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2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー⑥優秀賞の第一勧業信用組合(東京)、グローバル・サステナブル金融のネットワークに初参加(RIEF)

2019-03-04 20:29:09

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 第一勧業信用組合(東京)は、サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。持続可能な経済・社会・環境への貢献を目指す国際金融組織「The Global Alliance for Banking on Values(GABV)」に日本の金融機関で初参加したことがその理由です。GABVは、国連機関等のいろんなイニシアティブとは異なり、自ら署名すれば参加できるのではなく、厳格な審査を経て参加が認められます。第一勧信が展開する地域の金融機関等とのネットワーク化による「地域創生」への貢献が認められた形です。新田信行理事長に聞きました。

 

――第一勧信の地域金融機関とのネットワーク化は金融界でも話題ですね。GABVにも評価されました。どういう経緯で、ネットワーク化が始まったのですか。

 

 新田氏:現在、国内35の金融機関と連携協定を結んでいるほか、9つの自治体とも連携しています。きっかけは2016年末でした。信用組合はシステムも同じだし、協会等でよく顔を合わせているのですが、実は、それまで思ったほど横のつながりが強くない状況でした。全国信用組合連合会や関東財務局などからも、もっと連携することを期待されていたこともあり、同年末に新潟の塩沢、糸魚川両信組の理事長に声をかけ、翌年1月にお会いして、「一緒に連携しませんか」と持ちかけたのです。

 

 小さいもの同士が連携することで、もっと地域の壁を越えた「育てる金融」ができるのではないかという思いがありました。東京23区に店舗網を持つ第一勧信の本店で、新潟県の物産を開いたり、われわれの顧客向けの粗品などを両信組の顧客から調達するなどのアイデアを出したら、両信組も合意してくれました。

 

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――手応えはどうですか。

 

 新田氏:正直、3年でこんなに広がるとは思っていませんでした。自分でもびっくりです。地方全体に、こんなに「東京とつながりたい」というニーズがあったということです。「東京発の地方創生」であり、「地産都消」です。地方の物品を、どんどん東京で売りましょう、地域のカベを金融機関の連携で破って、地方の企業に対して「育てる金融」をやろうということです。こんな“のろし”をあげたら、みんながのろしに群がってきた感じですね。

 

――口コミで広がったのですか。

 

 新田氏:塩沢、糸魚川両信組と連携したことが広がると、あちこちから「話しを聞きたい」と声がかかりました。こちらからは同年4月ころには、当時、信組でファンドを立ち上げていた我々以外の3つの信組(飛騨、秋田、いわき)に声をかけました。エクイティを持ってまで地域活性化をしようとしているところとの連携です。

 

 もう一つ、起爆剤になったのが2017年3月に始めた農業ファンドです。地方の信組に農業ファンド作りを打診したところ、当組合(東京)、北央(北海道)、秋田県(秋田)、いわき(福島)、糸魚川(新潟)、あかぎ(群馬)、都留(山梨)、君津(千葉)、笠岡(岡山)の9信組が現在参加しています。

 

――農業ファンドは今どんな状況ですか

 

 新田氏:当初の予想を上回り好調です。9信組で2000万円ずつ拠出、それに日本政策金融公庫からほぼ同額入れてもらいました。農業なので期間は長めに15年としました。最初の5年間でどれくらい需要があるかなと、考えていたら、まだ2年に達していないのに、9件1億9000万円を出資しました。この調子だと2号ファンドが必要な状況です。

 

――眠っていた地域のニーズが目覚めた感じですね。

 

 新田氏:これまでも地銀などが地域の農家と連携した農業ファンドを作った経緯はあります。しかし、実はあんまりうまくいっていなかったと聞いています。われわれの場合は、広域連携のファンドです。そして、地域の農産品をわれわれが東京の消費者につなぐのです。

 

 これまでのように地方だけでやる農業ファンドは、「地産地消」といっても地方の消費力だけでは十分な消費力につながらない。われわれが東京の消費地とつなぐ「地産都消」とすることで、農産物が売れるのです。

 

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――第一勧信にとっても、地方の新たな商品等をつなぐことで利益にも貢献するということですか。

 

 新田氏:僕らにとっての利益にはそれほどはなりません。しかし、われわれの顧客がいい食材を手にしたり、新たなメニューを作り出したりするなど、広い意味でのビジネスマッチングにもなります。

 

ーー今後はどう発展していきますか

 

 新田氏:そうこうしていると、次に行政がネットワークに加わってきました。たとえば、糸魚川市は「糸魚川モデル」といって、糸魚川市と信組がタイアップして町興しをしています。糸魚川信組が仲介する形で、糸魚川市とも業務連携することになりました。市が希望したのは、IターンやUターン等のチラシを我々のお店のロビーに置くことでした。東京への情報発信への協力です。

 

 もう一つは空き家対策です。糸魚川に点在する空き家の持ち主が東京にいるのです。両親が亡くなって土地家屋を相続した子供たちが東京にいる。そうした「東京の家主」に、われわれが話をして、空き家のリフォーム等を進めるということです。売却につながったケースもあります。糸魚川信組には地元で空き家を買う人に貸し出しができ、われわれには売却した資金が預金として入るメリットがあります。糸魚川市と連携協定を結んだ2か月後に、同市であの大火が発生しました。われわれも、大火の後の復興PTに入って、市の復興や創業支援イベントなどにも取り組んでいます。

 

――信組同士だけでなく、地銀や信組もネットワークに加わっていますね。

 

