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【声明】菅首相のエネルギー基本計画「白紙」からの見直しを歓迎する(WWF Japan)

2011-05-11 21:51:36

今後の見直しは「大規模省エネ」と「再生可能エネルギーの大量導入」を軸に(WWF Japanの声明)2011年5月10日の記者会見において、菅首相は記者団の質問に対し「今回の大きな事故が起きたことによって、この従来決まっているエネルギー基本計画は、一旦白紙に戻して議論をする必要がある」と述べた(※1)。(他のNPOもそれぞれ菅発言を歓迎する声明を出しています)


WWFジャパンは、菅首相が原子力と化石燃料へ過度に依存した現在の「エネルギー基本計画」の見直し姿勢を明確に打ち出したことを歓迎する。また、発言の中で、再生可能エネルギーを「基幹エネルギー」として位置づけて推進する姿勢と、「いろいろな工夫によって、あるいはいろいろな社会の在り方を選択することによって、エネルギーを今ほどは使わない省エネ社会をつくっていく」姿勢を明確に打ち出したことについても評価したい。

ただし、現段階では、全体としてどのような見直しになるか方向性が見えていないため、今後の見直し議論にあたっては、以下の諸点の考慮を要請したい。

  • 現状のエネルギー基本計画は、2020年までに新たな原子力発電所を9基、2030年までに14基を増設することを計画している。さらに、既存設備の利用率についても、近年65%前後を推移している現状から、85~90%へと引き上げていくことを予定している。新規増設や、定期点検期間・頻度を短くして利用率を上げることにつながるこの計画は、震災を受けた現段階で既に破綻している。今後の原子力発電所の新規増設は全て凍結する方向とし、また、安全性の更なる重視のため、既存設備の無理な利用拡大はするべきではない。むしろ、段階的に原子力発電所を廃止していく方向へと舵を切るべきである。政府が、浜岡原子力発電所を、現時点では暫定的とは言え、止める要請を出したことは歓迎したい。

  • 他方で、そのような原子力依存からの転換が、温暖化対策の後退の理由に使われることは避けなければならない。復興に必要な電力需要をまかなうための火力発電の“臨時”稼動は仕方ないにしても、中長期での温暖化対策を後退させないように、特に石炭へのこれ以上の依存は避けなければならない。ましてや、環境アセスメント無しで、拙速に火力発電所を建設しようという動向には深い憂慮の念を抱いている。政府が現在掲げている温室効果ガス排出量の2020年25%削減目標や、エネルギー基本計画の中で示されている(エネルギー起源CO2排出量の)2030年30%削減目標について、「変更止むなし」と安易に結論付けてはならない。今回の震災を受けて、既に140を超える国々が日本に支援の手を差し伸べてくれた。その中には、温暖化の影響に苦しむ途上国も含まれる。日本がそうした支援に応える1つの方法は、世界的な温暖化対策を推し進めるために、引き続き積極的に貢献していく姿勢を見せていくことである。

  • このように、一方では原子力に対する依存度を下げ、他方では温暖化対策をきちんと推進していく上での鍵は、菅首相が会見の中で指摘したように、大規模な省エネと再生可能エネルギーの積極的な推進である。東京電力管内や東北電力管内について、再生可能エネルギーを中心とする分散型のシステムを重視し、積極的な省エネを実施した方が、結果的に費用も安くなるという研究もある(※2)。日本の技術をさらに一段と高める省エネ推進と、産業育成にもつながる再生可能エネルギーの推進を両輪とした「エネルギー基本計画」の再構築を期待したい。


WWFは、2011年2月に『エネルギー・レポート; The Energy Report』を発表し、2050年までに世界のエネルギー供給を100%、再生可能エネルギーでまかなうことが可能かどうかを検証し、経済的、技術的に、それが実現できることを示した。

現在、WWFジャパンでは、原発に頼らず、再生可能エネルギー100%で、快適な生活ができる未来を、日本でどのようにして拓くべきなのか、専門家や事業者、NGOなどさまざまなステークホルダーに参画いただきながら、検討を進めている。

今後、政府のエネルギーに関する政策見直しについて、エネルギー政策と温暖化対策の両面から注視し、提言をしていきたい。