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国連「気候野心サミット」から遊離した日本政府の「化石燃料支援政策」~ 脱化石燃料の世界の潮流から「逆走」する岸田政権の危険度(有馬牧子)

2023-09-22 21:21:20

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写真は、G7広島サミット中にバングラデシュのバガーハット地区で、日本の化石燃料事業支援に対して抗議する同国の市民たち)

 

 9月20日に米ニューヨークで開催された国連の「気候野心サミット」に向け、世界中で市民、学生、地域社会による化石燃料依存からの脱却の行動が展開された。17日にニューヨークで開催されたパレードには、5万人から7万人が参加したほか、18日に東京で開いた「ワタシのミライ」のイベント及びマーチには約8000人の市民らが参加した。日本では同イベントを含め全国98ヶ所で市民による行動が展開された。気候変動による最悪の影響を避けるため、世界の人々が、化石燃料の迅速で公正なフェーズアウト(段階的廃止)を強く求めていることが、確認された期間となった。

 

 ところが、岸田首相は、この「気候野心サミット」には参加しなかった。その一方で、サミット前日に開いた国連総会では、「グローバルなネット・ゼロの鍵を握るのがアジア諸国」であり、「『アジア・ゼロエミッション共同体』構想の下、多様なニーズを踏まえた実効的な協力を推進」すると発言した。岸田首相のこの発言は、グテーレス国連事務総長をはじめとする世界の政治主導者による脱化石燃料の呼びかけに沿っているのだろうか。

 

 気候危機の現状

 

 国連サミットの開催及び世界各地での同時アクションの背景には、気候変動の進展に対応する地球上の人々による緊急性の増大がある。今年の夏は6~8月の3カ月連続で観測史上初となる最高気温が続き、記録的な暑さが各地で観測された。毎年、激しさを増す異常気象による山火事や洪水などの気候災害が一段と高まった。国連の指摘によると、気候変動を引き起こす要因の75%、温暖化の元凶となる二酸化炭素(CO2)増大の90%の要因は人類による化石燃料の使用とされている。

 

 気候変動の影響が(今まで以上に)顕著になるとされる転換点の世界の気温上昇が「1.5℃」に到達することを避けるには、現在利用されている油田や鉱山にある化石燃料の埋蔵量の大半を地中に留めなければならない。最新のデータによると、「1.5°目標」の制限を守るには、石炭、石油、ガスの埋蔵量のうち、採掘すべきでない量の割合は、2018年の約40%から、2023年には約60%に増加している。これは、たとえ石炭採掘を直ちに停止しても、開発済みの石油とガスの埋蔵量だけで、世界は1.5°を超える可能性があることを示す(図1)。この状況で新たな石炭、石油、ガスの上流事業を開拓することは、1.5°目標を完全に無視することになる。

 

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  気候変動の悪影響と1.5°目標を守る重要性を理解しつつも、化石燃料を燃やし続ける理由として指摘されるのが、「エネルギーの安全保障」の必要性だ。特にロシアのウクライナ侵攻後は、各国で、エネルギー資源の確保と多様化が声高に指摘されてきた。しかし、エネルギー自給率が低い日本のような国にとって、化石燃料に頼り続ける限り、輸入先の状況や地政学的な問題の影響を受けるリスクを完全に排除することはできない。国際エネルギー機関(IEA)も、「ロシアによる侵攻は、新たな石油・ガス関連インフラの建設の正当化をできない」と指摘している。

 

 国連気候サミットでは、参加した各国の首脳に対して、2030年以前に、現行の「国が決定する貢献(NDC)」の改定に加えて、現行の温室効果ガス削減目標の更新、ネット・ゼロ目標の更新、石炭・石油・ガスの新増設を行わない約束を示すエネルギー転換計画、化石燃料の段階的廃止計画、より野心的な再生可能エネルギー目標、「緑の気候基金(GCF)への拠出、適応とレジリエンス(強靭性)に関する経済全体の計画の提示を求めた。特に日本を含むG20国に対しては、2025年までに、ガスを含めてGHG排出量を絶対的に削減する、より野心的なNDCの提示を求めた。

 

続く化石燃料事業に対する日本の公的資金

 

 サミットでグテーレス事務総長は、「化石燃料から再エネへの移行は進んでいる。だが、われわれはまだ(本来の必要性からは)何十年も遅れている。化石燃料から何十億㌦もの利益を得ている既得権益者たちによる移行対応の引き伸ばし、強い圧力、剥き出しの欲望によって失われた時間を取り戻さなければならない」と発言した。

 

