HOME |第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤国際賞:インドネシア共和国。初のブルーサムライ国債(円建てブルー国債)の発行で、円建て債市場を活性化(RIEF) |

第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤国際賞:インドネシア共和国。初のブルーサムライ国債(円建てブルー国債)の発行で、円建て債市場を活性化(RIEF)

2024-02-19 08:57:45

スクリーンショット 2024-02-19 012717

(写真は、左上がインドネシア財務省の国際担当ディレクターのDeni Ridwan氏。下は同省Manager for Investor RelationsのRena Mustika Tresna氏。右上は、環境金融研究機構の藤井良広)

 

  インドネシア政府は昨年5月、わが国の円建て債市場で初となる「ブルーサムライボンド(ブルー国債)」を発行したことを評価され、第9回サステナブルファイナンス大賞の国際賞に選出されました。調達資金は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に定める海洋資源保護(第14目標)等に関連する適格事業への同国予算支出として充当されました。初のブルー国債を円建て市場で発行した背景等を、インドネシア財務省の国債担当ディレクター、デニ・リドワン(Deni Ridwan)氏に聞きました。

 

――インドネシア政府として初となるブルーサムライボンドの発行を、米ドル市場やユーロ市場などの他の国際債券市場ではなく、なぜ円建て債市場で発行したのですか?

 

 リドワン氏:初めに、環境金融研究機構(RIEF)がサムライ債市場でのわれわれの初のブルー国債の発行を含め、ESG活動を推進するわれわれの強いコミットメントを評価してくれたことに、心から感謝の意を表したいと思います。インドネシア政府は、2009年からサムライ債を定期的に発行することで、日本の債券市場において、確固たる存在感を確立しています。日本の投資家との長年にわたる関係は、日本の投資家にとって、投資先としての信頼性に反映しています。https://rief-jp.org/ct4/136021?ctid=

 

 日本市場で、わが国初のブルー国債を発行することを決めたのは、いくつかの戦略的な考慮を反映させたといえます。まず、リスク管理に不可欠な多様な国際市場にポートフォリオを分散させ、多様な流動性プールへのアクセスを得るためです。 洗練された投資家と深い資本市場を持つ日本市場は、インドネシアに投資家基盤を拡大する、またとない機会を提供してくれます。

 

 インドネシアはすでにグリーンスクーク(イスラム債)は米ドル市場で、SDGs債ではユーロ市場でテーマ債をそれぞれ発行しています。したがって、日本市場でブルー国債を発行することで、われわれの資金調達範囲を広げるほか、サステナブルファイナンスに対するわれわれのグローバルなコミットメントを示すことができます。こうした行動は、インドネシアをサステナブルファイナンスの「リーダー」の座に押し上げ、環境イニシアチブに関心を持つ多様な投資家を惹きつけるという、われわれの広範な戦略に沿うものです。

 

スクリーンショット 2024-02-19 012816

 

――インドネシアの国債に対する日本の投資家の対応は、米国や欧州の市場での投資家と異なりますか?日本の投資家のインドネシア国債に対する対応をどう評価されているかを聞かせてください。もし他の市場に比べて、日本の投資家の場合に違いがあるとすれば、それは何だと感じますか。

 

 リドワン氏  :  私の感じですが、日本の投資家は海洋環境に関心を持っていると思います。だからわれわれは日本市場でブルー国債を発行したのです。われわれは、日本の投資家の関心に沿う形で、われわれの国債に、サステナビリティに対するインドネシアとしてのコミットメントを盛り込んでいくつもりです。


――ブルー国債で調達した資金使途の内容を教えてください。

 

 リドワン氏  :  調達資金の使途は、債券の発行による純調達額と同額を、インドネシアの「SDGs国債フレームワーク」の適格支出として適合するプロジェクトに投資する予定です。インドネシアは2029年に、現行のグリーンフレームワークから「SDGsフレームワーク」へとフレームワークを発展させる予定です。新たなフレームワークは、国際的なESG評価機関のCiceroとIISD(持続可能な開発研究所)からセカンドオピニオン(SPO)を取得しています。

