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廃プラスチックを「食べて」消化・分解する酵素を、英米の研究チームが偶然に作製。日本チームの「消化・分解」可能な細菌発見を踏まえ研究を進める。実用化に光明(RIEF)

2018-04-17 17:06:31

PET2キャプチャ

 

  米英の研究チームは、プラスチックを消化分解する酵素を作製したとの研究結果を16日に発表した。日本の研究チームが2016年に発見したプラスチックを消化分解する細菌の研究を踏まえて、同細菌が持つ分解酵素の作製に成功したという。酵素の量産化が可能になると、世界中の海洋や自然界で深刻化しているプラスチック汚染問題を解決に導きっかけになる可能性が出てくる。

 

 プラスチック消化分解酵素の作製に成功したと公表したのは、 英ポーツマス大学(University of Portmouth)と米エネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の研究チーム。共同執筆の論文は米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

 

 プラスチックを消費分解する細菌は、2016年に日本の京都工芸繊維大学と慶応大学、帝人などの共同チームが、プラスチックの一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して生育する細菌を自然界で発見、その分解メカニズムについての解明に成功している。同細菌は、大阪府堺市で採取された環境サンプルにあったことから、Ideonella sakaiensis(イデオネラ・サカイエンシス) と名づけられている。

 

京都工芸繊維大などが発見した自然界でプラスチックを「食べる」細菌
京都工芸繊維大などが発見した自然界でプラスチックを「食べる」細菌

 

 今回、英米のチームは、このサカイエンシスが持つ酵素の一つ「ペターゼ(PETase)」の構造を明らかにして、作用の仕組みを解明する実験を進めてきた。ところが、その作業の過程で「PETプラスチックの分解能力がさらに優れた酵素を偶然作製した」という。研究チームは太陽の100億倍の輝度を持つ超強力X線を用いて、超高分解能の構造解析によるペターゼの立体(3D)モデルの作製に成功した。

 

 日本のチームの発見後、米サウスフロリダ大学と(University of South Frorida)とブラジル・カンピナス大学(University of Campinas)の研究者による細菌のコンピュータモデル化によって、ペターゼが真菌や細菌にみられる別の酵素のクチナーゼに似ていることがわかっていた。ただ、ペターゼにはクチナーゼと少し異なる部位があり、今回の英米の研究チームはこれがペターゼによる合成樹脂の分解を可能にする部位だとする仮説を立てたという。

 

 そうした仮説に基づいて研究チームは、ペターゼの活性部位をクチナーゼにより近い構造になるように変異させたところ、この変異酵素が天然のペターゼよりも優れたPETの分解能力を持つことを予期せず発見したという。研究チームは現在、この変異酵素をさらに改良する研究に取り組んでいる。最終的にはプラスチック分解の産業的利用にまで用途が拡大することを期待している。

 

ポーツマス大のJohn McGeehan 教授
ポーツマス大のJohn McGeehan 教授

 

 研究チームのポーツマス大学のJohn McGeehan教授は「1960年代には世界中に拡散した大量のプラスチック廃棄物を処理できるとはだれも思わなかった。だが、それを解決できる「魔法の原料」を作り出せるのは科学コミュニティの力だ。真の解決に向けて、われわれは人類のすべての知恵と技術を活用しなければならない」と、酵素の実用化に向けた決意を述べている。

 

http://uopnews.port.ac.uk/2018/04/16/engineering-a-plastic-eating-enzyme/

https://www.kit.ac.jp/2016/03/topics160311/