HOME8.温暖化・気候変動 |ナイジェリアの太陽光発電、光と影(National Geographic) |

ナイジェリアの太陽光発電、光と影(National Geographic)

2011-11-08 16:02:24

ナイジェリア、ラゴス州のビショップコドジ(Bishop Kodji)島に導入された太陽光発電システム。州政府が設置してから5年、いまはまったく機能していない。
ナイジェリア経済の中心都市ラゴスの近くに、オニソウォ(Onisowo)という村がある。ラゴスラグーン(潟湖)に浮かぶビショップコドジ(Bishop Kodji)島にあり、一等地ではあるが、周囲の著し

ナイジェリア、ラゴス州のビショップコドジ(Bishop Kodji)島に導入された太陽光発電システム。州政府が設置してから5年、いまはまったく機能していない。


い発展から完全に取り残されている。5年前、ラゴス州政府はオニソウォ村でソーラー電化プロジェクトを立ち上げた。同州で初の試みで、送水ポンプや魚乾燥機、街灯への電力供給を目指していた。成功すれば、住民5000人の小さな漁村で飲料水の確保、夜道の安全な往来、経済の活性化が実現するはずだったが、計画は頓挫した。

 ビショップコドジの伝統社会で指導的立場のアジメ・アンソニー(Azime Anthony)氏は、「システムは約3カ月で停止した。街灯は消えたままで、誰も修理に来ない」と窮状を訴える。

◆エネルギーは豊富

 ナイジェリア国内どころかアフリカ大陸のどこに行っても、国営電力網が届いていない農村部は状況に大差ない。ビショップコドジの場合は皮肉にも、豊かな地域と近接している点が違う。エネルギー大国ナイジェリアは、アフリカ最大の産油国なのである。

 ビショップコドジ島から1キロほど先のティンカン港は石油の輸出港であり、連邦政府はこの主要輸出品目から毎日数千万ドル(数十億円)の外貨を稼いでいる。島の住民は積荷満載の貨物船を横目に生活しながら、「取り残された」感覚を常に味わっているという。

 2005年の世界銀行のレポートによると、ナイジェリアの推定人口1億5400万人のうち約1億人には国営電力網が届いていないという。同年に、連邦政府は電力公社を民営化。再編後のナイジェリア電力持株会社(PHCN)は、毎年少しずつ供給量を増やしているが、ビショップコドジなど貧困地域住民の多くは電気料金を支払う余裕がない。

「農村部は電力網から隔絶されている。電力消費が少なかったり、潜在購買力にも期待できないので、民間投資家にとって魅力が薄い。大都市と同様のサービスなど遠い先の話だ」と、エネルギー委員会の事務局長アブバカル・S・サンボ(Abubakar S. Sambo)氏は指摘する。

 ビショップコドジの状況を改善するため2006年、ラゴス州政府は島内2カ所に300ワットの太陽光発電パネルを設置。公共施設、小学校、教会、モスク、井戸の送水ポンプに電力を供給する計画だった。各パネルは、ノートパソコン用充電器約3個分のワット数を生産可能という。

 このプロジェクトは当初、コスト効率が高いと絶賛された。「1つの村に送電線を引くコストは約120万ドル(約9400万円)だが、ソーラーエネルギー・プロジェクトなら8万3000ドル(約650万円)程度に抑えることができる」と、ラゴス州の科学技術部門を担当するカドリ・ハムザト(Kadri Hamzat)氏はプロジェクトの立ち上げ時のインタビューで話している。

 その後、ラゴス州政府は別の9つのコミュニティにも同様のプロジェクトを導入。しかし、すぐに問題が発生した。原因は「ねたみ」である。ソーラーパネル設置の報を聞いた近隣地域の住民がやって来て、装置を破壊したという。

 切断されたケーブルは州派遣の作業員が交換した。しかしその後は、原因不明の障害で再びパネル機能が停止したとき修理に訪れただけで、定期的なメンテナンスにも来なくなった。プロジェクトの立ち上げから5年過ぎたが、パネルはいまだ機能していない。

 ビショップコドジのような失敗例があると、再生可能エネルギーで電力供給を拡大する試みがナイジェリア全土で失速しそうだ。しかし、北部国境に接するジガワ州のコミュニティでは、希望の光となる大きな成功が実現した。ビショップコドジから約1200キロの距離にある。

◆ジガワ州の成功

 2001年、ジガワ州の当時の知事イブラヒム・トゥラキ(Ibrahim Turaki)氏は、農村部を対象とする大規模な電化プロジェクトに対し、日本政府の資金援助を取り付けた。アメリカの国際開発庁(USAID)とエネルギー省も援助している。投資額は45万ドル(約3500万円)と、ビショップコドジの予算の5倍以上だ。ジガワ・プロジェクトの導入と保守に携わったのは、ワシントンD.C.に本拠を置くNPO「ソーラー・エレクトリック・ライト・ファンド(SELF:Solar Electric Light Fund)」。21年前から発展途上国にソーラープロジェクトを広めている団体である。

 SELF主導のプロジェクトは、ビショップコドジより大きな目標を掲げ、その分リスクも大きかったが、素晴らしい成果を上げている。

「地域生活を網羅する包括的なプロジェクトにしたかった」と、SELFの事務局長ロバート・フレリング氏は話す。「きれいな水を送水ポンプで汲み上げられるようになった。女性たちはそれまで何キロも歩いて水汲みしていたが、いまは村の中心部で蛇口をひねれば飲料水を入手できる。零細企業の支援組織ができ、通りには街灯が並んだ。住宅20軒に明かりが灯り、農地へ持ち運び可能なポータブル・ポンプも利用できるようになった。とにかく著しい発展だ」。

 SELFのWebサイトによると、電力が安定供給された結果、ジガワの住民はコンピューター技術の専門学校を開校することができた。また、ナイジェリア北部の州として初めて、衛星経由のブロードバンドインターネットや、すべての行政区域とリンクした通信システムを構築したという。

 ビショップコドジとジガワの違いは、計画とメンテナンスの両方にあるとフレリング氏は考えている。「われわれは持続可能性を重視している。計画、資金調達、遂行が万全なら、そのプロジェクトは何年も持続可能だ。どんな場合も、最初からこの点を念頭に置く必要がある」。

 一方、ビショップコドジだが、かつての希望の光、ソーラーシステムの再稼働をあきらめている住民も、このまま置き去りにされる訳にはいかないと考えている。「漁村にも、病院や良い学校、明かりが必要だ。それを忘れないで欲しい」と、指導者であるアンソニー氏は切実に訴えている。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article_enlarge.php?file_id=20111104002