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国内石炭火力の現状と課題(桃井貴子)

2022-11-07 23:27:34

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 気候危機が年々深刻化する中、先進各国では石炭火力からすでに脱却、もしくはその道筋を示し、次は化石燃料全体からいかにスピーディに脱却するかという段階に入っています。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機禍にあってもその流れは変わらず、むしろ再生可能エネルギーへの転換を急速に進めることこそ、リスク回避につながると考えられているのは周知のとおりです。そのような潮流から完全に遅れをとっているのが日本です。

 

 (写真は、JERAの千葉・姉崎火力発電所)

 

 政府の政策は、2050年までの「脱炭素社会」や「カーボンニュートラル」を目指しながらも、S+3E<安全性(Safety)、安定供給(Energy security)、経済性(Economic efficiency)、環境(Environment)>を前提とし、“脱石炭”どころか、いかに石炭火力を使い続けるかに終始しているようです。ここでは、パリ協定がスタートした2020年以降の日本の石炭火力の現状と課題について整理しておきたいと思います。

 

1.エネルギー基本計画における石炭の位置づけの変遷

 

 エネルギー基本計画の石炭の位置づけは、以下の表に示したとおりです。第5次までは「重要なベースロード電源」だったものが、第6次では「重要なエネルギー源」で「調整電源」という位置づけとなりました。それまでは再エネの発電による変動に合わせてオンオフする「調整電源」はLNG火力が主力とされてきましたが、再エネが割合が増える中で、石炭も「調整電源」として役割を果たせるという意味なのでしょう。

 

 また、第5次までは高効率化や次世代化の石炭火力が推進されていましたが、第6次では、火力の脱炭素化として水素・アンモニア、CCS、カーボンリサイクルなどに重点がシフトしてきました。シフトといっても、「火力の脱炭素化」とはつまり、既存の石炭火力のインフラを活用することが前提であり、どれも実用化されていない技術に依存しているため、結果的には従来の火力が稼働し続けている状態です。後述する今後稼働予定の横須賀、神戸、三隅、西条ですら、現時点でこうした“脱炭素技術”は伴っていません。

 

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 さらに、第5次で「非効率石炭火力のフェードアウトに取り組む」との記述は、第6次では「非効率石炭火力のフェードアウトが進み、LNG火力への比重が高まる火力ポートフォリオとなり得る」と、非効率石炭火力が成り行きまかせに低減していくような書きぶりになりました。

 

  非効率石炭火力のフェードアウトについては、2020年7月に梶山経済産業大臣(当時)が非効率石炭火力の休廃止に向けた検討をはじめるとしたものの、結局は何ら具体的な制度は導入されていません。むしろ、省エネ法の位置づけで、従来の火力発電所の燃料に、バイオマス、水素・アンモニアなどを混焼すれば、発電効率を見かけ上高く見えるような計算式が導入され、非効率石炭火力でさえ「高効率化」するような「抜け穴」制度がつくられました。

 

2.2020年以降も次々と稼働

 

 気候変動の1.5℃目標を達成するには、少なくともOECD諸国は、CO2の排出が大きい石炭火力を2020年以降新規稼働はせず、既存の石炭火力発電所も2030年には全廃することが不可欠だとされています。しかし、日本では結局、稼働年数が40年を超えるような老朽火力を含めて、ほとんど廃止は進んでいません。むしろ2020年以降に新規稼働が8基、398万kWにも上りました。さらに現在建設が進んでいる横須賀1・2号機、神戸4号機、三隅2号機、西条新1号が稼働すれば、425万kWも増えることになります。

 

 最近の報道を見ていると、火力発電所が次々と廃止されているような印象を受けることがありますが、古い石油火力の廃止は若干進んでいるものの、全体として廃止は進んでおらず、とりわけ石炭火力は設備容量が増えているのです。

 

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3.容量市場

 

 既存の石炭火力の廃止が進まない理由には、石炭価格が他の火力燃料に比べて安価であることがあるかもしれませんが、効率の悪い火力を含めて廃止されない最大の原因は「容量市場」だと考えられます。「容量市場」は2020年からオークションが行われ、約定結果は次の表で示すとおり、石炭火力が全体の4分の1弱を占めています。

 

 入札された電源の大半は投資回収などが終わっている古い火力で「ゼロ円入札」されたものですが、これに対しても一律の約定価格が支払われるため、電気事業者は老朽火力を残しておけば棚ぼた的に収入が入るしくみだと言えます。制度の問題点については政府内でも指摘されてきましたが、廃止の議論にまではならず、2024年から本格的に市場が動き出すことになっています。この制度が続いていく限り、石炭火力の廃止はほとんど進まないと考えられます。

 

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4.水素・アンモニア混焼等の「イノベーション支援」で既存石炭火力の維持

 

 一方で、水素・アンモニア燃料に対して、政府の手厚い支援策が様々な形で講じられるようになりました。水素やアンモニアがグレーやブラウン(石炭火力や化石燃料由来の水素やアンモニア)であっても非化石エネルギーとして位置付けられ、製造プロセスでのCO2排出は問わないこととされ、その上で、水素・アンモニア燃料のサプライチェーンの構築、技術開発などに対して多額の予算がつくようになりました。実用化には程遠くても、いずれは「火力を脱炭素化する」という「挑戦」を演出して、足元では何ら対策のされていない石炭火力発電所が動き続けているのが現状です。

 

 このような形で日本が石炭火力から抜け出せない現状は、3つの意味で悲劇的です。一つは大量のCO2を長期に渡って排出し続けること(つまり気候変動を悪化させること)、二つ目はイノベーションなど多額の官民資金がつぎ込まれ無駄な投資が続くこと(社会的コストの増大)、三つ目は火力依存の構造が変えられず、再エネ導入がますます遅れ、日本の競争力が失われることです。

 

 この悲劇から抜け出すためにも、私たちは声を上げていかなければなりません。

 

 

(注)本稿は「気候ネットワーク通信」<第147号>(2022年11月1日発行)に掲載の記事を、著者の了解を得て、一部修正のうえで再掲しました。

 

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桃井貴子(ももい・たかこ) 気候ネットワーク東京事務所長。環境NGO職員、衆議院議員秘書等を経て、2008年より気候ネットワークスタッフ入り。2013年より現職。