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横浜市の「ブルーカーボン・オフセット制度」、2018年度のクレジット発行額は前年比5.4倍増の298㌧に急増。企業の再エネクレジット確保の動きを反映(RIEF)

2019-07-19 23:32:29

yokohama1キャプチャ

 

  横浜市が独自の温暖化対策として取り組んでいる「ブルーカーボン・オフセット制度」が拡大し始めた。コンブやマングローブなど海の植物が吸収するCO2を「ブルーカーボン」としてオフセットの取引対象にする仕組み。2018年度のクレジット発行量は17年度比5.4倍の298㌧に急増した。絶対額はまだ少ないが、横浜市内の企業がクレジットを購入、着実に地域の温暖化対策として定着しつつある。

 

   「ブルーカーボン」は、国連環境計画(UNEP)が2009年に提唱した概念。海洋で生息する生物によってCO2を吸収・固定することを目指す。UNEPの報告書では、全世界で1年間に排出される CO2量72 億 ㌧(炭素換算)のうち海洋全体で吸収される量は22 億㌧(そ の一部が海洋生物により固定)という。

 

 横浜市は、14年度から同制度を市の温暖化対策に組み込む「横浜ブルーカーボン・オフセット制度」を立ち上げた。ただ、国の温暖化規制がない中で、これまで同市でのオフセット量は年間10~20㌧台にとどまっていた。それが18年度の55㌧から18年度には298㌧と急増した。

 

横浜市の「グルークレジット・オフセット制度」の仕組み
横浜市の「グルークレジット・オフセット制度」の仕組み

 

 企業が事業活動で生じる光熱費を100%再エネ電力に切り替える「RE100」の動きが反映しているとみられる。クレジットを購入すると、自社のCO2排出量からクレジット分を相殺できる。一方、クレジット販売者はクレジットの売却資金で沿岸整備や設備投資費の一部を賄える。

 

 横浜の場合、海洋生物等からブルーカーボン創出に加え、海洋資源の利用や沿岸部での低炭素化活動もクレジット発行の対象とする。この中には、NPO法人によるワカメづくり活動、海水が持つ熱を使って運転するヒートポンプ式空調(実施者=横浜八景島)、液化天然ガス(LNG)を燃料とするタグボート(ウィングマリタイムサービス)などのCO2削減プロジェクトのクレジット化等が含まれている。

 

 18年度に創出したクレジットは、同市内に本社がある石井造園や大川印刷、店舗を構える丸井グループなどに販売、各社のCO2排出量削減に貢献した。このうち、竹中工務店と西松建設は、同市内の工事で発生したCO2削減にクレジットを利用した。

 

コンブは自然のCO2吸収・固定源
ワカメは自然のCO2吸収・固定源

 

  同市のブルーカーボン取引が盛り上がりをみせてきた背景には、パリ協定に沿った企業のCO2排出削減の動きが現実化し、さらに再エネ100%を宣言する企業等が増えていることが大きい。

 

 企業の中には自社の100%削減目標を達成するために、割高のクレジットでも購入に動く動きも出ている。また、クレジットの購入は国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第13目標(気候変動対策)に貢献できる魅力もある。

 

 さらに、横浜を拠点とする企業にとって、“横浜生まれのクレジット”は、地元貢献をアピールするなど、自社の取り組みを地元ヨコハマに発信できる手段の一つにもなる。

 

  今後の課題となるのが、ブルークレジットを購入する企業・事業体をさらに増やせるかどうかだ。横浜市では、市内だけでなく、他の自治体の需要も視野に置いている。横浜市温暖化対策統括本部の岡崎修司課長は「興味を持つ自治体が増えている」と手応えを話す。

 

カーボンオフセット事業の一つ
金沢八景島シーパラダイスで実証実験したワカメ利用のカーボンオフセット事業

 

 

 他の自治体にとっても、オフセット制度を開始した横浜市と連携することで、地域を越えたクレジット取引が期待できる。特に横浜市や神奈川県下での企業向けに、地方で確保したクレジットを売却する機会が増える可能性がある。

 

 海洋生物を活用することによる課題もある。それは、CO2を固定する海洋生物を、食べてしまうと固定したCO2分まで食べた形となり、CO2吸収量が増えなくなる点だ。人間が食べたワカメは、最終的には分解されて呼吸などを通して大気中のCO2に戻るからである。

 

 横浜市では「フードマイレージ」(横浜でワカメを採ることによって遠方からの輸送を省く)によるCO2削減、海水熱利用による空調効率の向上(省エネ)を合わせた「ブルーリソース」を組み合わせてクレジット化するなどの工夫を加味して、これらの課題克服を目指している。

 

 また同市では、市民から見てもわかりやすいように、市が毎年行う2つのトライアスロン大会で排出するCO2を、オフセット(相殺)する試みも続けている。大会への参加費に少額(1人30〜200円)のオフセット費用を上乗せするファンドを立ち上げている。

 

 このファンドが売却するクレジットの創出主体は、地元の横浜市漁業協同組合や横浜八景島等。購入者はトライアスロン主催者やヨット大会主催者、地元民間企業だ。大手流通業者なども、「海で生み出したクレジットを買いたい」として名乗り出るところが出てきたという。

 

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/ondanka/etc/ygv/bluecarbon.html