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波力発電、実用化に前進−コスト・安全対策 勝負の時 (日刊工業新聞)

2016-01-04 23:25:09

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 波のうねりに伴う海面の上下動などを利用する波力発電。その実用化への期待が一段と高まってきた。

  日本近海では現状の技術で540万キロワット分の導入が可能と試算され、政府は脆弱(ぜいじゃく)なエネルギー需給構造の改善に寄与する技術としてエネルギー基本計画に「研究開発の推進」を明記。2015年に行われた一部の実証実験では、政府が掲げるコスト削減目標の達成の見通しを得た。発電効率を大幅に高める次世代技術の開発も進んでいる。(葭本隆太)

【空気タービン式実証−発電単価の政府目標達成】

 

 

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■装置費を圧縮

「実用化を見込めるデータが得られた」。山形県酒田市の酒田港で15年9月に終えた実証試験について、エム・エムブリッジ(広島市)技術部エンジニアリンググループの木原一禎部長代理はそう力を込める。同社が東亜建設工業などと共同で開発した波力発電装置は空気タービン式。海面の上下動を利用して空気の流れを作り、その空気の力でタービンを回す。同1月に稼働し、目標の出力15キロワットを上回った。実験結果を基に事業化時の発電単価を試算すると、1キロワット時当たり39円。政府の目標である「1キロワット時当たり40円以下」を達成できる見通しだ。

既存の護岸などで構造の一部を代替する設計にして装置費を大幅に圧縮。特殊なタービンの採用などにより、発電効率も高めた。

今後、実験データを詳細に検証。その上で発電単価の高さから一定の需要が見込める離島で導入を目指す。50キロ―100キロワットの実用化規模の装置が設置できる海域を探す。

 

【日本近海、540万kW分導入可能】

  • 次世代制御技術を備えた波力発電装置のイメージ(東大提供)

  • ■NEDO、1kW時当たり20円以下目指す

    波力発電の開発はコスト抑制との戦いだ。その歴史は古く、オイルショックによる石油危機を背景に1980年前後から本格化。複数の実証試験が行われた。ただ、発電単価は1キロワット時当たり100―数百円に上ったという。その後、原油価格が落ち着いたこともあり、採算の見通しが立たなくなり、一度は頓挫した。

    転機となったのは、00年代の後半。地球温暖化対策として再生可能エネルギーが注目されたためだ。東日本大震災の発生後、その期待はさらに大きくなった。

    波力発電への取り組みも見直され、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は実用化を促進する事業を11年度に開始。16年度以降の事業化時に「1キロワット時当たり40円以下」を見込む装置の実証を目標に掲げた。コスト抑制の難しさを踏まえ、発電単価が高い離島で導入できる価格水準に設定。実用化への突破口と考えた。

 

■系統電力見据え

  • NEDOの事業では将来の系統電力への接続を見据え、「1キロワット時当たり20円以下」を目指す次世代技術の開発も進む。岩手県の釜石・大槌地域産業育成センターは東京大学などと共同で発電効率を大幅に高める技術の開発に取り組む。

    沖合にフロート(浮き)を浮かべ、海面の上下動に伴う浮きの動きで発電する。直前までの海面などの状況から10秒後の海面の動きなどを予測し、その周期に合うように浮きを制御。海面の上下動に共振させてエネルギーを最大限引き出す。

    ただ、浮きの制御には電力を使う。浮きがもともと持つ揺れやすい周期と海面の周期に大きな差があると、その差を埋める制御には大きな電力が必要で、装置が発電する電力量を上回る場合がある。このため、海面の上下動が大きく周期が長い時は合わせないなど、最終的な出力が最大になるよう制御する。

    同センター海洋エネルギーセンター室の黒﨑明顧問研究員は、「制御技術の採用により従来の3倍以上の発電効率が見込める」と胸を張る。低コストな装置の設置手法なども構築し、組み合わせると、量産時に1キロワット時当たりの単価が20数円に抑えられる見通しという。今後は装置の開発などを進め、17年度に実海域で実験する。

    【送電費用、検証が必須】

    • 岩手県久慈市で実証実験を行う波力発電装置のイメージ(東大提供)

    ■東大、今夏から実証開始−既存の電力網活用

    波力発電を実用化する際のコストは、装置費などに加えて、送電費用を考慮する必要がある。送電網がない場所に設置して系統電力に接続する場合、送電網の整備に多大な費用がかかる。NEDO事業は装置開発が主題のため、送電費用を含まない価格で発電単価の目標を掲げるが、実用化する上でその検証は欠かせない。

    ■初めて接続

    東大生産技術研究所の林昌奎(リム・チャンキュ)教授、丸山康樹特任教授らは、送電費用を抑制した実用化モデルの構築を目指す。漁港の沿岸に設置し、既存の送電網を生かす。岩手県久慈市の漁港に出力43キロワットの試験装置を設置し、今夏から17年度まで実証実験を行う予定。

    鉄板で波を受け、振り子運動により発電する。電力の一部は漁港で消費し、残りを売電して装置の建設費に還元する構想。久慈市の実験では「国内の波力発電装置として初めて系統電力に接続する」(丸山特任教授)。

    実証後は装置を3台連ねて、出力150キロワット以上の発電設備を構築する。神奈川県平塚市で19年度以降に実用化規模の装置として実証する考え。

    温暖化対策や国産のエネルギー資源としての有用性に加えて、被災地の復興を下支えする新産業として、海洋エネルギー利用への期待は高まっている。波力発電の研究開発では一定の成果が出始めたとはいえ、装置の長期的な安全性確保など克服すべき課題は依然多い。実用化への道のりをどこまで具体的に描けるのか。勝負の時を迎えている。

    http://www.nikkan.co.jp/articles/view/00369641?isReadConfirmed=true