 こうした国連の警告があるにも関わらず、日本政府は化石燃料事業に対する世界最大の公的支援国の一つになっているのだ。日本政府は、2020年から2022年の間、ガス・石炭・石油の新規事業に年平均69億米㌦を提供している。これは、同期間に、日本が再エネに拠出した金額の3倍に相当する(図2)。さらに、日本政府は国際的なガス事業に対する世界最大の公的支援国であり、2020年から2022年の間、年平均43億米㌦を投じている。

 

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  日本政府が立案した第6次エネルギー基本計画によると、日本は2030年度には、エネルギーミックスにおけるLNG(液化天然ガス)の割合を2019年度の37%に比べて、20%へ減らす予定としている。しかし、日本政府は、LNG市場への影響力を維持するため、アジア地域でのエネルギー需要増大を理由にあげて、LNGの国際市場の形成や、第三国におけるLNGの受入基地等のインフラの建設及び操業事業への積極的な関与を強調する行動を展開している。

 

 このような化石燃料に対する依存の継続と、化石燃料関連のインフラ輸出への拘りによって、日本政府のエネルギー政策は、世界中が責任を負う気候対策を共有するという姿勢よりも、自国の利益だけを優先する「孤立したスタンス」に固執しているように見える。実際に、今年5月に日本で開いたG7では気候変動問題に対する日本のリーダーシップが欠如しているとの批判も投げかけられた。特に、4月に札幌で開いたG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、他国が石炭火力の廃止時期の明示を提案したにもかかわらず、開催国の日本が反対したと伝えられている。G7以降も日本政府の姿勢に変わりはない。9月の内閣改造で、着任した伊藤信太朗環境相は、「『石炭は悪』という感覚ではなくなってきている」と、述べている。https://rief-jp.org/ct7/135521?ctid=

 

 2022年のドイツでのG7では、1.5°目標やパリ協定の目標に整合的である「限られた状況以外」、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー事業に対する新たな公的直接支援を2022年末までに終了するという公約で合意した。ところが、日本は独自の条件を付けて、今年に入っても国際的な化石燃料事業を支援している。化石燃料事業を抑えるために合意した公約があるのに、化石燃料事業を支援できる条件を増やす政策を展開するのであれば、G7の公約は「パリ協定の目標」との整合性よりも、従来からの化石燃料事業の継続を優先する「無意味な約束」でしかないことになってしまう。

 

 アジア地域全体の化石燃料依存を促している「日本のGX」

 

  日本政府は、気候とエネルギー課題に関する国際舞台で、「現実的なエネルギートランジションの重要性」をうたい続けている。政府の「現実的」とはどういう意味だろうか。日本政府当局者は、エネルギー部門の大半に化石燃料を利用しているグローバルサウスの国々の脱炭素化への支援を表する場面で、こうした発言をし、迅速な化石燃料から再エネへのトランジション(移行)は難しいことを強調することが多い。

 

 しかし、こうした日本政府の発言は、化石燃料の使用継続によって環境や人々の生計への悪影響の長期化、気候変動の激化等による被害を最も体感し、迅速なエネルギートランジションをもっとも必要としているグローバルサウスの国々に対して、「それでもなお、あなた方は、化石燃料に依存し続けなければならない」という、過酷なメッセージを発しているようにも聞こえる。

 

 「現実的なエネルギートランジション」を支援すると称する日本の技術メニューには、石炭火力発電所でのアンモニア混焼、石炭火力からガス火力への転換、ガス火力発電所での水素混焼、火力発電所でのCCS(二酸化炭素回収・貯留)導入などがある。これらの技術は、化石燃料を燃やしての操業を続けることに力点を置くが、現状の技術レベルの水準は低く、実際の排出削減はあまり期待できないものばかりである。

 

G7広島サミット開催中に在ウクライナ日本国大使館前で日本の化石燃料依存、特にロシアの化石燃料の輸入について抗議するウクライナの市民団体 (写真:Anna Soshnikova, Razom We Stand)
G7広島サミット開催中に在ウクライナ日本国大使館前で日本の化石燃料依存、特にロシアの化石燃料の輸入について抗議するウクライナの市民団体
(写真:Anna Soshnikova, Razom We Stand)

 

 例えば、日本政府や企業は、既存の石炭火力発電所でアンモニアを混焼することにより、石炭燃焼によるCO2排出削減を図る「ゼロエミッション火力発電」を推している。しかし、アンモニアの利用では、製造時のGHG排出量、技術の進捗度が、2050年の脱炭素化のタイムラインと整合しない点、削減コストの高さなどが多方面から指摘されている。その結果、結局は、化石燃料依存の延長につながるだけという評価が広まっている。

 

