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第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑦優秀賞:西松建設。サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)にスコープ3削減率を設定。竣工後の建物からの排出削減にZEB技術(RIEF)

2024-02-22 23:38:33

スクリーンショット 2024-02-22 224835

写真は、優秀賞を受けた西松建設の管理本部、安全管理本部の担当者の方々)

 

 西松建設は、昨年7月に発行したサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)の改善目標となる「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)」に、グループ関連のスコープ3排出量を2030年度に27%削減する目標を設定するなど、投資家の信頼を重視した取り組みを実践したことを評価されました。同社の副社長管理本部長の河埜祐一氏をはじめとする、管理本部、安全管理本部の担当者の方々に聞きました。

 

――SLB発行に際して、スコープ3も削減対象とすると判断された経緯を教えてください。

 

河埜氏
河埜祐一氏

 

 河埜氏 西松建設では、昨年6月に策定した「ZERO30ロードマップ2030」において、CO2削減の対象範囲を、それまでの国内建設事業からグループ全体に広げるとともに、GHG排出量についても従来のスコープ1~2から、GHGの範囲も排出量が最も多いスコープ3に広げて設定しました。2030年のそれぞれの削減目標は、スコープ1~2が2020年度比で54.8%削減、スコープ3が同27%削減とし、事実上の国際基準であるサイエンスベースドターゲットイニシアティブ(SBTi)の『1.5℃認定』取得を視野に入れた内容にしました。

 

 千田雅人氏(安全環境本部地球環境部長) スコープ3については、GHGプロトコルのカテゴリー11の「竣工引渡し建物の運用段階におけるエネルギー使用に伴うCO2排出量」が削減目標です。われわれが建設した建物を発注先に引き渡した後の建物が日常的に使うエネルギーを減らしていこうという取り組みです。ロードマップでは、スコープ1~2、スコープ3の削減に加えて、3つ目の目標として、われわれが再エネ事業を展開してグリーンエネルギーを創り出す(創エネ)目標も設定しています。

 

 SLBのサステナビリティパフォーマンス目標(SPT)に盛り込んだスコープ1~2及びスコープ3の削減目標は、ロードマップの目標に沿ったものです。加えて、SPTの基準年度と目標年度のCO2削減量を計算上の「線形補間」で算出するSLBが多いが、われわれはスコープ3も含めて「年度ごとの削減率」を目標設定に採用しました。実質削減にこだわったつもりです。

 

千田氏
千田雅人氏

 

――実際にスコープ3の削減をSLBの目標とすることに、内部では議論はなかったのですか。

 

 長谷川真也氏(地球環境部環境戦略課長) わが社の場合でも、スコープ1~2と同3では排出量のケタが完全に違うほどです。基準年の2020年度(実績)でスコープ1~2は年間7万㌧ほど。これに対してスコープ3は約319万㌧と45倍にもなる。スコープ3は圧倒的な排出量を占めているので、これをしっかりターゲットにして削減目標として掲げないと、2050年のカーボンニュートラルの実現は難しいだろうと思います。逆に言えば、これこそが重要であろうとの認識に立って、スコープ3を目標に設定しました。特にカテゴリー11は、われわれの試算によると、スコープ3の排出量のうちの約75%を占めています。また竣工引き渡した建物の運用段階での排出削減ということは、設計技術をしっかりと提供することで実現が可能になるので、ここをSPTとしました。

 

――建設会社ですから、建物の設計には自信があったのですね。

 

 長谷川氏 元々、われわれは、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の設計を手掛けていましたので、会社全体としてスコープ3を目標に掲げることで、会社の機運も一層高まるとの期待もありました。

 

長谷川氏
長谷川真也氏

 

――経営面の判断として、果たして目標通りに削減できるのか、といった懸念はなかったですか。

 

 河埜氏  懸念というよりも、これはやらないといけないという使命感もありますし、特にわれわれの設計施工でやれるという点は非常にメリットも大きい。設計施工においてZEBのコンセプトで設計をするということは、これから当然になってくると思っていますので、それを先行して実践できることは非常にいいことだと思っています。

 

――ライバル他社よりも一歩でもZEB建設で前に出ようという気持ちもありましたか。

 

 河埜氏   もちろんです。一歩でも早く、一歩でも良く、ということですね。その気持ちが大切だと思います。それとわれわれの場合、物流施設の取り組みが非常に多い。同施設にはZEBが多く、われわれとしてもこの分野では業界をリードしながら先行してやっているという思いもあります。今後は、オフィスビルやマンション等への展開も想定していますので、まずは少しでもより多くやっていければいいと思っています。