 

 ブルー国債の発行は、国連の「Climate Budget Tagging Mechanism(CBTメカニズム:国家予算での気候関連支出を監視・追跡するツール)」を利用したもので、グリーンスクークと同様です。CBTは、気候変動に取り組むための緩和策や適応策に関連する多様なプロジェクトやプログラムでの政府支出を追跡することができます。

 

 したがって、今回のブルー国債による資金使途先は、われわれの「SDGsフレームワーク」によるブルー・セクターの基準と、CBTメカニズムのデータを比較することで設定されます。CBTのデータには、マングローブや海草の生態系の植林、海洋・沿岸資源からの再生可能エネルギーの開発、海洋廃棄物管理、海洋・沿岸地域の保護・保全、漁業・海洋資源の管理、海上輸送、沿岸・海洋の天然資源を利用した観光など、緩和、適応、気候変動コベネフィット、生物多様性のための活動が含まれています。

 

――今回のブルー国債は、4種類の償還期間の異なる国債を発行しました。日本の投資家にもっとも人気があったのはどの償還期間でしたか?

 

 リドワン氏: ブルー国債の発行時期には、世界経済は高いボラティリティが続いていました。しかし、これまでのサムライ債市場で評価されてきたわれわれの国債への投資家の信頼性に裏付けされた形で、発行した各償還期間のボンドには、日本市場およびオフショア口座から、妥当な投資需要を喚起できました。

 

 一番償還期間が短い3年債は、都市銀行、地方企業、大企業、生命保険、資産運用機関、国際的機関などと、幅広い投資家の参加を得ました。特筆すべきは、すべての投資家カテゴリーから旺盛な需要があった点です。全体としてバランスの取れた投資家の分布となっており、日本の投資家が短い期間の債券を選好していることを示しています。

 

 5年債の投資家数は3年債に比べ、やや少ないものの、投資家層の多様性には目を見張るものがあります。生保や資産運用機関、地方銀行、国際的な事業体などの多様な投資家が、この中期的な債券に強い関心と強い需要を示しました。7年債と10年債は、ESG重視の生保、資産運用機関、公的ファンド等の投資家から大きな関心を集めました。ESG要因に対する市場の認識とコミットメントの高まりを反映し、持続可能で社会的責任に配慮した投資への前向きな傾向を示したといえます。全体として、各償還期間を通して、多様な投資家を惹きつけただけでなく、サムライ債市場において、ESGを優先事項とすることは大いに適合性があることを示しました。

 

――日本市場でのESG関連債への投資家の評価をどうみていますか?

 

スクリーンショット 2024-02-19 012854

 

 リドワン氏  : 日本の投資家を他国の投資家と比較した場合、機関投資家を含めて保守的なリスク選好を示すと思います。投資先についても、安定性や信頼性を優先して選ぶ傾向があると考えます。従って(発行体にとって)投資家との関係を構築し維持することは、日本のビジネス文化では極めて重要であり、投資家との効果的なコミュニケーションを伴う、これまでのわれわれの良好な経験は、サムライ債市場での日本の投資家の行動に影響を与える上で重要な役割を果たすと思います。

 

 これに対してグローバル投資家は、世界経済の動向や地政学的な出来事など、より広範な過去の状況に敏感に反応する傾向があります。金利動向や為替レートなどの要因は、一般的に投資家の意思決定に影響を与えますが、グローバルな投資家は、さらに発行国の経済・政治情勢等を重視する傾向があります。したがって、グローバル投資家に対しては、われわれに関する最新の信頼できる情報を、いかに提供するかが重要になっています。

 

