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2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞インタビューシリーズ⑨三井住友信託銀行は、新規の石炭火力向け投融資の停止と、グリーントラストの開発で優秀賞を受賞(RIEF)

2019-03-08 21:25:32

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 2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞で優秀賞を得たもう一つの金融機関は、三井住友信託銀行。銀行界では最初に新規の石炭火力発電事業への投融資の停止を打ち出しました。さらに、再生可能エネルギー分野へのファンド、ボンド、トラスト機能等を活用した幅広いサステナブルファイナンス戦略を実践しています。三井住友信託銀行の経営企画部サステナビリティ推進室長、後藤文昭氏にお聞きしました。

 

 ――三井住友信託銀行が優秀賞に選ばれたのは、新規の石炭火力発電事業への投融資を、日本の銀行として率先する形で、ネガティブリストに入れた点への評価です。「脱炭素ファイナンス」に至る経緯はどうだったのですか。

 

  後藤氏:2016年に、大規模なプロジェクトファイナンスに際して環境・社会への影響を評価する赤道原則(Equator Principles)に署名する時に、すでに(石炭火力の取り扱いは)議論していました。同原則に署名した参加行がどういうセクター・ポリシーを策定しているかを調べたのです。すると、石炭や兵器製造などを除外している銀行もありました。欧米ではすでに数年前から実践段階に入っていたのです。われわれが最終的に、新規の石炭火力プロジェクトファイナンスに原則取り組まないと決めたのは、パリ協定が発効したことが大きいですね。

 

――実際に融資方針に盛り込んだのはいつでしたか。

 

 後藤氏:社内でもいろいろ議論した末に昨年3月に決めました。他の金融機関の動きや、エネルギー関連会社等が再生可能エネルギー事業にシフトしているような動きをみると、あの時の議論は何だったのかと思うくらい最近は状況が一変しましたね。多くの投資家や金融機関が石炭火力事業から距離を置き始めています。まだ日本では新規の石炭火力発電所の建設が進行しているのも事実ですが、石炭火力発電所の計画停止、ガス火力やバイオマスへの転換が起こっています。

 

真ん中の後藤氏をはさんで、池尾和人審査委員長㊨、藤井良広環境金融研究機構代表理事㊧
真ん中の後藤氏をはさんで、池尾和人審査委員長㊨、藤井良広環境金融研究機構代表理事㊧

 

 ――石炭火力以外にネガティブスクリーニングの対象にしている産業はありますか。

 

 後藤氏:現在は、新規の石炭火力発電所以外はクラスター弾の製造企業への融資を対象外としています。クラスター弾製造を投融資から除外するのは全国銀行協会の申し合わせです。

 

――OECDのガイドラインでは、超々臨界圧火力発電事業(USC)は途上国等に輸出しても構わないことになっていますが。

 

 後藤氏:OECDガイドラインも見直しされることとなっており、いつまでもUSCが認められるわけではないと思います。現在進行中の国内の小規模な石炭火力発電所計画の中は、バイオマス発電に代わるものもあると思います。

 

――明瞭な方針を先んじて打ち出したことで、三井住友信託の存在感が高まったとの見方もあります。

 

  後藤氏:ありがとうございます。ただ、融資を止めるだけでしたら、収益も落ちるだけです。そこをどうやって再エネ等への投融資を増やして、収益向上につなげていくかという課題を抱えています。すでに、東京電力なども洋上風力発電事業への取り組みを宣言しているように、今後、日本でも大規模な再エネ事業が出てくると思います。そういう事業には積極的に参画して収益機会を確保したいと考えています。

 

 今は海外での洋上風力発電事業の話がたくさん来ています。メガバンクも同じだと思います。欧州の英国の沖合や、ドイツの沖合などでの事業が多いですね。

 

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――銀行としての再エネ事業への取り組みはどうですか。

 

 後藤氏:当社は、気候変動問題への対応は、グループの企業価値と持続可能な社会の構築の双方にとって重要な課題であるマテリアリティとして特定しています。また、気候変動対応行動指針等も制定して、取り組みに注力することとしています。これらを踏まえて、再エネ関連のプロジェクトファイナンスなどを想定して、2018年9月にグリーンボンド5億ユーロ(約650億円)を発行したほか、信託機能を活用して、J-REITのグリーンビルディングへのファイナンスに資金使途を限定した融資で運用する合同運用指定金銭信託「グリーントラスト」(100億円)を組成しました。

