 フクイチの社員に聞く (毎日・山田孝男) ガダルカナルに酷似 ”失敗への疾走”

2013-10-20 15:21:48

fukushimamedia
fukushimamediaまずい流れだ。放射能汚染水。制御できない。「国が前面に出る」と経済産業相は言うが、実動部隊が納得し、奮い立たねば実のある成果は期待できまい。先週末、福島第1原発に通う東京電力社員の話を聞き、そう思った。

「管理職が(屋外の)現場に行かないんですよ。ほとんど線量浴びないで退職していく管理職がかなりいる。そのことに対する不満が職場にある。『(点検や補修のため、現場に)行ってきてくださいよ』と管理職にはっきり言う人もいますが、(廃炉作業の)実施計画には『屋内で管理』と書いてある。管理職はそれを盾にとるんですよ」

名前も、年齢も、職種も書けない。跳ね上がりの不満分子ではない。慢性的情報不足、場当たり的命令と職場の風通しの悪さに泣く平均的社員である。

「いま、職場では、汚染水タンクのパトロール要員をどう割り振るかっていう話をしています。記者会見で副社長が『1日4回(従来は1日2回)やる』って言っちゃったでしょ? でも人手は増えない。あれやれ、これやれって言ってくるけど、現場作業員の(被ばく)線量なんか本気で考えていないと思う」

「こないだ、大臣が来てどなってましたね。ああいうの見ると、ふざけんなって思いますよ。オマエに何が分かるんだって」

汚染水の一部海洋流出は事故直後、2011年4月の段階で露見していた。首相補佐官だった馬淵澄夫元国土交通相(53)が、新たな地下水の流入を防ぐ土中壁の建設を求めたが、東電は無視。曲折を経て壁の建設は始まったものの、何事も受け身で渋々という東電流は相変わらずだ。

今年4月、地下貯水槽から大量の汚染水が漏れ、問題が再燃した。東電は、多核種除去装置(東芝製ALPS=アルプス)で汚染水の有害核種を除き、漁協の了解を得て海に流すつもりでいた。ところが、6月、この装置が故障。8月、間に合わせの地上タンクから汚染水が海に流れ出し、パニックが広がった。

経緯を見守ってきた官僚は「制御不能。いや、相当まずいですよ」と嘆息。ここに至って首相、経産相が政府の責任を強調し始めたという流れである。

原発事故の鎮圧に携わった自衛隊の将官から「戦争と同じ」という感想を聞いたことがある。汚染水をめぐる混乱は、第二次大戦における日本軍のガダルカナル作戦を思わせる。

南太平洋のガダルカナル島では、補給の失敗で2万人近い日本の将兵が餓死した。失敗の原因は、敵を甘く見、己を過信したところにある。戦略に大局観がなく、打つ手が場当たり的だった。東京の机上では想像できない実情を、首脳部が把握できなかった(「失敗の本質/日本軍の組織論的研究」中公文庫)。

汚染水を甘く見、間に合わせの貯水タンクとアルプスを過信し、誤算続きで作業員がヘトヘトになっている福島と似ている。

福島をガダルカナルにするわけにはいかない。東電に代わって前面に出る国の姿勢は人事と予算に表れている。政府は先月27日、経産省の糟谷(かすたに)敏秀・総括審議官(52)を「汚染水特別対策監」に任命した。予算もつける。これから先は、安全より低価格という選択はなくなると信じたい。

福島の作業員たちの東京不信をぬぐい、空前の海洋核汚染を食い止めなければならない。国会審議を活用して内外へ発信を強め、失敗続きで傷ついた日本の国際的信用を取り戻さなければならない。

 

http://mainichi.jp/opinion/news/20130902ddm003070086000c.html