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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑩地域金融賞:山陰合同銀行。銀行自らが再エネ子会社設立。銀行法改正による高度化子会社第一号(RIEF)

2023-02-28 16:46:52

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写真は、第8回サステナブルファイナンス大賞授賞式で、授賞内容の説明をする山陰合同銀行取締役専務執行役員の井田 修一氏)

 

  山陰合同銀行は地域の脱炭素化促進のため、地域の再生可能エネルギー事業者等への融資に加えて、自ら再エネ事業の子会社を立ち上げ、再エネ事業の牽引に乗り出しました。サステナブルファイナンスを手がけつつ、サステナビリティ事業も手掛ける決意と実践活動を評価して、第8回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞に選びました。同行の経営企画部サステナビリティ推進室調査役の門脇亮介氏にお聞きしました。

 

――銀行は通常、再エネ分野でも同事業を手掛ける企業への融資活動が中心ですが、山陰合同銀行の場合、自ら子会社として再エネ事業を手掛ける「ごうぎんエナジー」社を立ち上げられました。再エネ事業に進出された狙いを教えてください。

 

  門脇氏  :  脱炭素化、カーボンニュートラルの動きは、地域にとっても非常に大事なテーマで、ある種、危機感を持っていたというのが背景にあります。地域において、この取り組みを加速していかないと、地域の産業競争力が弱ってしまうのでは、という危機感です。その中で、再エネが地域に潤沢に供給されることが重要だと、われわれは銀行として考えていました。

 

 現状の課題としては、当行が地盤とする山陰地方では、再エネの電源が少なく、発電事業者も多くが県外資本でした。そこで発電した電力は固定価格買取制度(FIT)による売電が多いので、再エネ電力自体が県外に流出し、脱炭素の経済的価値も流出していました。地域での地域内循環、エコシステムができていない、という課題感がありました。

 

 銀行として、当然、地域の再エネ事業者の活動をファイナンスで応援するという側面はあります。ですが、われわれの地域には、牽引役となる事業者が必ずしもたくさんいるわけではない。そうであれば、われわれも一つの事業者として自らリスクテイクをして、地域の再エネ化を牽引できる会社を立ち上げ、地域全体の再エネ発電を増やしていこうとの考えに至りました。銀行のトップもそうした考えを推進してくれましたので、推し進めることができました。

 

門脇氏
門脇亮介氏

 

 ――銀行法の改正で、銀行に高度化子会社の設立が認められました。「ごうぎんエナジー」は再エネ発電を主な事業とする高度化会社の第一号になりましたね。法改正が決断のきっかけですか。


  門脇氏   :  再エネ子会社の設立を考えたのは、法改正と同じようなタイミングだったと思います。ただ、われわれは必ずしも高度化子会社ありきではなく、同子会社の設立が出来なくても、様々な形を考えて、再エネ事業に取り組もうという方向性ではありました。

 

――銀行自らが再エネ事業に取り組むということは大きな決断ですが、実際にやるとなると人材の問題もあります。融資ならば銀行には豊富な人材がいますが、再エネ業務や電力事業の経験者は普通、銀行にはいませんよね。人材の育成とか、金融のセールスとは違った、電力のセールス等も必要になりそうです。どう対応してきたのですか。

 

  門脇氏   :  当然、当初からそういう人材が銀行の中にいたわけではありません。その点では、今でも、少し悩みながらやっているところです。ただ、従来でも、子会社設立前から地域の脱炭素化支援として、地域の新電力会社への出資や、自治体との連携等に取り組んでいました。そういう取り組みを通じて、銀行の中にも、多少はそういう知見を持つ人材がいました。また早い段階から地域の新電力企業や、銀行の取引先でもあるEPC(設計、調達、建設)関連事業者とのつながりを深めており、それらの企業等と連携することで、自社で不足するノウハウを補ってきました。今後、外部から専門人材を登用することも検討しています。スピード感をもってやるためには、自社で必要な人材を抱えることは大事だと考えています。

 

 ――ごうぎんエネジー社が、米子市と境港市の脱炭素シティに取り組むわけですね。

 

  門脇氏  :  同事業は、環境省が募集した脱炭素先行地域プロジェクトの第一回公募で、昨年春、米子市・境港市、当行と地域の新電力事業者のローカルエナジー社の4者が共同申請して採択されたものです。計画では、両市の公共施設、約600施設の屋根や空いている空間を使って、主に太陽光発電設備を設置します。発電した電力は、各公共施設に対してPPA(電力販売契約)で供給するという計画です。

 

――いつごろに稼働しますか。

 

  門脇氏   :   昨年前半に採択され、今は実際のアクションプランを策定している段階です。早ければ2023年度から順次、太陽光発電設備の稼働が始まる予定です。

 

――「ごうぎんエナジー」が取り組む一番大きな事業ですか。

 

  門脇氏   :  そうです。規模としては大きいですね。同時並行的に、銀行の取引先企業からの問い合わせをたくさんいただいています。お取引先企業も、使用電力を再エネ電力に切り替えてCO2排出量を減らしたいという、脱炭素化を進める課題の中で、「ごうぎんエナジー」と一緒にできないかという問い合わせが相次いでいます。延べで120件ほどあります。地域全体で見ると、案件規模としては米子境港のプロジェクトが現状一番大きいですが、企業自身による個別の取り組みもたくさん出て来ているのです。

