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日銀、地銀等の地域金融機関の気候変動対応の分析レポート公表。GHG排出量の把握はScope1~2では約7割が実施、Scope3は2割弱。同目標開示は1割と対応不足(RIEF)

2023-03-31 17:08:20

BOJ003キャプチャ

 

  日本銀行は28日、地方銀行から信用金庫までの地域金融機関の気候変動対応をまとめたレポートを公表した。気候関連の情報開示では、TCFD提言に賛同する機関が約9割に上る。同提言で開示が推奨される項目の開示状況も、この1年間で大幅に拡充しているとした。ただ、地銀、第二地銀では温室効果ガス(GHG)排出量のうちScope1~2の把握を約7割が実施しているものの、融資先の排出量を含めるScope3の把握は2割弱で、同目標開示は1割にとどまっている。

 

  調査は、地方銀行62行と第二地方銀行37行、日銀の取引先信用金庫247庫(2022年3月末時点)を対象に、2022年6月20日~7月25日の間にアンケートを実施、さらに各地域金融機関が発行する統合報告書等の開示資料も活用した。

 

 このうち、地銀、第二地銀を合わせた地域銀行のGHG排出量の把握では、Scope1、Scope2について、22年度中を含めて約7割が排出量データを把握し、削減目標の設定、目標開示を実施あるいは決めていることがわかった。一方でScope3については、目標の開示等を実施しているのは5金融機関(全体の約5%)に限られる。

 

地域金融機関のTCFD提言への取り組み状況
地域金融機関のTCFD提言への取り組み状況

 

 ただ、Scope3の16項目のうちで、「すでに実施あるいは23年度中に実施」とする回答では、把握(計測)対象において「雇用者の通勤」「出張」「購入した製品・サービス」がそれぞれ29%、28%、23%の順と高いが、その次に「投資(融資を含む:financed emissions)」(19%)が続いている。さらに「目標の設定」、「目標の開示」では、「投資」がそれぞれ13%、12%と、対象16項目の中でもっとも多い。地域金融機関でも「financed emissions」の削減と開示の必要性についての理解は一定水準あることがわかる。

 

温室効果ガス排出量の開示の状況
温室効果ガス排出量の開示の状況

 

 与信ポートフォリオを中心としたリスク管理では、カーボンニュートラルへの移行に伴う規制や技術、市場環境等の変化がもたらす「移行リスク」 や、自然災害の激甚化や気温・降水変化等による「物理的リスク」の定性評価を実施済みとした機関は、前年度は約4割だったが、22年度中にほぼ倍増して約7割強に増えている。定量評価も22年度中に体制を整えた機関が増大し、約2割から約6割へと過半数を超えている。定量評価は23年度中に実施予定の機関を含めると7割近くに高まる見通しだ。

 

 地域金融機関のリスク管理体制が急速に整備されている状況が示された一方で、気候リスク把握に伴う「引当上の工夫」については、具体的な回答がほとんどなかった。気候リスクを前提とした事業者の選定は約6割、融資方針の策定は約5割となっており、現状では投融資に対して自ら気候リスクをとって引き当てを計上するよりも、気候リスクの高い投融資先を選別する姿勢が主流になっているといえる。

 

 気候リスク把握の定量評価では各機関に専門家等が不足していることから、外部のコンサルティング等を活用する事例が多い。そうした体制の中で、移行リスクの計測の対象は、エネルギーセクターを中心とし、自行の貸出ポートフォリオの特性を踏まえたうえで、対象セクターを広げる動きがみられるとしている。特に、脱炭素化の影響を比較的受け易い自動車産業のウエイトが高い 地域の金融機関では、業種を絞って融資先の移行リスクを計測する傾向が強いとしている。

 

 物理的リスクの計測では、過去の災害時の自行の営業地域での被害実績を踏まえつつ、気候リスクの代表である水害シナリオを中心に、担保価値の下落や取引先の営業停止等の影響を計測している金融機関もみられるとしている。

 

 信用金庫の場合は、22年中に、一部の金庫でTCFD提言に賛同する動きが出ているが、GHG排出量の計測や、削減目標の設定、削減対策の策定等の取り組み割合は、いずれも全体の約2割にとどまっている。金庫の規模から、地銀等のような気候対応取り組みを十分に取れないところが少なくないとして、日銀では、系統中央機関である信金中央金庫が、信用金庫およびその取引先の気候変動対応をサポートする取り組みに期待を示している。

 

 地域金融機関の主要取引先は大半が中小企業だが、最近は国連のサステナビリティ開発計画(SDGs)への関心動向が高まっており、民間データでは中小企業のほ半数がSDGsにすでに取り組んでいるか、あるいは取り組みたいと思っている、と指摘されている。このうち、気候変動対応も約2割の関心が示されている。

 

 日銀では、こうした地域金融機関の取引先の中小企業に気候対応の取り組みへのインセンティブが高まっていることから、今後、地域金融機関が中小企業の気候対応を支援する機会がさらに拡大するとみている。地域銀行自体も、気候対応を含むSDGsへの取り組みを経営計画上の重点分野に位置付け、各種施策を推進するところが、最近では約9割に達している。

https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb230328.pdf