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サラーム:グラミンバンク・ユヌス総裁の辞任の弁(Grameen Bank)

2011-05-19 23:29:39

youns
ムハマド・ユヌス氏はグラミンバンク総裁職を辞任するに際し、銀行の従業員に向けメッセージを発した。同氏の辞任は、バングラデシュ政府の意向を受けた同国最高裁判所の政治的決定によるものとの見方が出ている。メッセージの中でユヌス氏は、残る従業員たちに、政治排除の重要性を強調した。

辞任の経緯:http://financegreenwatch.org/jp/?p=1012

        http://financegreenwatch.org/jp/?p=496

(仮訳はFGW):

My dear colleagues

過去5カ月の間、われわれは非常に困難な状態にあった。その理由はあなた方がご承知のことでもある。それは、バングラデシュの最高裁判所が私に対する評決を下したことである。グラミンバンクの役員会は、それに基づいて、断をしなけえればならない状況に置かれた。しかし、そうしなくてもいいのである。なぜなら、私が昨夜(5月13日)辞任を決めたからだ。私は自らが辞めないと、銀行の経営に影響が生じるかもしれないと判断した。

後任は副頭取のMurjahan Begumに委ねる。彼と私は、長年一緒に働いてきた。例えば、Jobra村では、貧しい人々のところへ一緒に行き、彼らが高利貸しからローン返済による逃げ場のない悲惨さを体験していることを聞いた。彼らの話こそが、我々がローンを提供しようというアイデアの元になったのだ。そうした話を聞かなければ、この事業を始めなかっただろう。彼とは一緒に事をなすことを学び、一緒になって工夫をしてきた。こうしたことの中からグラミンバンクは誕生したのである。

今日、グラミンバンクは世界に認められ、尊敬される組織となっている。したがって、今、あなた方にサヨナラを告げる時に、いささか感傷的になることは、決しておかしいことではない。しかし、振り返って思うと、われわれは必ずしもお互いに離れ離れになってしまうわけではないともいえる。我々は同じ組織にいるという関係が途切れるだけで、長年かけて築き上げてきた個人的な信頼関係は依然、続いているし、続くだろう。

 実は、私はあなた方が思うよりも前に、グラミンからの退任を望んでいた。しかし、銀行の役員会がそうさせてくれなかった。銀行の多くの人々は、私に残るように要請する手紙を書いて送ってくれた。

 We have built a Nobel winning organization
われわれは、35年以上にわたって、とても無理と思われてきたことを成し遂げてきた。初期のごく小さな個人的なプロジェクトを、ついには世界のノーベル賞を受賞する組織にまで発展させた。このことにより、わが国バングラデシュを、国際社会において、誇りと栄誉を手にする座に導くことができた。世界は、われわれの理論を踏まえた取り組みと、実践的なアプローチを評価してくれたのだ。それだけではなく、先進国も途上国も、貧困撲滅のために、われわれが開発したマイクロクレジットという手法を取り入れたのである。

 あなた方はノーベル賞を獲得したこの組織の一員であることを、大いに誇りとすべきである。さらに、あなた方が世界中で唯一の、ノーベル賞受賞銀行というものを創造したことを、誇りとするべきなのである。世界中で、こうした幸運に巡り合えることは極めて限られている。ただ、同時にそのことは、あなた方に重要な責任があることを問うことでもある。あなた方は、自分たちが創り出した銀行を守り、外部からの介入を排除して銀行を発展させていく責任を果たさねばならない。

 グラミンバンクは、その発足以来、常に多くの困難に直面してきた。時には、洪水、嵐、高潮などの自然災害に直面し、時には、政治的、宗教的な攻撃に直面しなければならなかった。われわれはそれらの困難に立ち向かい、乗り越え、前進してきたのである。これからもまた同様の困難が待ち受けているだろうが、あなた方は、勇気と忍耐、そして団結によって、そうした事態に立ち向かってもらいたい。

 グラミンンバンクは830万人もの貧しい田舎の女性をオーナーとして抱えている。銀行が存在しているのは、こうした彼女らの夢を実現させるためであり、そのための融資活動を続けていかねばならない。彼女らこそが銀行を実質的に支配するオーナーなのであることを明確にしておかねばならない。

過去35年間、われわれはグラミンバンクを健全な金融機関として発展させてきた。1995年には、銀行として一切、寄付を受け付けないと決めた。実際、それ以来、この方針は継続している。われわれはすべてのローンを、預金に基づいて実行できる。その上、銀行は毎年、利益もあげているのだ。われわれは、これらの利益を、貧しい田舎の借り手である銀行の個人オーナーたちに、配当として還元できるのだ。これこそが我々の最大の喜びである。

