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ワンコインからつながる未来へ――俳優・伊勢谷友介氏らが立ち上げた「元気玉プロジェクト」(日経BP)

2012-03-28 13:16:04

元気玉プロジェクト」の企画の1つ「みんなの力で~ 東北元気玉弁当プロジェクト」のページ。立案者が動画やテキストで支援を呼びかけた。目標額58万5000円のところ、87万円もの活動費用が集まった
被災地でお弁当屋さんを開きたい」「震災で散り散りになった卒業生や家族、村民を集めて卒業式をしよう」「被災地に子ども図書館を作ろう」――さまざまな企画を携えた人が次々と手を挙げる。それに賛同した人が出資する。そんなシンプルな仕組みで東日本大震災の被災地を支援する会社がある。俳優の伊勢谷友介氏と脚本家の龜石太夏匡(かめいし・たかまさ)氏が設立したリバース・プロジェクト(REBIRTH PROJECT)だ。

元気玉プロジェクト」の企画の1つ「みんなの力で~ 東北元気玉弁当プロジェクト」のページ。立案者が動画やテキストで支援を呼びかけた。目標額58万5000円のところ、87万円もの活動費用が集まった




 リバース・プロジェクトのこの活動は、「元気玉プロジェクト」と名付けられている。漫画好きならピンと来るだろう。漫画『ドラゴンボール』で、主人公の孫悟空が地球上のあらゆる生物から少しずつ気をもらい、大きなエネルギーに変える、あの必殺技だ。作者の鳥山明氏に許諾を得て冠したという。

「元気玉プロジェクト」の内容を聞くと、名前の由来に「なるほど」とうなずける。人々から広く集めた小口の支援を大きな支援に変えるさまは、まさに「元気玉」だ。

伊勢谷友介氏(左写真の左端)が先頭に立って現地に入り、被災地支援を行った


 まず、立案者は自分の考えた企画を「元気玉プロジェクト」に応募。同プロジェクトのサイトで、企画の内容や集めたい活動費用の目標額、出資してくれた人への特典などを発表して支援を呼びかける。

 企画を見て賛同した人は、支援を申し出る。支援額は500円から。支援者が集まり、費用が期日までに目標額を超えると、支援者から集金されて立案者に渡される仕組みだ。立案者は、出資を受ける見返りとして、企画の進捗状況を支援者に報告したり、特典を提供したりする義務があるが、費用を返済する必要はない。

「元気玉プロジェクト」では、既にいくつもの企画が実現している。支援する人とされる人、お互いの顔が見える対等な関係での支援策は、従来の寄付とも融資とも違う。リバース・プロジェクトと「元気玉プロジェクト」の活動について、リバース・プロジェクト副代表の龜石太夏匡氏、元気玉プロジェクト担当・ディレクターの関根優作氏に話を聞いた。

――最初に、リバース・プロジェクトとしての被災地支援活動について聞かせてください。

龜石:地震が起こった直後、まずは物的な支援に動きました。伊勢谷を中心にTwitterで被災地の人たちから何が足りないかを聞き、それを提供できる人をつないだんです。最初は物資が集まっても送る手段がありませんでしたが、そのうちに物流会社が協力を申し出てくれました。その結果、2011年3月31日の時点で150トンもの物資を被災地に届けることができたんです。

その頃になると、自分たち以外にもいろいろなところから物資が届くようになっていました。では、次にすべきことは何か。思い至ったのが「元気玉プロジェクト」です。復興のためには、目先の20万円より毎月入る5万円がうれしいかもしれない。目の前の支援も大切だけれど、少しずつでも継続的に長く続く支援をしようと考えたのです。

――これまでリバース・プロジェクトはどんな活動をしてきたのですか。

龜石:2009年5月に会社を設立して以来、地球のためになること、未来のためになること、その中でも衣食住に関わることを中心に活動してきました。最初に取り組んだのが、家屋を壊したときに出る廃材を利用してオリジナルの家具を制作する活動。その後も、埋めると土に返る生分解性プラスチック素材を使った喫煙所用ベンチを制作したり、新潟県の南魚沼の農家と共同で無農薬無化成肥料栽培の米をプロデュースしたり……まずは動かないと始まらない。矢継ぎ早にいろいろなことをしてきましたね。

――伊勢谷さんと龜石さんの2人が中心になってリバース・プロジェクトを立ち上げたということですが、このような会社を立ち上げた動機は何だったのでしょう。

龜石:話は10年以上前に遡ります。当時、伊勢谷は学生をしながらモデルや俳優として活動、僕は兄たちとセレクトショップを経営していたのですが、2人の共通の夢が映画を作ることでした。その夢が『カクト』という映画で実現したとき、「じゃあ次に何をしようか」という話になったのです。話し合ううち、「次は誰かのために、未来のためになることをしよう」という話になりました。

 地球の環境や僕たちの社会のこれからについて、感覚的にでも不安や問題意識を持っている人は多いと思います。僕らもそうです。だったら、なぜ動かないんだろうと。気付いても行動しなければ、それは気付かなかったのと同じことではないのかと考えていました。

 数年前、『セイジ―陸の魚―』(伊勢谷氏が監督、龜石氏が脚本を務める映画。2012年2月18日公開、全国で順次上映予定)の原作に出会ったことも1つのきっかけになったと思います。この作品は「生きるとは何か」がテーマです。映画化の構想を練ったり、主人公の職業を考えたりしているうちに、現実の世界で自分たち自身が行動しようという結論に至りました。そのためにリバース・プロジェクトを立ち上げたのです。