 アンモニア混焼を含む「誤った気候変動対策」の式典とも言える「東京GXウィーク」が今月25日から始まる。開催会合ともなる「第3回アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合」では、アジア諸国の経済成長とカーボンニュートラルを同時実現するために、「エネルギー安全保障」と「多様かつ現実的なエネルギートランジション」について議論する予定とされる。これらの議論テーマは、すでに上記で触れたお馴染みのフレーズだ。つまり、表向きには「グリーン」、「カーボンニュートラル」を強調しつつ、実態は化石燃料依存を継続し続ける政策スタンスといえる。

 

 日本のGXについては、G7広島サミットの際にも、参加他国を含めて、化石燃料を燃やし続け、化石燃料の延命に繋がる技術を推進するものだと、疑問の声が向けられていた。実際に、昨年発表されたGX基本方針には、上記の「誤った気候変動対策」とされる諸施策が盛り込まれている。すなわち、石炭火力からのガス火力への転換、水素・アンモニア混焼・専焼、CCS、カーボンリサイクル技術の推進等である。

 

 GXは、これらの化石燃料使用延長の技術支援を通じて、「新たな市場・需要を創出し、日本の産業競争力を強化する」とうたっているのだ。その実現の場として「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」や「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を活用する狙いとみられる。実際に、今年の3月に開いた「AZEC官民投資フォーラム」では、化石燃料とアンモニア・水素・バイオマスとの混焼やCCS、LNGに関する多くの覚書(MOU)が、主に東南アジアの国々の企業との間で交わされている。AETIの取り組みにも、LNGやCCSに関するアジア諸国との協力が示されている。同取り組みの下で、アジア諸国に対して提案されているトランジション技術リストも、日本政府が推進している化石燃料延命のための技術がずらりと並んでいる。

 

ASEANサミット中にフィリピンで開催された日本とASEANに対して化石燃料からの脱却と迅速で公正かつ公平な以降を求めるアクション (写真:APMDD)
ASEANサミット中にフィリピンで開催された日本とASEANに対して化石燃料からの脱却と迅速で公正かつ公平な以降を求めるアクション
(写真:APMDD)

 

 しかし、このような日本の支援協力を、アジア諸国の市民団体は明確に拒否している。昨年のGXウィークが開催された際には、アジア諸国で抗議活動が行われた。また、8月にインドネシアでASEAN首脳サミットが開催された際にも、日本をターゲットにした市民の抗議行動がアジア9都市で展開された。行動に参加した市民らは、「ASEAN諸国は化石燃料依存を続ける日本の技術は欲しくない」と強く訴えた。

 

終わりに

 

 化石燃料の使用廃止を求める世界中の市民の声は今後も止まないだろう。日本政府の化石燃料依存の引き延ばしと「誤った気候変動対策」のアジアへの展開に対しても、G7広島サミット中、世界22カ国で50以上の反対行動が行われた。ロシア軍の運営費となっているロシア産のガスを輸入し続ける日本政府に対して抗議するウクライナ市民から、日本によるガスの輸入基地とガス火力発電所の建設で周辺住民の健康と生活が脅かされているフィリピンやバングラデシュの市民団体まで、日本政府が掲げる「現実的なエネルギートランジション」の“妄想”に対して、抗議活動が世界中で広がっているのだ。

 

 今後、2023年から2050年にかけて、新たな石油・ガス採掘がもたらすCO2排出量増大の90%近くの責任は、世界の20カ国が担っている。これらの国々が国連事務総長の要求に応じて、新たな石油・ガス開発を止めた場合、2023年から2050年の間、1,730億㌧の炭素排出を避けることができるとされる。

 

 したがって、世界最大級の化石燃料開発の公的支援国である日本の責任は重い。ただ、同時に世界最大級の支援国であるからこそ、GHG排出削減に貢献できる可能性も大きい。化石燃料の利用維持を優先した研究開発と公的支援の現状から、よりクリーンなエネルギー源と国内のエネルギー自給率も上げられる未来へ方向転換できるならば、世界全体を、より野心的で、前向きなエネルギー移行と確実な脱炭素化の方向に転換させることを、日本政府が主導することも期待できる。そうしたリーダーシップこそが、日本政府に、今、求められているのではないか。

 

 参考文献

Oil Change International 「日本のアジアに向けた有害なエネルギー戦略」 (2023年)

Oil Change International, Sky’s Limit Data Update: Shut Down 60% of Existing Fossil Fuel Extraction to Keep 1.5°C in Reach (2023)

Oil Change International, Planet Wreckers: How 20 Countries’ Oil and Gas Extraction Plans Risk Locking in Climate Chaos (2023)

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有馬 牧子(ありま まきこ)国際NGO「Oil Change International」のキャンペーナー。国連大学サステイナビリティ高等研究所や環境省勤務を経て、2022年より現職。