グラミンバンクは、Tk.856の資金を貸し出すことで始まったが、現在、毎月、Tk.1000croreを貸し出すまでに成長している。このほか、10万人以上のホームレスに、無利子融資を提供している。われわれは団結を強めねばならない。最大の敵は、お互いの疑いから生ずる内部分裂である。グラミンバンクは信用を基本としている銀行であり、健全な規律に基づく銀行でもある。このことを決して忘れてはならない。われわれがこの団結の強みを堅持する限り、だれもわれわれから主導権を奪うことはできないだろう。

 This would be a wrong decision
バングラデシュ政府は、グラミンバンクを審査する委員会を設立した。この委員会が公表したレポートについてここで詳細には触れない。しかし、ひとつだけ述べたいことがある。レポートではグラミンバンクがこれまで築いてきた組織を改革すべきと提案している。しかし、私はこの提案に対し懸念を抱いている。そうした改革を提案する意図が、われわれのグラミンバンクを、貧しい借り手自身が所有してきたこれまでの仕組みから、それとはまったく異なる組織に変質させてしまう懸念である。

 もしもグラミンバンクが、直接的にであろうと、間接的にであろうと、政府の統治下に入るようなことになると、政治が銀行経営に介入してくるだろう。金融機関にとって、特にグラミンバンクのように貧しい借り手によって支えられている銀行にとって、こうした介入は非常に悪い知らせとなる。

 われわれは銀行を常に政治の世界の外に置かねばならない。私は、すべてのバングラデシュの政党リーダーたちに求めたい。グラミンバンクを政治の外に置くことを。銀行トップ任命の権限を、政府ではなく、銀行の役員会に残すことを求めたい。

 グラミンバンクはこの国に、誇りと名誉をもたらした組織である。世界中の多くの人々を引き付け、世界中がわれわれの活動を見習い、さらに発展させようとしている。世界中の人が思うように、この国の人々も、グラミンバンクが傷つくことを望んではいない。現在グラミンバンクの出資者の96.5%は貧しい女性である。この組織構造は法によって保護されるべきである。もしこれらが保護されなければ、グラミンバンクはもはやグラミンバンク足りえない。その結果、何千もの他の組織においても、大きな損失が生じるだろう。

Grameen Bank is my life
グラミンバンクは、私の人生にとって、切っても切れ離せないほどの比重を占めている。グラミンは私の人生そのものでもある。このことは、私以外の多くの銀行の従業員にとっても言えることである。

 グラミンバンクはわれわれの思いや経験、夢の中心となってきた。われわれはみんなグラミンバンクファミリーなのである。グラミンバンクを家族と切り離しては考えられない。このことは、グラミンから去った多くの人々にとってさえ、グラミンバンクを彼らの人生と切り離して考えることをできない。私自身もその一人になろうとしている。

 My dear colleagues:
今、私とあなた方のつながりは、不幸な状況の中で、ピリオドを打とうとしている。こうした別れは、今起きていることとは異なった、もっと楽しい雰囲気の中で行われるべきだったとも思う。しかし、そうはならなかった。こうした尋常ではない環境の中で、われわれの次なる挑戦のチャプターが始まる。

 私の銀行での従業員番号は1番である。つまり私が最初のグラミンバンクの従業員である。このことは常に私のプライドの源泉となってきた。われわれが銀行の中にあろうと、外にあろうと、銀行の従業員の一員として、銀行をあらゆる反対や、攻撃、災害などから、安全に保つことが、われわれの役目である。その役目は、借り手とその子供たちが将来に明るい未来を夢見ることができるようにすることである。最後に、グラミンバンクが創り出してきた目的であり目標である哲学は、決して妥協されるべきものではないことを明確にしておきたい。

  いつの日か、わがバングラデシュの国民は、あなた方が国の建設に貢献してきたことを理解し、あなた方を国民のヒーローとして誇りに思う日が来るだろう。そうした評価はまだ十分ではないが、あなた方自身は自らが担う責任を怠らないようにしてもらいたい。われわれが足を踏み出してから、ずいぶん時がたった。さらに前進しよう。あらゆる障害を乗り越え、我々の目指すゴールに向かって行進しょうではないか。

みなさん。どうか私のサラーム(あいさつ)を受け入れて、がんばってもらいたい。私のサラームと願いをグラミンバンクのすべてのメンバーと、その家族、そしてあなた方の家族に捧げてもらいたい。

この手紙の締めくくりとして、あなた方自身が、これまで銀行で掲げてきたスローガンの言葉を、あなた方に送ろう。

「自らを律し、団結し、勇気を持って、懸命に働こう。それらを携え、そろって前に向かって進もう」

 生涯の友として

モハメド・ユヌス

英語版 http://financegreenwatch.org/?p=1108