――「元気玉プロジェクト」は、もともと復興支援が目的のシステムではなかったと聞きました。

龜石:はい。最初は米国の「Kickstarter」のような活動ができないかと考えていたんです。これは、デザイナーやミュージシャン、映画監督などの創作活動を支援するために、個人が少額の出資をするものです。

――「ソーシャルファンディング」とか「クラウドファンディング」などと呼ばれるシステムですね。

龜石:そうです。2011年1月ごろ、国内ではハイパーインターネッツという会社が「CAMPFIRE」というシステムを作ったと知りました。そこで、ハイパーインターネッツと協力して、何かできないかと検討を始めました。そこに東日本大震災が起こったのです。

 震災直後は被災地への直接的な支援、物的支援を優先したので、「CAMPFIRE」については後回しになりました。ですが、それが一段落すると、CAMPFIREのシステムを被災地支援に使えないかと考えるようになったのです。準備を始めて、2011年6月に「元気玉プロジェクト」を開設。被災地支援に関係する企画の募集を始めました。

――では、もともと考えていたシステムを、被災地支援に活用したということなんですね。

龜石:ええ。リバース・プロジェクトは、地球のため、未来のためになることをポリシーに活動をしてきましたが、今、倒れている人がいるのなら、それを助けることが未来への第一歩になるでしょう。そういう意味では、震災の前と後で、リバース・プロジェクトの活動方針は変わっていませんね。

――関根さんは「元気玉プロジェクト」からリバース・プロジェクトに参加されたそうですね。

関根:僕は、震災の前までは別の仕事をしていました。地震があった日はちょうど出張で福島県白河市にいたんです。目の前で地面が割れるのを見て、「これは自分も何かしないといけない」と思い、帰宅してすぐに支援活動を始めました。周囲に声を掛けて支援物資を集めましたが、現地に運ぶ手段がない。リバース・プロジェクトに相談したのが、出会いのきっかけです。

 リバース・プロジェクトと一緒に活動することになり、伊勢谷や龜石と一緒に現地に入りました。そこで元気玉プロジェクトの話を聞いて「やりたい」と思ったんです。仕事を辞めて、リバース・プロジェクトに入りました。

――では、関根さんの人生は震災を機にずいぶん変わりましたね。

関根:そうですね。それまでは、今が楽しければいい、仕事は効率良くお金を稼げればいいと思っていましたが、自分は何をやりたいのか、何をやるべきなのかを真剣に考えるようになりましたね。

――実際に元気玉プロジェクトを担当していかがですか。

関根:「元気玉プロジェクト」のいいところは、支援してくれた人に活動内容を報告したり、約束した特典を提供したりという義務さえ果たせば、立案者がお金を自由に使えることです。一方で、支援した人には立案者からの報告や特典が楽しみになるでしょう。

 例えば、先に触れた被災地にお弁当屋さんを作る企画では、目標額58万5000円のところ、87万円ものお金が集まりました。融資と違って返済は不要です。支援者は、出資金額によって限定グッズがもらえたり、立案者からお礼状が届いたり、販売されるお弁当の包み紙に名前を入れてもらえたりします。インターネットを介してではありますが、立案者と支援者にコミュニケーションが生まれるのがいいと思っています。

――応募してきた企画をリバース・プロジェクトで審査したりはしているのですか。

関根:判定するのはあくまでも支援者という考え方なので、審査はあまりしていません。内容が悪ければ、期日までにお金が集まらないでしょう。お金が集まらなかった場合、立案者は、企画が悪いのかプレゼンが悪いのかを考えて、再チャレンジすることができます。

――今後の「元気玉プロジェクト」の活動はどう進めていくのでしょう。

関根:2012年3月11日で震災から1年がたちました。これまで「元気玉プロジェクト」では、東日本大震災の復興支援に関する企画を中心に募集してきましたが、今後は当初の考え通り、復興支援以外の企画にも広げていく予定です。スポーツやアートなどに関連する企画が考えられるでしょうか。

龜石:リバース・プロジェクトとしては、「元気玉プロジェクト」が、多くの人が地球のため、未来のためという意識を持つきっかけになってくれればと思っています。「元気玉プロジェクト」は出資したお金が使われる過程が見える仕組みです。何かにお金を出すということは、それを支持するということ、選択するということ。自分のお金が何に使われるのか、使われた先で何が起こっているのかを知ることで、お金に対する意識、ひいては自分の選択に対する意識が変わるかもしれません。さらには行動にもつながっていくでしょう。

 僕と伊勢谷がリバース・プロジェクトを立ち上げたとき、周囲の人には反対されました。僕たち自身も「自分たちだけが何かをしても変わらないのではないか」と思ったことがあります。それでも続けてきたことで、リバース・プロジェクトの活動は少しずつ形になり、スタッフも増えてきました。企業を動かすことができたり、仕事を生み出すことにもつながっています。「元気玉プロジェクト」はその一例です。みんなに意識が広がれば、地球の環境や僕らの未来はもっと良くなる。そう信じて、これからもさまざまな活動を続けていきたいと思います。

 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/reb/20120316/302619/?P=1&ST=rebuild