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グリーン投資、主役はアジア 資金調達の選択肢増  三井物産戦略研究所 研究フェロー本郷尚氏 (各紙)

2012-08-13 08:32:21

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各紙の報道によると、4年前の米国大統領選挙で現在のオバマ大統領が巻き起こしたグリーン旋風は、欧州連合(EU)、中国、日本など世界中を巻き込み、主要国の「グリーン」な景気対策をまとめると約180億ドルに達する。しかし今や先進国はどこでも、欧州金融危機や社会保障、失業などの問題に追われており、環境問題の優先度は下がっているようだ。日本では昨年の原子力発電所の事故以降のエネルギー政策の見直しの動きも影響している。6月に開かれた環境関連の国際会議「リオ+20」には、先進国の首脳のほとんどが欠席した。他方で、中国、ブラジル、インドなどの新興国首脳はずらりとそろった。この光景は「グリーンな投資」の主役が新興・途上国に移りつつあることを印象づける。

タイでは政府系の投資資産運用会社が省エネなどに投資するファンドをつくっているし、また外資と地元の合弁で省エネ投資をもっぱらとする投資会社もつくられている。これらはいずれも数億円規模の小規模事業支援が対象だ。


 しかし、世界最大級の太陽光発電事業にバンコク銀行、サイアム商業銀行、カシコン銀行の大手地元銀行は3行合計でアジア開発銀行を上回る70億円相当を融資。またカシコン銀行は太陽光発電を対象とした120億円相当のファンドを設定、サイアム商業銀行も数メガワット級の太陽光発電に融資するなど、地元大手銀行は相次ぎ大型太陽光発電事業に融資などしている。グリーン投資をビジネスチャンスとみて、大型で回収に長期を要する民活事業にも進出してきている。




 民間資金には不安定な面もあり、08年のサブプライム危機では途上国に向けられた投資を含む民間資金は前年の4割以下に減った。




 だがシンガポールでは近く政府投資ファンドと元政府系地元銀行、英国、三井住友銀行などが組んで、シンガポールを拠点とする企業のアジアなどでの電力や水などの事業を支援するために金融会社を設立する。シンガポール版政策金融だ。アジア金融市場の「構造変化」の兆しが見える。




 金融の選択肢が増えることは投資を狙う企業にとっては朗報だ。例えば水事業は収入が現地通貨だから為替リスクを避けるためには、地元通貨での融資が有利だ。これは預金で資金を調達する地元銀行が得意とするところだ。




 ただ15年、20年といった長期の資金を大量に集めるのはまだまだ難しいし、コスト高だ。邦銀など国際金融や海外の公的資金と組み合わせることで事業内容にあった資金調達ができる。アジアの金融が多様化すれば、グリーンなインフラ投資を後押しするだろう。




 経済成長には電力や交通、水などインフラ整備が必要だ。新しく効率の良い設備を作るだけでなく、既往設備の改良で延命と環境改善を図ること、これが途上国型のグリーンな投資だ。




 アジア開発銀行は、アジア途上国では2020年までの11年間で8兆ドル、年間7500億ドルものインフラ投資が必要と試算している。これは国債費を除く日本の年間予算の7割を上回る規模で、途上国政府だけで賄える規模ではない。また国際機関や先進国からの援助を全部足しても年間300億ドル程度だ。事業だけでなく資金面でも民活が必要なのは明らかだ。




 欧州金融危機の影響はアジアに及び、フランスや英国の多くの銀行はアジアから撤退・縮小を余儀なくされている。しかし投資事業に大きな影響が出ていないのは、日本やオーストラリア、シンガポールなどの銀行が穴を埋めているからだ。さらに、もう一つ忘れてはならない重要な存在がアジアの地元金融だ。