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減り続ける南極の棚氷、減少理由は分離よりも融解 温暖化の影響深刻に(National Geographic)

2013-06-14 14:40:19

南極大陸の氷を海の中から撮影した写真。中央でコウテイペンギンが海水面に向かっている。
南極大陸の氷を海の中から撮影した写真。中央でコウテイペンギンが海水面に向かっている。
南極大陸の氷を海の中から撮影した写真。中央でコウテイペンギンが海水面に向かっている。


南極大陸の棚氷は減り続けている。従来、棚氷(陸上の氷河が海に押し出された部分)の減少の主な原因は、先端部が分離して氷山となるためと考えられていた。だが最新の研究で、棚氷の減少には別のメカニズムも働いていると明らかになった。南極大陸の棚氷の大部分は、下から溶けていっているのだという。

 このように棚氷が氷と海の接するところで溶けていることは、氷河研究の分野では以前から知られていた。しかしこれまでの研究はグリーンランドおよびアラスカの特定の棚氷を観察したものしかないと、アラスカ大学フェアバンクス校の氷河研究者で、2013年度のナショナル ジオグラフィック協会エマージング探検家プログラムの助成を受けているエリン・ペティット(Erin Pettit)氏は言う。ペティット氏は今回の研究には関与していない。

 今回の研究は個々の事例報告から一歩踏み込んで、南極大陸の棚氷の減少の約55%が、氷と海の接点での融解によるものであることを確認した。

「このことから、海の役割は(これまで考えられていたより)重要だと言える」と、研究を率いたエリック・リグノ(Eric Rignot)氏は言う。リグノ氏はカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の教授で、NASAのジェット推進研究所(JPL)にも籍を置く。「海が原因で棚氷が溶けているのなら、地上の氷床にも海が影響を及ぼす可能性がある」。

 というのも、棚氷はワインボトルの栓のような役割を果たしているからだとリグノ氏は説明する。つまり、氷河から海へ向かう氷の流れが、棚氷のおかげで、ある程度せき止められているのだ。過去の観測から、棚氷がなくなれば氷河が海へ流れ込むペースは上がり、それにより海水面上昇につながるということが分かっている。

 今回の研究結果は、南極大陸が地球温暖化によってどう変化するかを予測する手がかりとなる可能性がある。これまでにも既に、地球温暖化の影響で南極大陸の一部は融解している。

「海水温が今後も上昇するなら、棚氷は少しずつ薄くなっていくだろう」と今回の論文の著者らは書いている。その結果、氷河が海に流入するのを棚氷がせき止める効果も、弱まっていく可能性がある。

◆小規模な棚氷からの融解が無視できない

 リグノ氏らの研究チームは、衛星とレーダーによる観測結果とコンピューターモデルを組み合わせて、2007~2008年にかけての棚氷の厚さと進行速度、棚氷表面への降雪量を算出した。この期間を選んだのは、棚氷の進行速度について、一番詳しいデータが揃っているためだ。

 データからは、融解によって棚氷から失われた水分の48%は、南極大陸の南東側、太平洋に面した小規模な棚氷にあったものと見られる。こうした小規模な棚氷は、南極大陸をおおう棚氷全体のうち、わずか8%を占めているにすぎない。

 これに対し、大規模な棚氷(東西のロス棚氷、フィルヒナー棚氷、ロンネ棚氷)だけで、南極大陸をおおう棚氷の61%になるが、今回の分析によると、これらの棚氷からの流出は、失われた水分のうちわずか15%程度であった。

◆わずかな海水温の変化にも影響を受ける

 これは驚くべき結果だとリグノ氏は言う。なぜなら「小規模な棚氷(の融解)でも、南極大陸では大きな問題になる」と分かったからだ。

 小規模な棚氷ほど流出が大きいという不均衡の理由は、小規模な棚氷は大規模なものに比べて、接している海水の温度が比較的高いからだとリグノ氏は言う。

 気候変動がこの先、南極地方の海水温と海流にどう影響するかは専門家の間でも定かでない。だが結論として「融解の度合いは、海水温(のわずかな変化)の影響を受けやすい」とリグノ氏は言う。

 このように、特に南極大陸南東側の太平洋に面した棚氷が、海水温の影響を受けやすいという事実は、懸念すべきものだとアラスカ大学のペティット氏も言う。なぜなら、海水温や海流がわずかに変化しただけでも、この地域の氷に影響が出てしまうと予想されるからだ。

 南極大陸の棚氷の融解に関する今回の研究は、6月13日付で「Science」誌オンライン版に発表された。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130614001