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第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー④地域金融賞:千葉市。ブルー事業に絞った自治体初のブルーボンド発行。下水道インフラ整備に充当。年間2回のESG債発行も(RIEF)

2024-02-06 14:39:17

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写真は、千葉市の財政部資金課チーム。㊨から2人目が同課課長の高橋氏)

 

 千葉市は2023年12月に、地方公共団体として初のブルー事業だけに資金使途を絞ったブルーボンドを発行したほか、8月にはグリーン事業・ソーシャル事業双方に資金を充当するサステナビリティボンドも発行しました。政令市として年二回のESG債発行も初めてで、その積極的な発行姿勢を評価して地域金融賞に選出しました。千葉市の財政局財政部参事兼資金課長、高橋大樹(たかはし・だいき)氏と同課の方々に、ESG債への取り組みの経緯などをお聞きしました。

 

――一年度に複数回のESG債を発行されましたが、投資家等の手応えはどうでしたか。

 

 高橋氏 同一年度に複数回、それも異なるラベルのESG債を発行した自治体は政令市では千葉市が初めてになりました。全国の地方公共団体全体でも、東京都に次ぐ2番目だと思います。サステナビリティボンドの発行をまず最初に行い、ブルーボンドについては、単発の発行としては自治体初の試みという点で評価をいただいたと認識しています。結果的に、本市の先駆的な起債運営については、投資家をはじめ、マーケットに対し明確に訴求できたのではないかと考えています。

 

 この点で手ごたえを感じています。発行に先立ち、神谷俊一市長も記者会見の場で「ESG債の発行を通じて、千葉市が環境保全に向けて真正面から取り組んでいく姿勢を示していきたい」と述べていましたが、この点もPRできたのではないかと考えています。また、ファイナンスの面からも、複数回の発行によって、発行体としての金利変動リスクの低減につながるほか、投資家に対しても投資機会を複数回、提示することによって、投資家のその時々の資金需要に応じたESG債を購入できる機会を提供できたともいえ、効果的な取り組みだったのではないかと思っています。

 

――サステナビリティボンドとブルーボンドを相次いで出そうと思った最初の判断はどうだったのですか。

 

 高橋氏 われわれは市場公募債を発行している地方公共団体の中でも、ESG債の発行団体としては決して早いほうではありませんでした。先行する形で、複数の都道府県や、政令市によるESG債の発行実績がすでにあります。政令市でいえば、横浜市、神戸市、川崎市、北九州市などです。これらの先行団体がありましたので、千葉市としても、そろそろ発行を考えねばならないという話が持ち上がったのが、2022年でした。その後、23年4月に千葉市基本計画と、地球温暖化対策実行計画の二つの計画をスタートさせましたが、このうち、地球温暖化対策実行計画において、ESG債の発行を、脱炭素の取り組みの一つとして位置づけていたのです。そういう背景もあって、23年度中の発行を模索し、8月、12月に相次いでESG債を発行することに至ったわけです。

 

高橋大樹氏
高橋大樹氏

 

――先行自治体にキャッチアップし、さらに一歩先を行こうという意気込みで、新しいラベルのESG債であるブルーボンドにも取り組んだということですか。

 

 高橋氏 22年の秋ごろから、ESG債に取り組もうという話になった際、先発組がいるので、平たく言うと起死回生で、今までにないラベルでいきたい、となり、それがブルーボンドでした。加えて、本市には日本一の水域面積を誇る千葉港、日本一の長さを誇る人工海浜、日本最大級の貝塚である加曽利貝塚をはじめ、海、水との、密接な関わり合いがあるという特徴もあります。こうした背景を踏まえ、ブルーボンドという新しいラベルの地方債を発行したいなという発想に至り、それを念頭に置いて、フレームワークの策定や事業の選定をコツコツ積み上げてきたというのが実態です。

 

――ブルーボンドに目を付けたのは、千葉市が東京湾に面して、海と近しいうえに、首都圏の中核都市の一つとして、上下水道の水関連インフラの規模も大きいという点もありましたか。

 

 高橋氏 ブルーボンドの資金使途事業の一つとした下水道事業は、非常に大切なインフラです。ブルーボンドの発行を考えるにあたって、当然対象事業が必要になります。どういう海洋・水関連の事業があるかと、洗い出し作業をした中で、ちょうど「ブルー」のコンセプトに合致したのが、今回の下水道インフラの老朽化対策等の事業でした。

 

 われわれ自治体としても、生活回りのインフラの整備は非常に重要であり、特に下水道は替えが利かない施設でもあります。下水道のネットワークは、市域全域に張り巡らされていますので、何かひとたび不具合があると、替えの利かないインフラは大惨事につながる恐れがあります。正月に起きた能登半島地震を例にとっても、水道管の破裂や下水道が使えないとなると、生活が成り立たなくなります。こうした生活に密接したインフラは常に、計画的かつ効率的に、老朽化対策などの維持管理をやっていかねばならないニーズがあります。

 

