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原発事故は「安全神話依存の結果」と政府事故調委員長(Reuters)

2012-07-23 22:16:27

7月23日、東京電力福島第1原子力発電所について、政府の事故調査・検証委員会は、地震によって原子炉圧力容器などの重要機器に深刻な損傷が生じた証拠はないとの見解を示した。写真は同原発3号機。2月撮影(2012年 ロイター/Issei Kato)
7月23日、東京電力福島第1原子力発電所について、政府の事故調査・検証委員会は、地震によって原子炉圧力容器などの重要機器に深刻な損傷が生じた証拠はないとの見解を示した。写真は同原発3号機。2月撮影(2012年 ロイター/Issei Kato)


[東京 23日 ロイター] 東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原子力発電所について、政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)は23日、最終報告書をまとめ、地震によって原子炉圧力容器などの重要機器に深刻な損傷が生じた証拠はないとの見解を示した。

畑村委員長は同日夕の記者会見で「安全神話に依存して推進してきた結果が今回の事故に見える」と強調した。

畑村委員長は「利便と危険のバランスを考えることが大事。危険を議論できる文化の醸成が日本は不十分だった」と事故発生を防げなかった風土の存在を指摘。報告書末尾の委員長所感で「政府を始めとした関係機関が継続的に調査・検証を行っていくことを強く希望する」と要望した。

国会の事故調査委員会(黒川清委員長)が「自然災害ではなく明らかに人災」と指摘したが、政府事故調はそのような踏み込みは行わなかった。畑村委員長は会見で「人災、天災とレッテルを貼った途端に理解しやすくなるが、違ったことを考えなくていいという副次的なことが起こるなら、そうした考え方は危険だ」と語った。

<地震による重要機器の損傷、可能性を否定>

国会事故調が地震の影響の可能性は排除できないと指摘したが、この点でも政府事故調は見解が一致しなかった。政府事故調報告書では、原子炉で核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)が起きた1─3号機について、地震発生から津波到達までの間に、圧力容器の放射能閉じ込め機能を損なうような損傷が生じていた可能性を否定した。同様の損傷が1─3号機の格納容器に生じていたかどうかについても「認められない」とした。1号機の非常用復水器(IC)ついても「地震発生から津波到来までの間、配管および復水器タンクに冷却機能を喪失させるような損傷が生じていたとは認められない」と指摘している。

2号機と3号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)についても、「地震発生直後から作動していることから、重大な損傷が生じていた可能性は否定される」(2号機)、「流量が制御されながら作動しており、注水機能に影響を及ぼすような損傷はなかった」とした。このほか、高圧注水系(HPCI)の地震影響についても「注水機能を喪失するような損傷が生じていた可能性は低い」(1、2号機)「機能に影響が及ぶような損傷が生じた可能性は否定される」との見解を示した。

東電が6月にまとめた事故の調査報告書でも「安全上重要な機能を有する主要な設備は、地震時及び地震直後において安全機能を保持できる状態にあったと考えられる」とした。一方、国会事故調では、1)独立行政法人原子力安全基盤機構の解析結果は小さな配管破断などの可能性を示唆、2)1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていた、3)1号機の主蒸気逃がし安全弁は作動しなかった可能性を否定できない──などとして「特に1号機の地震による損傷の可能性は否定できない」と指摘しており、見解が分かれている。政府事故調と国会事故調はともに調査継続が必要だとしており、地震影響に関する解明作業が引き続き課題となりそうだ。

<東電、原因究明の熱意が不足>

東電が福島第1原発から全面撤退を考えていたかどうかは、東電が来年春に目指している柏崎刈羽原発の再稼働にも影響を与えかねない重要な問題だ。政府事故調の報告書は、東電社内のテレビ会議の録画内容を確認した上で、「清水社長(当時)や東電の一部関係者において全面撤退をも考えていたのではないか、という疑問に関しては、そのように疑わせるものはあるものの、当委員会として、そのように断定することはできず、(必要な人員を残す)一部退避を考えていた可能性を否定できないとの結論に至った」と指摘した。

一方、報告書は「東電が事故から1年以上経過してなお、事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない」と批判した。東電が今年3月に公表した、炉心損傷、圧力容器の破損などに関する解析調査について、「一部不都合な実測値を考慮に入れず解析結果を導いた」などと指摘。柏崎刈羽原発の地元、新潟県の泉田裕彦知事が再稼働に対して厳しい姿勢を示している中、東電は政府事故調が指摘した点について改善が必要となりそうだ。

報告書は規制機関、特に保安院に対しては、1)今回の事故対応で事業者からの情報収集の機能を適切に果たすことができなかった、2)原子力事故の未然防止について、国内規制に関する中長期的課題に十分に取り組むことができず、結果としてシビアアクシデント対策を事業者に的確に実施させることができず、所掌にふさわしい役割りを十分に果たしてきたとは言い難い──などと問題点を指摘した。ただ、国会事故調が「規制当局は電気事業者の虜となっていた結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」と印象深い表現で強い批判をにじませたのとは対照的に、政府事故調の規制機関に関する記述は淡泊な印象がぬぐえない。

<福島で終わりではない可能性>

畑村委員長は448ページにわたる報告書の末尾で、放射線量の高さにより原子炉周辺の立ち入りが不可能なことから、「起こった事故の事象そのものについて解明できていない点も残った」と明らかにした。1─3号機や多数の使用済み核燃料がプールに保管されている4号機の現時点における耐震性についても「強い関心が寄せられているが、時間的制約から調査・検証を行うことはできなかった」としている。

「失敗学」を研究対象とする畑村委員長は報告書での所感で「思い付きもしない現象も起こり得る」と指摘したが、今後、福島以上の事故が起きる可能性について問われると、「個人的な所感だが、福島で起きたことでひどい事故はあの種類で終わりではないと思っている。ヒューマンエラー、システム、自然災害の3つの分類の次に危ないと思うのは人間の悪意ではないか」と語り、核を使ったテロの可能性を想像する必要があると示唆した。

政府事故調は昨年12月に中間報告をとりまとめた。中間報告では不十分だった原子炉の中で事故がどのように進展したかなどについて最終報告で可能な範囲で分析したが、東電や原子力安全・保安院において津波・シビアアクシデント(過酷事故)対策が不適切であったなどとする中間報告の指摘の多くに変化はない。同委員会は、東電、保安院、原子力安全委員会、菅直人前首相ら事故発生当時の閣僚など関係者772人からヒアリングを行った。

(ロイターニュース、浜田健太郎)

 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE86M03K20120723