HOME10.電力・エネルギー |経済産業省の洋上風力発電政策の「混乱」で、日本経済新聞が「誤報」(?)。デンマークの風力大手べスタスが日経に「記事修正・削除」を要請(RIEF) |

経済産業省の洋上風力発電政策の「混乱」で、日本経済新聞が「誤報」(?)。デンマークの風力大手べスタスが日経に「記事修正・削除」を要請(RIEF)

2022-07-20 01:57:17

nikkeiキャプチャ

 

 「洋上風力発電所の建設事業で、政府が公募ルールを見直すことで、開発規模が小さくなり採算がとれないとして、デンマークの風車の大手企業、べスタスが日本での工場建設をやめる」との報道が先週末に流れた。昨年末に実施した現在の公募ルールで特定企業グループが3海域すべてを総どりしたことに伴うルールの見直しとの関連だが、当のべスタスは「事実に反する内容であり、当社は日本経済新聞社に対し、厳重に抗議するとともに、記事の修正または削除を要請する」と発表している。

 

 記事は7月16日付の日本経済新聞朝刊(電子版は同月15日)に掲載された。「洋上風車、関連産業に逆風 世界大手2社、日本戦略見直し 新市場創出に懸念」との主見出し。記事では、「政府が洋上風力発電の事業者を公募するルールを見直しており、開発規模が小さくなって採算が取れない」としている。

 

Vestasキャプチャ

 

 同記事によると、「べスタスは長崎県内に計画していた風車の関連工場の建設を取りやめた。経済産業省の補助金を建設費の一部に充てる予定だったが、このほど補助金の申請を取り下げた。スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーも発電事業者などに日本での洋上風車の供給を見送る方針を伝えた」としている。

 

 べスタスは洋上風力発電の風車市場で世界5位の大手企業。この記事に真っ向から反論する。「(公募で採用されれば)受注を受けて工場を建設する予定だったが、受注がなかったので工場建設自体は保留している。経産省の補助金には活用期限があるので、いったん辞退し、受注見込みが得られれば、また対応する考え」。記事が「日本での事業を縮小する」「(日本市場での)戦略を見直す」等とも記載している点でも、「事実に反する」と抗議している。

 

 べスタスが長崎県内で計画していた風車の関連工場の建設取りやめは3月時点で決まったことで、べスタスが説明するように、「受注を前提としていたので、受注が見送りとなったのだから建設も見送る」というのは妥当な説明だ。補助金の取り下げも同様だ。

 

Vestas002キャプチャ

 

 記事のトーンは、経産省の「安易な公募ルール」によって、初回の公募で偏った受注が起き、それを修正する今回の見直しが、またあいまいなため、外資があきれて撤退する、という図式が浮き上がる。「政府が公募ルールを見直しており、開発規模が小さくなって採算が取れない。(洋上風力は)脱炭素の有力な選択肢だが、欧州勢が日本市場を敬遠することで再エネ普及の壁になる可能性があり、収益が確保しづらくなっている」。

 

 日経は記事についての訂正を現時点(7月20日)では公表していないので、まだ「誤報」とは判断していないのかもしれない。ただ、同紙の電子版では別のシーメンスに関する記事で「訂正」をするとともに、べスタスについても「べスタスは国内の工場建設は保留するが、日本での受注機会は引き続き模索する」との表現を入れている。ここで修正したつもりなのか。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC154V40V10C22A7000000/?type=my#AAAUAgAAMA

 

 記事訂正の成否は日経とべスタスの今後の交渉を待つとして、こうした混乱を招いているのは、やはり経産省の洋上風力事業に対するスタンスにブレがあることが影響していることは間違いないだろう。

 

 欧米の風力発電事業者やメーカー等が日本市場に参入しようとしているのは、政府がエネルギー基本計画や脱炭素戦略で、市場規模に期待がもてる洋上風力発電事業について、2040年までに30~45GWという大きな目標を掲げているためだ。ところが初回の公募での募集規模は1.7GW。次回の見通しでは、公募ルールの見直しにより、規模がさらに縮んで1.2~1.3GW程度と見込まれているという。

 

 洋上風力市場はグローバル市場では大型化が進んでいる。市場関係者は、40年目標を余裕をもって実現するには、少なくとも毎回の公募での規模は3~4GWが必要、としている。しかし、初回の公募結果に対する外部の批判から、政府は中堅規模の企業も参入できるようにするほか、1つの企業連合につき参入を認める事業規模の上限を100万kWとする等の公募ルール案の改定を進めているという。

 

 CO2ゼロのクリーンエネルギー政策のはずが、中堅・中小企業対策の視点を入れたり、風力発電所を早期に運転開始する計画を提示した事業者にインセンティブを付与する等の修正案を盛り込む方向のようだ。だが、いずれも実効性に疑問符が示されている。本来は、初回の公募の際に詰めておかねばならない公募ルールを、市場の批判を受けてから「後だしジャンケン」のように取り繕おうとしているわけだから、内外の事業関係者がそろって目を丸くする「お粗末」な対応なのだ。

 

 気候変動リスクには、気候変動の激化で洪水や豪雨、森林火災等の物理的リスクの顕在化とともに、政府の政策や技術革新の進展等による移行リスクが指摘される。洋上風力発電を巡る経産省の公募ルールの短期間での変転ぶりは、まさに「移行リスク」そのものだ。日経が「誤報」と指摘されるのも、役所の方針のあいまいさが遠因ともいえる。メディアも「移行リスク」にさらされているわけだ。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC054XL0V00C22A7000000/

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220716&ng=DGKKZO62677310V10C22A7TB0000

https://www.vestas.co.jp/ja-jp