トランプ次期米大統領の温暖化政策での後退。長女のイバンカさんが、歯止め役になるか。ゴア元副大統領、デカプリオ氏らとの会合をアレンジ（RIEF）
2016-12-10 00:44:49
トランプ次期米政権の温暖化政策の命運を握るのは、長女のイバンカさん（?）――。こうした観測が米国で浮上している。トランプ次期大統領が、環境保護庁（EPA）長官に温暖化懐疑論者を指名したことで、米国の環境政策への不安が高まっているが、その不安を一掃する期待が、長女のイバンカさんに寄せられている。
トランプ氏は、温暖化懐疑論者のオハイオ州司法長官スコット・プルイット氏を環境保護庁（EPA）の長官に指名した数時間後に、温暖化問題に積極的な活動をしていることで知られる俳優のレオナルド・デカプリオ（Leonardo DiCaprio）さんと、トランプタワーで会談した。また、今週初めには、民主党のアル・ゴア元副大統領とも意見を交わした。これらの温暖化対策論者との会合は、いずれもイバンカさんの“仕掛け”という。
6日にトランプタワーを訪問したゴア元大統領は、トランプ氏との会談後、「非常に興味深い会合だった。共通点を真剣に探し合った」と手応えを語った。会合はイバンカさんがゴア氏を招いて雑談しているところに、トランプ氏が顔を出す形で進められたという。ゴア氏は「今後も意見交換することで一致した」と述べている。
もう一つのデカプリオさんとの会談は、トランプ氏がプルイット氏をEPA長官に指名した後に行われた。デカプリオさんは、熱心な環境保護主義者であり、国連の気候変動問題担当の平和大使も務める。ゴア氏とともに、筋金入りの環境保護論者なのだ。
デカプリオさんは数日前にイバンカさんと会っており、 その際に自らが主演したドキュメンタリー映画「Before the Flood（地球が壊れる前に）」のDVDをイバンカさんにプレゼントしたという。
デカプリオさんは、トランプ氏に対して、環境保護こそが再生可能エネルギー発電などによって新たな雇用を創り出し、経済を刺激する、と持論を説明したという。同席したデカプリオ財団（LDF）のTerry Tamminen氏によると、会合にはトランプ氏とイバンカさんのほか、トランプチームの他のメンバーも加わった。
イバンカさんが、父のトランプ氏と環境保護論者との会合をアレンジしたのは思い付きではなさそう。9月には、夫のジャレッド・クシュナー氏と連れ立ってアスペンで開いた温暖化問題等を議論するリベラルな会合に参加している。また、イバンカさんに近い友人は「彼女が（温暖化問題等で）言っているのは、普段通りのこと」と証言している。
トランプ氏の夫人のメラニアさんは、夫の大統領就任後、ファーストレディになる。だが、メラニアさんは共和党大会で演説（ミシェル・オバマ大統領夫人の演説のコピーと判明）して以来、公式の場でのスピーチは行っていない。むしろ、「ファースト・ドーター」としてのイバンカさんへの期待が高まっている。
イバンカさんが温暖化問題で父親と異なった考えを示すのは、彼女自身が、常に物議を醸す父親の物言いとは違い、堅実な発言と行動で知られることからも、違和感はない、との指摘がある。また自身の名を冠したブランドで、ジュエリー、シューズ、バッグなどを発表しているが、そのターゲット層は、堅実で、進歩的な女性たち。環境問題にも敏感な向きが多いだけに、そうした女性層のリーダー的役割も期待されている。
とは言え、温暖化問題はエネルギー産業を有力な支持基盤とする共和党にとって、長年、目の敵にしてきたテーマである。プルイット氏をEPA長官に据える人事も、トランプ氏の強い意向というよりも、共和党主流派の要請とみられる。“リベラルな”ファースト・ドーターが、こうした政治構造の転換を図ることができるかは未知数だ。
イバンカさんは、先月、安倍首相がトランプタワーにはせ参じて、トランプ氏と個別会談をした際も、同席している。自身は、父親が大統領就任後は、政治活動に関与するよりも、ファミリービジネスの不動産業を切り盛りすることに時間を割くとみられる。ただ、イバンカさんは父親にもっとも意見を言いやすい立場にあるだけに、環境問題のような国論を二分するテーマについて、彼女の存在は無視できない影響力を発揮する可能性もある。
Research Institute for Environmental Finance