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クリーン石炭発電を巡る米中の駆け引き(National Geographic)

2012-02-16 14:19:18

中国、内モンゴル自治区南西部の都市オルドスの郊外に広がるCO2回収貯留(CCS)施設。
石炭火力発電に伴う温室効果ガス排出削減に役立つ、二酸化炭素(CO2)回収貯留(CCS)技術が注目されている。アメリカのエネルギー産業界は、小さな新興企業から最大級の電力会社デュークエナジー(Duke Energy)に至るまで、「技術を推進するには中国との協力が欠かせない」との意見で一致している。

中国、内モンゴル自治区南西部の都市オルドスの郊外に広がるCO2回収貯留(CCS)施設。




アメリカでは過去25年間、CCSの研究開発に膨大な資金を費やしてきた。しかし、思うようには進まず、高コストも災いして大規模プロジェクトがいくつか放棄された。また、環境問題に対する意識が高まり、代替燃料として天然ガスが浮上。石炭火力発電所の建設ペースはスローダウンし、CCSが発展する素地が失われつつある。

 他方、中国では平均して週に1基の石炭火力発電所が建設されており、その経済成長を支えている。

 CO2排出量と石炭埋蔵量で世界をリードする両国が協力できるかどうかが、CCSの未来を左右することになる。

◆中国におけるCCS技術の普及

 急成長する新興国では、右肩上がりの電力需要を満たすため、安価で豊富な石炭資源に依存する場合が多い。しかし、通常の石炭火力発電では大量のCO2排出が避けられない。温室効果ガス排出を抑える上で、発電所でのCCSが極めて重要となる。

 例えば、過去5年間の中国における石炭発電の増加量は、アメリカの全石炭発電量を上回った。中国の全発電量は2015年までにアメリカの3倍に達すると見込まれている。

 アメリカと比べて石油や天然ガスなどの資源に劣る中国は、石炭への依存度がはるかに高い。中国は発電量の80%を石炭火力で賄っているが、アメリカは50%程度であり、年々減少している。

 アメリカから「世界一のCO2排出国」の地位を奪った中国は、クリーンテクノロジーを国家的な優先課題として取り上げるようになり、「第12次5カ年計画(2011~2015年)」でも明確に規定されている。電力会社「華能グループ」や中国最大の石炭エネルギー企業「神華グループ」といった巨大国有企業が、さまざまなクリーンテクノロジーに多額の投資を行うようになり、特に石炭ガス化技術に照準が絞られている。石炭ガス化はCO2の回収に大きな利点を持つ。石炭を燃やした後に発電所の煙突からCO2を回収する場合、ほかの気体や汚染物質と混ざってしまうが、先にガス化しておけば回収効率が高まるという。

 中国企業は排出ガス中のCO2回収にも重点を置いているが、環境保護にはCO2を隔離して封じ込める技術も必要だ。アメリカとの協力が重要となるのはこの分野である。

 アメリカのカリフォルニア州にある米国エネルギー省ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)で炭素管理プログラムを率いるジュリオ・フリードマン氏は、「アメリカと中国が協力しない限り、十分なCO2削減は実現できない」と指摘する。「エネルギー問題に関して、両国は対立するケースが多かった。最近でも、新興の太陽エネルギー産業に対する中国政府の補助金が大きな摩擦を生んでいる。しかし、“クリーン石炭発電”は両国が協力を進めるきっかけとなり得るだろう」。

 企業間での協力は既に始まっている。例えば、アメリカのペンシルバニア州グッドスプリングでは、華能グループから北アメリカでの事業に関するライセンスを受けたエネルギー開発企業「エンバークリアー(EmberClear)」が石炭をガソリンに変えるプロジェクトを推進している。この施設では、華能グループのガス化装置で石炭を合成ガスに転換。石油大手エクソンモービルの技術により、合成ガスをガソリンに変える。

 華能グループのガス化装置は高性能だ。しかし、アメリカの業界では、「中国の技術的な強みは、開発した装置というよりも、新興産業で大規模プロジェクトを複数実践してノウハウを急速につかむ能力にある」といわれている。

◆中国の優れた技術

 中国の華能グループとアメリカのデュークエナジーは2009年にクリーンテクノロジーに関する合意を締結しており、2月の習近平中国国家副主席の訪米に合わせて、協力関係の拡充が発表される予定だ。

 アメリカの複合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)のガス化技術部門を率いるジェイソン・クルー氏は、「問題は中国企業が欧米企業の対抗馬になるかどうかではない。“いつなるか”だ」と話す。「いずれGEの大きなライバルになることは確実と見ており、GEはこの部門の本部を上海に設置している」。
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