 最近、そうしたグローバル投資家の間で、倫理的な判断を投資に取り入れる傾向が強まっています。なので、ブルー国債等のESG債を発行する際は、ESG要因を重視する市場需要の顕著な変化を考慮すべきです。昨年のわれわれのブルー国債の発行に対する投資家の対応を踏まえると、日本の投資家もESG分野に強い関心を示しています。この傾向は、世界の自然保全、海洋および海洋資源を保全することの重要性に対する日本の投資家の認識が高まっていることを示しています。

 

――日本の投資家も含めて、世界の投資家は、一般の社債よりも、ESG債の発行を好む傾向が明瞭になってきたということですか。

 

 リドワン氏:そうだと思います。一般的に言って、証券や債券にESG等のラベルを付けると、応札数が大幅に増えます。われわれが、ブルー国債を発行した時だけでなく、グリーンスクークやSDGsボンドを発行した時もそうでした。こうした傾向は、より多くの投資家がESG要因を評価した債券投資を実践しており、ESG商品への需要がかなり強まっていることを示していると思います。

 

――そうすると、今後、国際債券市場でESG債の発行がさらに増えるということですか?

 

 リドワン氏 :  そうです。予算調達に関するわが国政府の方針は、国内財源を優先し、外債による資金調達は補完的なものとする戦略的アプローチに重点を置いています。ESGラベル債の発行に際しても、政府は同様の対応を継続するつもりです。こうした決定は、潜在的な市場の需要と、サステナブルなファイナンスと事業展開に対する、われわれ自身の資本市場でのプレゼンスとバランスする形で促進されていくと考えます。

 

―― インドネシアの国内市場および、日本以外のアジア市場で、ESG国債を発行する予定はありますか? あるいはすでに発行されていますか?

 

 リドワン氏 : はい。すでに、インドネシアの国内市場でもESG関連国債やグリーンスクークを発行しています。例えば、2018年にわれわれは国際金融市場で初めてグリーンスクークを発行しました。翌2019年には、個人投資家向けに国内市場で初のグリーンスクークを発行しました。2022年以降は、国内市場で定期的な国債入札によるSDGs債とグリーンスクークを発行しています。今後も、個人を含む国内投資家のESG債需要を満たすために、国内でのESG関連債券やスクークの発行も続けていく考えです。

 

 インドネシアはグリーンスクークを発行した最初の国であるだけでなく、世界で初めて個人投資家向けにグリーンスクークを発行した国でもあります。今回の円建てブルー国債でも、インドネシアが国際的な基準や慣行に沿ったブルー国債を発行した最初の国となりました。さらに今回のブルー国債は、ICMAの原則に沿った最初のボンドなのです。

 

――2024年も日本のサムライ債市場でESG国債を発行する可能性はありますか?

 

 リドワン氏:われわれはブルー国債も含めて、日本市場でのプレゼンスを維持したいと考えています。例年、4月か5月に日本市場で資金調達をします。昨年発行したブルー国債が好評でしたので、現時点では、今回も日本市場で発行したいと思います。投資家向けIRミーティング(ノンディール・ロードショー)も、すでに昨年の11月末と12月に日本で開きました。 「サムライブルーボンド」の発行について、日本の投資家から多くの好意的なフィードバックをいただき、昨年に投資できなかった潜在的な投資家の方々からも、今年の発行には参加したいという話も聞きました。


――日本の投資家に対するメッセージがあれば。

 

 リドワン氏:インドネシア政府を代表して、われわれの証券、サムライ国債に信頼を寄せてくれる日本の投資家の皆様に感謝の意を表します。昨年のブルー国債の発行は、インドネシア史上初のブルーボンドで、日本の投資家から好評価を得たというニュースは世界中に広がりました。日本の投資家のサポートがなければ、このような成果を得ることはできなかったと思います。インドネシア政府と日本の投資家は、今後もこの良き関係を続けていけると思います。

 

                           (聞き手は 藤井良広)

                   English Transcript is available here*