――サステナビリティボンドと、ブルーボンドでは投資家の反応や対応に何らかの違いはありましたか。


 高橋氏 ブルーボンドの場合は、自治体の地方債としての単独発行は初めてで、新しいラベルということもありましたので、一部の投資家では、投資家の内部規定の整備の都合で、時間が必要になり、結果的に、本市のブルーボンドの購入に至らなかったというケースもあったようです。こうした点は今後、他の自治体でもブルーボンドの発行が増えて、普及してくるにつれ、解決していくものだと思っています。一方で、「ブルー」というラベルに好感を抱いていただいて、購入につながったという海や水に関連する投資家もいました。初めて本市債を購入していただいた投資家も複数存在しました。われわれとしては投資家層の拡大につなげることが出来たほか、地方債市場としては今後他団体がブルーボンドを発行する道を開くことが出来たと思っています。

 

 また、先に発行したサステナビリティボンドにおいても、いままで本市債に投資したことがなかった投資家が、投資家側のESG投資方針に基づいて購入していただいたケースも複数あったようです。ESG投資の流れの中で、投資家層の拡大に寄与できたと思っています。

 

――市民の中からも、投資したいという声もあったのではないですか。

 

 高橋氏 サステナビリティボンドについては、発行する際に、証券会社が地元の新聞に広告を出してくれました。その広告を見た一般市民の方から、「どこでこれを購入できるのか」という問い合わせが何件かありました。ブルーボンドについては、新聞広告は出しませんでしたが、市のホームページで掲載したほか、市長が記者会見等で説明したこともあり、そういう情報が市民の耳に入ったのか、「ブルーボンドはどこで買えるのか」といった問い合わせもありました。

 

――審査委員会では、都市のブルーボンド発行で、都市インフラの整備を進めるということは、喫緊の課題でもあり、自治体の取り組みとして理にかなっているとの評価でした。今後、こうしたボンドの発行を拡大していくとした場合、ラベルに合致する資金使途先の事業・資産をどう確保するか、という課題も出てきますね。

 

㊧から2人目が高橋氏
㊧から2人目が高橋氏

 

 高橋氏 自治体は企業とは異なり、自由に事業を起こしたりするわけにはいきません。そうした中で、インフラ整備に関連する事業は、今後もブルーなり、グリーンなり、サステナなりのESG債を発行するにあたって、最初に資金使途先の対象事業の洗い出しに際しての拠り所になってくると思います。水道、下水道などの新規のインフラは、これだけ成熟した社会ですから、今後、どんどん増えていくことは難しいと思います。その一方で、既存のインフラの老朽化対策や設備の更新などを捉え、その事業費に充当するESG債を発行していくのが現実的かと思います。

 

 特に、下水道インフラというのは、生活を維持し向上を図るうえで不可欠であるほか、その整備を通して、われわれが資金使途とした「水の循環」が促され、それによって、生物多様性の保全、海洋保全にもつながるという大切な取り組みです。下水道はまた、市民の安全・安心な都市生活や社会経済活動を支えるとともに、適切な汚染処理等を行うことで都市の健全な発展に不可欠な社会インフラでもあります。

 

 都市部になればなるほど、すでに市域全域に整備されており、ひとたび災害等が起きると、その機能が失われることで影響を受ける区域も広範囲に及びます。ですので、下水道に限ったことではないですが、都市の生活インフラを整備して、老朽化対策や耐震化事業を後回しにはせず、いかに計画的、効率的に進めていくかは、今後、自治体に課せられた課題でもあると思います。特に下水道などは海洋汚染を防止したり、持続可能な水資源の利用の仕組みにもつながっていくものですので、今後もESG債の重要な充当資産として整備していくことになると思います。

 

――気候変動の適応事業も充当資産になるのでは。台風等の暴風雨対応や、洪水・浸水防止等の事業ニーズも増えてきています。インフラについても、従来通りの維持管理に加えて、適応力を高めるために、従来以上に施設を拡大・強化する必要も指摘されます。千葉市ではどうですか。

 

 倉田雄大氏(千葉市財政局財政部資金課) 本市では、気候適応対策関連の事業として、河川の管理・改修や、急傾斜地崩壊対策などのほか、 排水施設整備、道路の透水性舗装、流域貯留施設整備、河川の浚渫等の事業にも取り組んでいます。このうち、河川の浚渫事業については、本市が23年8月に発行したサステナビリティボンドの資金使途の一つとしています。こうした事業は河川の持つ流下能力を確保し、集中豪雨等に対する治水安全度を高める効果が期待できます。

 

倉田氏
倉田氏

 

――今年度、千葉市が発行する市場公募債の中でのESG債のウエイトはどれくらいになる見込みですか。

 

 高橋氏 千葉市が23年度に発行した2件のESG債の発行額の合計は80億円でした。本市が今年度発行する市場公募債の発行額全体は700億円程度ですので、約10%くらいになります。ESG債の発行額を増やすのはなかなか大変です。ですが、わが国は海に囲まれた島国、海洋国家でもあり、貿易でも99%以上を海運が担うなど、非常に海と深いかかわりがある国で、ブルーボンドとは、非常に親和性が高いと思っています。しかしながら、これまでブルーボンドの発行は民間を含めてごくわずかです。

 

 今回、われわれが発行したブルーボンドが一つの契機となって、他の自治体はもちろんですが、海洋保全事業などに取り組んでいる海や水に関連する企業等でのブルーボンドの発行を促すことが出来れば、地方債市場やESG債市場の活性化につながると思っています。ひいては、将来のわが国の海洋保全事業の推進を喚起することにつながればという期待もしています。そういう思いも込めて、今回ブルーボンドを発行させていただきました。

                           (聞き手は 藤井良広)