 新田氏:そうなんです。地銀と第二地銀からも、お声を掛けてもらいました。われわれが宮崎県日南市の宮崎南部信用組合と串間市などと連携したことから、地元の宮崎太陽銀行から話が来ました。現在、みちのく銀行、島根銀行、宮崎太陽、福邦銀行、さらに城南信用金庫とも連携しています。

 

 気がついてみたら、信組ではじめた連携が、地銀、第二地銀、信金、行政まで入ってきました。ここまできたら(連携したいと)来るものは全部受けようと思っています。

 

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ーー連携する経済効果はどうですか。社会貢献だけでは続かないと思いますが。

 

 新田氏:最初は一対一だった連携が、次第にハブ:アンド:スポークになり、今は面になって、ネットワーク効果が出ています。われわれの知らないところで、地方の金融機関同士が直接連携を始めている例もあります。例えば北海道の物産を九州で売ったりするケースです。それを金融機関が仲介する。遠隔地のほうが高く売れますからね。

 

 われわれのメリットは何かといえば、最初はギバー(提供者)です。ニーズがあるのだったら、喜ばれるなら、われわれはギバーになろうと。実際にネットワークの関係性ができてくると、われわれにとってもギバーだけにとどまらないと思います。必ず今度は向こうから返ってくるのです。最初は、具体的に何が返ってくるのかわからなかった。一番簡単な「返ってくるもの」は、第一勧信の名が日本に知れ渡ったことですね。政府から評価されたり、メディアにも取り上げられたり、広告費なしで第一勧信の名が広がりました。広告費の節約ですね。

 

――地域から受ける東京のメリットもありますか。

 

 新田氏:具体的なビジネスという点では、応援している地域の信組等が、東京に住んでいる地方出身者を紹介してくれるケースがあります。よく考えると、東京は地方出身者のるつぼ。郷土を応援している第一勧信を東京では応援しようということになります。われわれはそういう人たちと、一つひとつの関係性を結ぶことが組織価値になると考えていますので、地方創生を通じて、東京に住んでいる地方出身の人たちとの関係性が深まったといえます。

 

 もう一つはこのネットワークを通じて創業支援をする中で、創業を目指す人は東京だけを考えているのではないことがよくわかりました。特に若い人たちは、世界を目指す人もいるが、まずは日本地図を広げてみている人も多い。ネットで地方と何かできないかと考えているのです。こうしたニーズに応えられるネットワークを持っているのはわれわれだけだと自負しています。ネットワーク効果で、第一勧信のステータスというか、組織価値があがったと思います。

 

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――そうした活動がGABVに評価されたわけですね。

 

 新田氏:GABVのアジアの事務局長はネパール人。われわれは東京・荻窪にある、日本に住むネパール人をサポートするNPOのような会社にソーシャルレンディングをしています。その話を事務局長にしたところ、大変、喜んでくれました。日本には、インバウンドの観光客も増えていますが、働いているアジアの人も多い。今後、そうした人々とのつながりも増えるのではないかと思います。GABVの草の根のつながりが、ソーシャルビジネスをやっている人やスタートアップをしている人たちに、つながるかもしれません。

 

 こうしたネットワークはメガバンクにもありません。彼らは大きなところばかりと取引をしています。しかし、サステナブルなネットワークはGABVにはかないません。日本に住んでいる外国籍の人はある意味で金融排除されている人たちです。かれらが母国のGABV機関とつながることで、お互いに共感を持って第一勧信と取引ができるようになるかもしれません。

 

――他の地銀や大手銀行なども、第一勧信と同じようなネットワークの結成ができるのではないでしょうか。なぜできないのでしょうか。

 

 新田氏:もし私が東京を拠点とする地銀の頭取だったら、全国の地銀や第二地銀にゲキを飛ばして、「全部受けてやるから参加しろ」と言うでしょう。でもそういうことをやる人はいないと思います。もっとそうしたネットワークがあっていいと思います。われわれだけではやり切れません。こちらは小さな組合ですので、他のネットワークができることは歓迎です。

 

――緩い連携を結ぶというのは、やり易そうに見えて、実は簡単ではないようにも思えます。どうしても営業マインドが出てしまい、自分の利益を優先しがちになるのでは。

 

 新田氏:大きく言うと、現在の世界は、トランプ大統領のように分断する人たちと、つながろうとする人たちとが世界中でせめぎ合っている感じがします。日本の中でもそうです。自分のところを中心とした「地産地消」という考えも、「都民ファースト」というのもそうでしょう。こうした分断したがる動きに対して、われわれはマーケティング論でいえば、特定の関係性、インターラクティですね。これを重視しています。連携者の相互作用が共通価値の創造につながっていく。だから、関係性を結ばない限り、相手がいない限り共通価値は出てきません。自分だけではなく、相手との関係性があることがそもそも価値なのです。

 

 ヒト、モノ、カネでいうと、一番、重要視しているのはヒトです。去年あたりから、連携先の金融機関からトレーニーを受け入れています。我々の職員も出向します。最大の連携効果は、外の人と触れ合うことによる職員の成長です。信組もそうですが、よそ者、若者、馬鹿者、を排除して自分たちだけで凝り固まった組織は全部だめになります。うちは開かれています。今年は400人の職員全員を最低1週間、連携先とのトレーニーに出させたいと思っています。自分の組織を外から見ることで,認識の範囲を拡大して、わくわくするような思いが生まれる。心の成長の起爆になると思います。

                      (聞き手は 藤井良広)