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「移行ファイナンスガイダンス」最終報告。移行対象を事業と企業の両方とし、それぞれに「ブラウンタクソノミー」設定。日本版ではなく、国際基準への貢献を提唱。研究者グループ(RIEF)

2020-10-02 15:35:20

coal001キャプチャ

 

  グリーン&サステナブルファナンス分野の研究者で構成する「トランジション(移行)ファイナンス研究会(Transition Finance Study Group in Japan : TFSG)」は2日、化石燃料依存、高環境負荷の旧来型の事業、企業を、よりサステナブルな形に移行させるための「移行ファイナンス(トランジションファイナンス)」のガイダンス(最終報告)を公表した。

 

 TFSGは今年4月22日に、同ファイナンスの中間報告を公表している。同案に対する内外の意見や、その後の市場での動向等を踏まえて、最終報告を仕上げた。https://rief-jp.org/book/101626?ctid=35

 

 同ガイダンスは、日本版の基準を目指すものではなく、国際的な基準作りに資するために作成した。最終報告については、現在、移行ボンドを対象とした基準化作業を展開している国際資本市場協会(ICMA)のワーキンググループや、EUのサステナブルファイナンス行動計画の技術専門家グループ(TEG)等に提供する予定。

 

 現在、グリーンボンドやグリーンローン等への取り組みが日本でも広がっている。これらは新規あるいはリファイナンスの形で、グリーンプロジェクトへ資金を供給する。これらとは別に、既存の炭素集約型、環境高負荷型の事業あるいは企業を、よりグリーンで、よりサステナブルに移行・転換させるための資金供給を「移行ファイナンス」という。

 

 今回の最終報告と中間報告の違いは、中間報告では、移行ファイナンスの対象を企業が取り組む事業に対象を絞った。企業そのものの脱炭素、低環境負荷は望ましい。だが、企業主体の移行の効果を金融的に評価する手法が十分に確立していないとの判断だった。

 

 しかし、その後、気候・環境の負荷を重要業績指標(KPI)で評価し、その改善を目的とする「KPI・リンク・ファイナンス」の考え方が示されたほか、コンサルテーションでも企業向け移行ファイナンスを求める指摘があった。そこで最終報告では、同KPI方式を活用することによって、企業を対象とした移行ファイナンスも、事業向け移行ファイナンスと並列させて、ガイダンスを示した。

 

 すなわち、個々の事業を資金使途先とする移行ファイナンスを「A-Type(A=Assets)」、企業全体のKPIの改善を目標とするファイナンスを「C-Type(C=Corporate entities or Companies)」とし、両方のファイナンスの基準を定めた。さらに両方について、移行を必要とする現状の事業・企業を特定する「ブラウンタクソノミー」の設定を求めている。

 

 ガイダンスでは、対象となるタクソノミーの事例として、A-Typeでは、石炭火力発電所や自動車、ビル・住宅等の16項目の事業を示した。C-Typeでは、電力会社、鉄鋼業等9項目の産業セクターを示した。A-Typeはこれらに限定しないが、C-Typeはこれらの炭素集約型、高環境負荷企業に限定する。今後、範囲を精査するとともに、対象事業・セクターを評価するクライテリアの設定等が必要になる。

 

 移行ファイナンスの特徴は、ボンドやローンでの資金調達を活用して、対象事業・企業を、現状の気候・環境に負荷を与える「ブラウン」状態から、移行プロセスでの事業・ビジネスの改善を経て、「グリーン化」する点にある。投資家や金融機関はそうした移行支援によって、自らのサステナビリティへの取り組みを確認できることにもなる。

 

 したがって、移行プロセスで当初の想定通りの移行成果が得られるかどうかが、最大のポイントだ。仮に移行成果が不十分な場合は、投資家や金融機関の期待を裏切ることになるので、資金調達者は一種の「罰則」として、金利の引き上げ(債券の場合はクーポンレートの引き上げ)措置等を受ける。

 

 単に金利が上がるだけではなく、移行の約束を果たせなかったという「汚名」も負うことになる。移行ファイナンスを受けて、市場の支援で「ブラウン」から「グリーン」に転換できると、事業・企業の持続可能性が高まり、ブランド価値も向上するので、「罰則」のコストを回収したうえで、追加的メリットを享受できると思われる。ただ、「移行ウォッシュ」にならないよう、移行プロセスと成果の確認作業が重視される点も、同ファイナンスの特徴といえる。

 

 2020トランジションファイナンス最終報告報道資料

 2020移行ファイナンスガイダンス(最終版1002)

 2020Q&A最終版日本語トランジションファイナンス

 

「トランジションファイナンス研究会(Transition Finance Study Group in Japan)」とは

 グリーン&サステナブルファイナンス分野を主に研究対象とする研究者の任意団体。国際的な基準化の動きに資することを目指している。事務局は一般社団法人環境金融研究機構。

参加者:

明日香壽川:東北大学東北アジア研究センター教授

越智信仁:尚美学園大学総合政策学部教授

竹原正篤:法政大学人間環境学部准教授

藤井良広(主査):元上智大学地球環境学研究科教授(環境金融研究機構代表理事)

村井秀樹:日本大学商学部教授

グレッグ・トレンチャー:東北大学准教授

ウグ・シュネ : 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉シニア客員研究員

山本利明:元大阪電気通信大学金融経済学部教授

足達英一郎:環境金融研究機構顧問(オブザーバー)