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三菱商事もロシアのサハリンⅡ開発の新会社への出資方針を決定。近く、三井物産とともにロシア側に表明へ。焦点は日本政府が参加するサハリンⅠ事業の扱いに(RIEF)

2022-08-25 17:08:00

NHK002キャプチャ

 各紙の報道によると、三菱商事は25日、取締役会を開き、同社が参加しているロシアでの石油・天然ガス開発「サハリンⅡ」事業について、ロシア政府が大統領令に基づき今月設立した新会社の株式を取得し、参画する方針を決めたという。同じく同事業に参画している三井物産も参加を決めており、両社は近くロシア政府に通知する。焦点は、別途、日本企業と経済産業省が参加している「サハリンⅠ」事業への対応に移る。

 NHKが報じた。「サハリンⅡ」についてはロシアのウクライナ侵攻後、事業の中核となってきた英シェルが撤退を表明、事業の再構築が求められていた。ロシア政府は今月5日、これまでの運営会社の「サハリンエナジー社」から事業を引き継ぐ新会社を設立し、従来からの参加企業の日本の2社に対して、新会社への参加を1カ月以内に通知するよう求めていた。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220825/k10013786811000.html


 すでに三井物産は参加を決め、今回、三菱商事も歩調を合わせたことになる。両社とも、同事業による天然ガス開発の権益維持を最優先する形だ。事業継続については、経産省が両社を強く後押ししてきた。西村経産相は17日、三菱商事の中西勝也社長と会談し、新会社への参画を前向きに検討するよう要請した。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220817/k10013775231000.html

 西村経産相は会談後、記者団に対して、「現時点でロシア側から契約締結を困難にさせるような、新たな条件などが提示されたとは聞いていない。三菱商事としては私からの要請も受け止めていただき、ロシア側の決定の内容を精査したうえで、検討を急ぎたいということだと思う」と述べたという。


 さらに「官民一体となってこの権益を守っていけるよう、政府としてしっかり応援したい」とした。同相の発言からは、サハリンⅡの権益維持に加えて、サハリンⅠ事業のロシア政府による国有化への対応も意識しているように受け止められている。

サハリンⅠと同Ⅱの開発地域と出資企業
サハリンⅠと同Ⅱの開発地域と出資企業(NHKより)

 

 サハリンⅠ事業は、同じくサハリン北東海域で石油・天然ガスを開発する事業だ。ロシアのウクライナ侵攻後、米メジャーのエクソン・モービル社が撤退を表明している。同事業には、エクソンのほか、ロシアの国営石油会社ロスネフチとその子会社、インドの国営石油会社、日本の「サハリン石油ガス開発(SODECO)」が参加している。SODECOは政府(経産省)が50%出資、伊藤忠、丸紅、石油資源開発等が残りを出資して設立した官民合同会社だ。https://rief-jp.org/ct4/127619?ctid=72

 この場合、焦点となるのがSODECOの対応だ。すでにロシアの報道では、サハリンⅠも国有化の方向を示唆している。サハリンⅡと同様に現在の出資企業に再出資を求める場合、民間2商社が出資者のサハリンⅡとは異なり、SODECOの最大出資者である日本政府の対応が問われる。エクソンの同事業からの撤退は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う西側の経済制裁に伴うものであり、日本政府も制裁に同調しているためだ。https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-russia-sakhalin1-idAFL1N2YO0GV

 にもかかわらず、ロシアの要請に応じて、SODECOもサハリンⅠの新会社に再出資するとなると、経済制裁の足並みを乱すものと受け止められかねない。まさに、プーチン政権の両事業の再編成はそうした狙いにより、西側の参加企業に「踏み絵」を迫るものでもある。一般企業の場合は企業判断が優先されるが、これが政府出資のSODECOの場合、どう評価されるのか。

 サハリンⅠでは天然ガスも産出はする。だが、日本の輸入分の大半は石油だ。日本が輸入する原油のうち、サハリンⅠの比率は1.5%(2021年)に過ぎない。サハリンⅡからのLNG輸入割合9%に比べ、緊急性に欠けるのは間違いない。しかし、政府、特に経産省は、サハリンⅠの権益維持も目指しており、サハリンⅡへの出資継続を経産相が直接、2商社に働きかけたのは、両事業を一体として維持していく狙いに基づくとみられる。

 経産省のこうした方針は、ロシア側には歓迎されるだろうが、果たして、米国を含む西側諸国の理解を得られるだろうか。日本政府はむしろ、ロシアのウクライナ侵攻を早期に終結させるための外交努力を発揮し、両国の関係が正常化に向かう中で資源開発の位置づけを再構築するべきではないか。 西側諸国の間で「ロシア寄り」とのラベルを貼られないように願いたい。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220825/k10013786811000.html