 

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 民間企業への再エネ電源の供給としては、一番シンプルな形は、オンサイトでPPAによる電力供給(取引先企業内で発電設備を設置して供給する方式)を想定しています。たとえばオフサイト(離れた地域で発電した電力を送配電する方式)だと、小売電気事業者との連携のほか、地域の新電力企業、あるいは送配電網を持つ地域の大手電力(中国電力)等と連携も必要になってきます。

 

――自治体等の広域連携での再エネ電力供給と、個別企業のPPAニーズの両面に対応していくということですね。

 

  門脇氏  :  そうです。設備投資は、いつまでにということはないのですが、当面のところ、50億~100億円くらいを想定しています。投資する再エネ事業は、今のところ、リードタイムが短くて、取り組みやすく、スピード感を持って取り組める太陽光発電をベースに進めています。ただ、山陰地方は、中山間地域も多いので、地域によっては小水力発電やバイオマス発電等も検討対象になります。また、少しハードルは高いですが、周辺には日本海もあるので、今後、洋上風力も研究をしながら取り組みを進めていきたいと思っています。地域の特性に合った電源を開発していきたいですね。

 

――外からみていて、少し気になるのは、地元の新電力企業と、「ごうぎんエナジー」はある意味で競合する関係にあります。地元の新電力企業にすれば、「ごうぎんエナジー」と連携の可能性がある一方で、ある面ではライバルになる可能性もあります。

 

  門脇氏   :  そういう風な見え方も当然、あると思います。ただ、われわれの地域の新電力企業の多くは、自ら安定した大規模な自主電源を持っているところは少ないのが現状です。そうした課題の解決策として、たとえば、「ごうぎんエナジー」が発電した再エネ電力を地域の新電力会社に卸売りするモデルも合わせて考えています。「ごうぎんエナジー」が個人宅等の不特定多数の電力需要家に小売りをしていくモデルではなく、地域の新電力にとってベース電源となる再エネ電力を整備し、提供していくという構想をもっています。

 

――山陰合同銀行本体として、地域経済全体の脱炭素化を推進していくために、どのような戦略を立てていますか。

 

  門脇氏  :  脱炭素化は、非常に大きなチャンスだととらえています。これまでは、本業での融資や、取引先企業に対するコンサル業務等に力を入れてきましたが、そういった支援に加えて、「ごうぎんエナジー」のような専門会社というか、事業会社を作って脱炭素の新事業に参入することも、今後も可能性があれば、どんどん考えていきたいと思っています。

 

――取引先企業に対してファイナンスだけではなく、事業も提供できるということですね。

 

  門脇氏   :   いずれにしても、当然ですが、銀行だけで地域で何か大きな事業ができるとは考えていません。自治体や地元の取引先と、いろんな形での「協業」ができるような仕組みを、一緒になって考えていくとが大事だと思っています。

 

――銀行では、これまでも鳥取県の森林クレジットの仲介業に取り組んで来られていますね。環境金融研究機構(RIEF)のサイトでも何度が紹介しています。同事業の手応えはどうですか。

 

  門脇氏   :  クレジットの仲介は、J-VERの時代から始めており、もう12年にもなります。特に、ここ1~2年では、取引先の意識が高まったこともあり、取引量は大きな伸びを見せています。仲介実績は累計ですが、これまでで約8000㌧になります。このうち、直近の2年間で3000㌧以上を取り扱っています。事業者の脱炭素意識が急速に高まっていることの現れだと思っています。

 

 クレジットの購入企業の多くは山陰地方を地盤とする企業です。現在、われわれが扱っているJクレジットは森林吸収源由来のクレジットがメインで、地元の森林、山林から生み出されたものです。地域の企業、事業者の方々からは、地域の森林、山林を守ることならば、自分たちも取り組みたいという声が出ています。

 

――県有林以外の私有林からも、カーボンクレジットの創出需要はありそうですね。

 

  門脇氏   :  私有林から創出されるクレジットについても、民間事業者との間でビジネスマッチング契約を結んでおり、そうした私有林で創出されるクレジットの販売仲介も行っています。仲介手数料は大きな金額にはなりませんが、銀行にとって、少しでも経済性を伴う仕組みとすることで、継続的な取り組みとなるよう意識しています。

 

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――再エネ子会社事業以外で、銀行として取り組んでいる主な脱炭素政策を教えてください。

 

  門脇氏   :   われわれにとっては、取引先企業の方々や地域の脱炭素を後押しするというのが一番大きなミッションですが、そうした取引先等の取り組みを推進する前に、ごうぎんグループとしての脱炭素の取り組みや環境負荷低減の取り組みを進めていかねばならないと考えています。

 

  そうした取り組みの一つとして、昨年11月に新築移転した営業店舗をZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)店舗として開店させました。また、3月に新たに新築移転させる店舗もZEB店舗にします。銀行が率先して脱炭素化に取り組むことで、われわれの取り組み姿勢を地域の取引先の方々にも伝え、地域全体で脱炭素の取り組みを推進していきたいと考えています。

                        (聞き手は  藤井良広)