 

――「ロードマップ」では創エネも重視されていますが、創エネは、自社で手掛ける物件に太陽光等を設備として設置するのとは別に、PPA(電力販売契約)などで調達するのですか。

 

 長谷川氏 純粋に、わが社の再エネ事業としてやっていこうと考えています。もちろん竣工した建物に太陽光などを設置する場合もありますが、ロードマップでの目標としては原則、固定価格買い取り制度(FIT)に乗せるなどのパターンの方が多いです。

 

――手掛ける再エネ事業は主に太陽光発電ですか。

 

 河埜氏   いろいろです。現在は社内に地域環境ソリューション事業本部が立ち上がっていて、ここが再エネ事業を担当し、創エネの旗を振っています。事業としては、地熱、バイオマス、バイオガスなどを手掛けており、将来的には揚水発電などにも発展していくと思っています。壮大な計画もあります。ロードマップでの創エネ目標(グリーンエネルギーを10万8000MW創出)は2030年までと区切っているので、何とかこの目標に見合うグリーンエネルギーを創出したいと思っています。

 

前列㊧から千田氏、河埜氏、薄氏。後列㊧から長谷川氏、中村氏
前列㊧から千田氏、河埜氏、薄氏。後列㊧から長谷川氏、中村淳氏

 

――場合によれば、海外で再エネ事業を手掛けてもいいのではないですか。

 

 河埜氏 もちろん。海外も視野に入っています。国内では大きな再エネ事業といっても大体、他社もやっているものが多いので、海外での事業の方が入りやすい感じはします。

 

――SPTの目標について、従来の他社の発行したSLBでは、毎年の削減率について、机上の計算に基づく削減率を想定していましたが、西松建設のSLBは毎年度、削減目標率を設定したことも評価されました。この点での内部での議論はどうでしたか。

 

 千田氏  ロードマップでは、中期経営計画でも示しているような企業の将来情報も含んでおり、年度の排出量削減施策に対する目標も設定しています。したがって、ロードマップで各年度の目標数値がすでに示されていますので、これをしっかりとSLBの発行に際しても、SPTとして用いるのが適切であろうと判断しました。社内で作り上げた数値をそのまま外に目標として出すのは、ある意味で、勇気と責任が発生しますが、われわれが内部で作り上げた目標の数値を、しっかりと開示をすることで、投資家等のステークホルダーとの会話もできるだろうし、PDCAを効果的に回す機会にもなるという風に考えました。

 

――スコープ3目標と、創エネ目標は連動していますか。

 

 長谷川氏 スコープ3の目標達成に関しては、創エネで何とかという考え方はしていません。スコープ3の排出量があまりにも大き過ぎる面はありますが、創エネについては、あくまでも自分たちが出したものは何らかの形でカバーしていこうとして目標を作っています。スコープ3については、現在できるZEBの設計によってカバーしていくことが中心になります。スコープ1~2では再エネ電力をどんどんいれていこうとしています。今、電力はかなり自由市場になっており、再エネ電力が市場で簡単に手に入ります。いろんな事情で、再エネ電力を使えないところでは、FITの非化石証書等を利用して電力の排出量をゼロ化することを進めています。今のところ、われわれの使用電力の約3割を再エネ化できています。

 

――発行されたSLBに対する投資家の反応はどうでしたか。

 

薄氏
薄純一氏

 

 薄純一氏(経理部長)  昨年7月に初めて発行した200億円のSLBは、市場環境が悪い中でしたが、満額が売れましたので、評価はよかったのかなと思っています。発行時点は社債の市場環境は厳しく、多くの発行会社で発行額全額の販売ができないケースがあったとされます。その点で、われわれの分が満額販売できたのは、会社としてのこれまでの取り組みが評価されたと思っています。

 

――ESG債としての発行自体、今回のSLBが初めてでしたね。

 

 河埜氏 過去にも、グリーンボンドの発行による資金調達は検討してきましたが、資金使途による発行の時期や調達金額等がはっきりできず、実現に至っておりませんでした。その点、今回のSLBはしっかりとした手応えがあり、当社初のESG債発行となりました。今後は資金使途特定型であるグリーンボンドの発行なども視野に入れていきたいと考えています。

                           (聞き手は 藤井良広)