 

  また、稼働済みの太陽光発電事業に信託機能を活用し、機関投資家の投資資金を導入する再エネ投資ファンドも立ち上げました。別途、大規模発電事業に特化した再エネファンドもあります。

 

 ユニークなのは、リース子会社の三井住友トラスト・パナソニックファイナンスが、自治体の水道施設を利用した管水路用マイクロ水力発電事業ですね。すでに全国約20カ所の自治体での導入が決まっています。現在研究開発中ですが、発電だけではなく、流水の圧力調整機能をもたせることによって漏水防止につなげられないかなどと考えています。将来は東南アジアなどの市場にも広げたいと思っています。

 

――グリーントラストは信託銀行ならではですね。

 

 後藤氏:グリーントラストだけを目指したわけではないのですが、グループの基本的な方針として定めているサステナビリティ方針の最初の項目が「事業を通じた社会・環境問題の解決への貢献」なのです。専業信託銀行として、グリーン投融資をやりたかったという思いと、信託の機能を活用したいという思い、さらに信託銀行なので不動産事業でやりたい、という思いも重なって、グリーントラストが生まれました。

 

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 ――第一号は、J-RIET向けでしたが、今年も第二号が出そうですか。


 後藤氏:ニーズはありそうです。J-RIETの各ファンドも投資不動産をCASBEEなどの認証を積極的に取得して、グリーン資産を増やしたいという動きが高まっています。グリーンボンドの発行も増えています。そうした不動産事業者の資金調達ニーズに応えるとともに、さらにPR効果を高める狙いもあって広がっていくと思います。

 

――不動産事業者にとって、グリーンボンドを発行して資金を調達するのと、グリーントラストを活用するのとでは、資金面でどう違いますか。

 

 後藤氏:グリーントラストの場合、信託受益権として販売するので、債券の投資家とは別の投資家のニーズに応えることができるという点があります。われわれは、ボンドを販売しませんので。また、条件さえ同じならば、J-RIETなどにとっては、グリーントラストの方が発行し易いと思います。われわれが相対で融資するJ-REITに貸付を実行するのですが、その原資は投資家がグリーントラストに信託する資金です。投資家から見ると資金の運用に信託銀行の目が一度入ることから、投資家によってはその方が運用しやすいということがあります。

 

――グリーントラストは今後、どう発展しそうですか。

 

 後藤氏:最近の投資不動産は、テナント誘致の競争力向上のため、エネルギー効率の高さを競っているので、信託銀行としてもグリーン不動産ファイナンスとして、グリーントラストを前面に出してやっていこうと思っています。

 

 不動産物件はトラストを使ってやりたいですね。再エネ案件はプロジェクトファイナンスで対応していきます。とにかく、ボンドでも、信託でも、プロファイでも、グリーンなもの、さらにはソーシャルなものも、増やしていきたいと考えています。

 

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――国連環境計画 金融イニシアティブ(UNEP FI)の責任銀行原則(PRB)への参加を宣言されましたね。

 

 後藤氏:9月に正式に署名することになります。PRBの活動は、機関投資家等が参加する責任投資原則(PRI)と同様のように拡大していくと思います。われわれだけがやるというのではなく、金融界全体が取り組むべきことだと思っています。グローバルに政策サイドの支援も高まっているようです。

 

 またUNEP FIが推進している「インパクト・ファイナンス」の考え方もSDGs目標の達成にどれだけ貢献できるかを測定できるので、いいと思っています。日本ではある程度普及した環境格付融資は影響をきちんと明示できる点が重要なポイントだと思います。ただ、そもそもインパクト・ファイナンスをしようと思ったら、貸手がインパクトをどういう風にとらえているかを明確にすることが前提となります。UNEP FIではインパクト・ファイナンスのガイドラインも発行し、これから普及を促進していくところです。当社はそのような議論に当初より参加して知見を積んでいきたいと考えています。

 

                      (聞き手は 藤井良広)