HOME10.電力・エネルギー |米ローレンスバークレー研究所チーム。2035年に日本のエネルギーシステムを90%クリーンエネ化可能と報告。電力コストも低下。クリーンエネには原発20%、60年超運転を前提(RIEF) |

米ローレンスバークレー研究所チーム。2035年に日本のエネルギーシステムを90%クリーンエネ化可能と報告。電力コストも低下。クリーンエネには原発20%、60年超運転を前提(RIEF)

2023-03-02 16:01:14

Climate Integrateキャプチャ

 

 米ローレンスバークレー研究所の研究チームは、化石燃料火力発電に依存度の高い日本のエネルギーシステムを、太陽光、 風力(特に洋上風力)等の再エネ発電の導入と、蓄電池技術のコスト低下によって、2035年に発電に占めるクリーンエネルギー電力の割合を90%にまで高められるとの報告を発表した。再エネを主電源とすることで電力コストは6%削減できるほか、 液化天然ガス(LNG)と石炭の輸入依存をほぼ完全に解消し、電力部門からのCO2排出を劇的に削減できるとしている。

 

 研究チームは同研究所およびカリフォルニア大学バークレー校、京都大学等の研究者で構成した。太陽光や風力等の再エネ発電は、日照や風力等で発電量に変動が生じることから、「再エネを主電源化した際の電力システムの信頼性には、長期にわたって議論が続いてきた」と指摘。その課題を解決するため、同研究では、再エネの導入と蓄電池や地域間連系線の新設を加速したうえ、既存の火力発電の一部も活用することで、「90%クリーンな電力シス ム」を整備、日本の電力需要を満たし得る、としている。

 

 蓄電池設備は116GWh(29GW)を導入、地域間連系線を11.8GW新設する。これに出力調整可能な水力発電、揚水式水力発電、LNG火力を組み合わせることで、再エネによる発電量が低い時や電力需要が高い時でも、経済的に需給バランスを保ちつつ90 %クリーンな電力システムを運用できるとしている。報告書が示す クリーンエネルギーシナリオは、太陽光と風力を中心とする再エネが2035年に年間発電電力量の70%を占める。残りは原発20%、LNG火力10%とする。

 

 再エネ導入による電力コストへの影響については、2020~2035年に平均で年間10GW増加させると、平均卸電力費用を2020年水準から6%削減できるとしている。卸電力費用には、発電及び蓄エネの費用と、地域間連系線への追加投資を含む。炭素の社会的費用(SCC)も考慮すると、クリーンエネルギーシナリオでは、SCCをトン当たり12,980円、割引率2.5%の場合で卸電力費用は2035年には 2020年と比べ36%低下するとしている。

 

 化石燃料発電主導から再エネ発電主流に切り替えることで、発電用の石炭やLNG等の化石燃料の輸入費用が2020年の3.9兆円から2035年には5900億円へと85%減少する。2019年度に発電量の32%を占めた石炭火力発電は2035年までにゼロになり、化石燃料を使用する火力発電所の新設は行わないとしている。

 

 ただ、同シナリオの論点としては、原発を含めて「クリーンエネルギー」としている点のほか、その原発については政府が打ち出した運転期間の60年延長シナリオをそのまま援用している点がある。米国では原発は一定の電源として位置付けられていることをそのまま応用したわけだろうが、日本のこれまでの原発事故歴や不祥事、さらに行き詰まっている東京電力福島第一原発の処理水や廃炉処理等の課題に触れずに、クリーンエネルギー・再エネの費用論を展開するのはどうか。

 

 再エネの課題である変動性をカバーするため、蓄電池設置や地域間連系線の導入・新設で需給調整力を向上させる点に異論はないとしても、それぞれの設備を電力会社の発電側に設けるのか、送配電側に設けるのかについての詰めた議論は示していない。現行の電力網は大手電力主導体制のままであり、政府の発送電分離策も機能していないことが最新の不祥事で露呈している。

 

 大手電力中心の電力政策の抜本転換と、大手電力各社の経営改革、発送電分離の徹底化等の経営面の見直しを伴わずに、再エネ、蓄電、連系線等の技術面の導入をアピールしても、日本政府案の「焼き直し」にとどまるリスクがある。

https://climateintegrate.org/wp-content/uploads/2023/02/Policy-Change-to-Trigger-a-Shift2035_JP_ver.1.pdf

https://emp.lbl.gov/publications/2035-japan-report-plummeting-costs